影と日の恋綴り | ナノ
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 思い出す

お父さんの言葉を待つ。

「なんで、と言われてもなぁ…」

返ってきたのは困った言葉。いつの間にかお父さんはあたしの手を離していて、気難しそうな顔をしていた。
そんな顔をするつもりはなかったのに…。

「…簡単に言えば、放っておけないから…だな」
「え……」

耳を疑った。お父さんは今何て言った?放っておけない?なに言っているの?
期待してしまう。

「お前が、緋真と被ってな…。関わらないのが一番いいはずなのに、なんでかついつい気にかけてしまうんだよ」
「っ…そんなの、あたしを利用しているようなものじゃ、」
「そうだな。一言で言えばあんたを利用しているかもな」
「っ…」

お父さんの言葉は妥当だ。あたしを利用しているのは分かってる、けど、それでもあたしを気に掛けているのは嬉しい。心と頭が矛盾している。

「…だからこそ、見捨てる事ができねぇんだ」
「ぇ…」

お父さんはポツリと、そう言った。空耳だと思ったけど、それは空耳ではなくて本当にお父さんが言ったようで、あたしのほうを真っ直ぐ見ていた。
やめて、見ないで…そんな目で見ないで…。

「…なぁ」
「っ…は、い……」
「なんで、俺の娘は命を捨ててまで俺を助けたと思う?」

突然、お父さんはそんなことを聞いてきた。
あたしが、お父さんを助けた理由?
それはさっきまであたし自身が思っていた疑問。それをお父さんまで思っていたことなんて思いもしなかった。
なんで助けたんだっけ?
夢と現実がはっきりとなるように仕掛けられた話を、身を挺してまでお父さんを助けて原作を壊したあたし。
何故?
自分はもっと人生を歩めたはず、それなのに省みずにお父さんを突き倒して庇って死んで…
なにがしたかった?

「……」

ちらり、とお父さんを見た。あたしの視線に気付いたのか、お父さんは優しい眼差しであたしを見て笑ってくれた。
その微笑みに、暖かい何かに、ようやくあたしは理由を思い出した。

「…ただ、守りたかった」
「?」

あたしがぽつりと言った言葉に、お父さんは疑問符を頭に浮かべた。それを無視して、あたしはぽつり、ぽつりと思い出すかのように言った。
お父さんを、守りたかった理由を。

「貴方が大切な存在だったから、身を捨ててまで助けたかった…」

お父さんの優しい眼差しが大好きで、お父さんが大好きだからあたしは救いたかったんだ。

「人は、失ってから大切な物だと気付くときがある。だから、失う前に守りたかった…。後悔しないために、守った…」

そうだよ、あたしはただ守りたかったんだ。自分の身を捨ててまで、あたしはお父さんを守りたかったんだ。原作なんか関係なく、ただ自分の大切な人だったから、お父さんを助けたんだ。
なんでそんなことを忘れていたのだろうか。

「守るには、色々なやり方があります。自分の身を捨てる守り方、相手を傷つけて守るやり方、自分を守るやり方…。その中で、一つしか思い浮かばなかった…」
「……あんた、」
「って、あたしが言っても意味ないんですけどね。ちょっと、でしゃばってしまいましたね」

お父さんが何か言う前にあたしは、雰囲気をガラリと変えてお父さんに謝った。エラそうに言ってしまった…。つい、あの頃の自分を思い出したからあの頃の心情をそのまま語ってしまった。
けど、自分がお父さんを助けた理由が思い出すことが出来た。

「奴良君のお父さん、ありがとうございました」
「は…?」
「あたしの悩んでいた事がすっかり解消されました!気分がずいぶんと楽になりました!!」

本当に、感謝してる。お父さんをまた見ることが出来て、リクオを守る事が出来て、燈影ともまた会えて、つららや青たちの顔が見れて、自分はまだやるべき事があるのだと、誰かに言われたように聞こえた。

「あ、此処まで大丈夫です!本当にありがとうございました!」
「あ、あぁ…。気にするな」
「…それでは失礼します。おやすみなさい」
「あぁ、おやすみ……」

家の近くの十字路で、お父さんと別れてあたしは家に着いた。いつもより遅くに帰ったけど、それでも今日はとても有意義なものへとなった。

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