▼ 弟の覚醒
「なぜだ………。妖怪でもねぇ……てめぇに………」
血飛沫が舞う。ドサドサと重たいものが落ちる音と共に倒れるのは俺じゃなくて、敵。
血が熱い。
身体の奥底からたぎるような感覚が俺を襲う。
「血なら流れてる。悪の…総大将の血がな……」
改めて思わされた。
嗚呼、俺って本当に妖怪なんだなと。
「夜、こんな姿になっちまうんだな」
認めたくなかった俺の一部。
だが、認めざるを得なかった。
「っ……おい」
「!」
感傷に浸っていると、倒した筈の野郎が俺に声を掛けてきた。雪女を後ろに置いて、構えて野郎を睨む。
野郎はすでに戦う気力もないようで、顔を俺たちのほうに向けて言ってきた。
「っ…本当に…」
「……」
「本当に…緋真は、死んだのか…?」
野郎が言った名は、俺の姉。俺が心から慕った、自慢の姉。
何故今さら?
「…緋真姉さんは死んだ、昔にな…」
「そう、かよ…。…だったら、あいつ…は…」
言いかけまま野郎は気失った。あいつ?あいつって、一体誰の事なんだ。頭の中で考えるが、今はそれどころではない。
牛鬼が、頂上で待っているのだ。
「つらら、お前はゆっくり休んどきな」
「わ、か……」
雪女を人間の姿に戻し、俺は来た道を戻って、石段で出くわしたカナちゃんの雪女のことを任せた。しばらくすれば、神無が来るだろう。そう予想して、もう一度俺は階段を上った。
向かうは捩眼山頂上、牛鬼組屋敷。
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