影と日の恋綴り | ナノ
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 赤の他人

自分がどうこうしたって、結局は原作になってしまう。結局はリクオがカナさんを助けたということになってしまう。
自分は別に必要な存在ではないということになる。

「……っは」

乾いた笑みしか出来なかった。自分がバカらしく思えて、そんでもって過信して天狗になっていたつもりになっていたあたし。

「…勘違いにも、ほどがあるでしょ」

自分一人の力で出来るなんてお門違いだ。全て、自分が関わっているんじゃないんだ。
お父さんを助けたのだって、ただ…。

「…ただ?」

なんだったっけ?
お父さんを助けた理由って、何でだったのかな?助けなかったら、あのまま原作通りにお父さんは殺されていた。傍観として世界に居座るつもりじゃなかったっけ?
なんで、助けたんだろう。

「…本当に、あたしって馬鹿なのかも」

理由も分からないで、自分の命と引き換えにお父さんを助けたあたし。あんなに必死に走って、お父さんを突き倒して、身代わりに死んだのって、どうしてだっけ?
嗚呼、なんか分かんないや。

「…考えるのに、疲れたのかな?」

ただ、あの時は必死だったのは覚えている。何で必死になったんだっけ?
それさえも分からない。

「……自分に呆れるわ」

馬鹿さ加減に。

「………」

だいぶ静かになり始めた街道を、あたしはトボトボと歩いていた。通り過ぎる人々は、無関心で自分の事いっぱいで歩き去っていく。
そう、他人の事なんて興味ないとでもいうように。

「なんで、だろ」

何で、お父さんを助けたんだっけ?
この疑問がぐるぐると渦を巻いてあたしの中で占めていた。理由が見当たらなかった。妥当な理由が、見当たらない。

「…はぁ」

大きな溜息を吐く。

「…お、」
「?」

前方から驚きの声が聞こえ、なんだろうと思い顔を上げると、あたしは目を丸くした。商店街からはすでに離れた住宅地のアスファルト。夕日はすでに沈んでいて、星がちらちらと輝き始めた頃に、彼は塀にすがってあたしを見ていた。

「…久し振りだな」
「奴良くん、の…」

あたしの父でもあった人が、何故此処に?
不思議に思っていても、足は勝手にお父さんの方へと向かっていた。心が拒んでいても、勝手に身体は動くなんて可笑しな話だ。

「どうして、こんな所に…」
「いや、なぁに…。散歩だよ」

肩に手拭いを掛けて、癖なのだろうか片目を閉じて言うお父さん。それだけでも色気があるというのに、また和服でいるから一層色気が際立つ。

「こんな、夜に…までですか…?」
「あぁ。息子は、ちょっとでぇとに行ってるしな」

でぇと…つまりはデートと言いたいのだろうか、お父さんは口角を上げてそう言った。リクオと一緒に居るのはカナさんだから、必然的にカナさんとデートしているということになる話。
あたしに話さないでよ…。

「そういえば、どうしてあんたはこんな夜遅くまで外に?」
「え、あ…。学校で先生の手伝いを…」

半分本当で、半分嘘の言葉。お父さんはそれを真に受けたのかそっか、と言って歩き始めた。帰るのだろう、きっと。そう思い、あたしは別方向から帰ろうとした。
だってお父さんと一緒に帰ると何かが我慢できなくなりそうだから。
そう思って、右折しようとした瞬間だった。

「…あんた、そっちじゃないだろ?」
「ぇ…」

お父さんはあたしの方向を見て、言った。つか、なんでそんなことお父さんが知ってるの?
ふと思い出す。窮鼠でお世話になったんだよね…

「え、あ…ちょっと別の道から帰ろうかなと思って…」
「……そっちは、危ないぜ」
「え……」

お父さんの言葉に振り返ると同時に、お父さんはあたしの手を取って強制的にいつもの道の方に連れて行かれた。

「…あの」
「もう暗ぇんだ。いつもの道を通ったほうが安全だ」
「……っ」

お父さんに掴まれた手が熱い。どうしよう、こんなに近いと緊張で手に汗が出そう…泣いて、しまいそう…。

「…なぁ」
「!は、はい…」
「…なんか、あったのか?」
「……ぇ?」

歩きながら、あたしの手を掴んだままお父さんは聞いてきた。お父さんは前を向いたまま、ただ聞いてくるだけで、あたしの方を見ようともしない。
ただ、聞いてきただけ。

「なにもないですよ?ちょっと、疲れただけですよ…」
「……あんまり、溜め込むなよ。子供は甘えておくだけでいいんだからよ」
「っ!」
「一人で苦しむな、遠慮するな、甘えろ」

いつしか、遠慮ばかりしていたあたしに対して言ったお父さんの言葉。
ねぇ、どうして、何で…

「どうして…」
「ん?」
「何で、赤の他人であるあたしにそこまで気に掛けるのですか?」

今までずっと思っていたこと。奴良家に訪問したときも、【奴良緋真】だった頃のあたしの話をするし、窮鼠だって家に送ってくれて挙句の果て、卵粥を作ってあたしの世話をして。
なにが、したいんですか?

「お願いです、あたしは貴方とは赤の他人です。気に掛けないでください…」

貴方は、ただ組やリクオのことを考えていればいいんだよ?
言外にそう言ったつもりなのだが、お父さんに伝わったのだろうか。

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