▼ 姉の覚醒
ドガァアァアン!!!!大きな轟音を上げて、山々の木々が四方八方に倒れていく。そんなことを他人事のように思いながら、あたしは走る。
とにかく走る。
いや、だってさ…
「大人しく俺に喰われろーッ!!!!」
牛鬼に追われているなら当たり前でしょ?!あたしは本当はチキンだから今マジで気失いそうで怖い、牛鬼に“畏れ”を抱いています、えぇ、抱いていますとも!
けど、喰われるのは勘弁!!
「っ!!」
森を抜けてあたしを待っていたのは奈落の底になっているような崖。
ヤバい、これはかなりヤバい。
前は崖、後ろは牛鬼。
どちらか片方をとっても結局は“死”。
「グヘヘヘヘ…、大人しく俺に喰われるんだな…」
「っ…」
あたしの方を見つめて不気味な笑みを漏らしている。全身の毛穴が収縮し一瞬にして鳥肌が立つ…。
恐い、怖い、コワイ、コワい、こわい…!
「喰わせろーッ!!!!!」
「ッ!」
牛鬼があたしに向かって大きな口を開けて向かって来た。
殺される、食べられる、嫌だ、死にたくない、死ねないの。
あの子を守るって言ったの。
「守るって、約束したの!!!!」
その瞬間から、あたしの記憶はなかった。
喰われると思って身を屈めていたはずなのに、目を開けて見れば、目の前には森。そして、背後には段々と薄くなっていく牛鬼の妖気。背後を見れば、真っ二つにされた牛鬼の姿が。
何が起こったのか、さっぱり分からなかった。
「!?ふ、服が…!」
ふと視界の端に入ったのは鮮やかな、けど淡さを求められている着物の裾が。
あたし自身が身につけているものだった。
「格好が…、それに…」
あたし自身から、妖気があふれ出ていた。
「なん、!」
ふと思い出す。今の自分には霊力がある、そして前の自分…つまり前世は、あたしは四分の一ほど妖怪の血を受け継いでいたことを。
「つまり、あたしの中にある血が…」
妖怪の血が、目覚めたということになる。
「…っふ」
何故か自嘲的な笑みが零れた。
「嬉しいのか、悲しいのか…」
分かんないや。
満天の夜空を仰いで、ゆっくりと自身の手を見つめる。嬉しいと思えたのは、あたしの中にはお父さんや爺やの血が流れていて、まだ彼等と繋がっているということに。悲しいと思えたのは、霊力以上に妖力としてあたしの中から目覚め、そしてあたしは人間でないということを暗に示しているということにそれぞれ思わされた。
「…人間に、戻れるのかな…」
あたしの中に妖怪…爺やの血が流れているとしたら、リクオのように夜だけしか覚醒できないということ。
そんなことはどうだっていい。
けど、逆に自分の意志で戻れるのだろうかということ。
「……念じてみよう」
方法が思い浮かばなく、途方にくれそうになったあたしはベタだけど念じるという方法をしてみた。
「……(人間に戻れ戻れ戻れ戻れ…)」
念じていると、だんだんと自分の中にある妖力が収まっていくのを感じた。妖力がなくなったと思って目を開けてみれば…。
「…戻ってる………」
ちゃんと、人間の姿に戻っていた。着物も跡形もなく、始めて着てた服と一緒だった。
コントロールすれば、どうにかなるものなのか…。
そう考えれば、今後コントロールができるように修行をしなくてはならない。そう思うと、地獄に思えてしまった。
「って、そんな事でしょ気てる問題じゃない!」
早くリクオ達を…!
ただその一心で、あたしは走った。
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