影と日の恋綴り | ナノ
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 痣と想い人

チャプッ…

「…気持ちいい」

有名温泉旅館より豪華そうな露天風呂。巻さんたちに強制連行されてお風呂に入っているけど…、うん、損しなくてすんだ。良い湯加減で身体が温まる。

「あー。来てよかったぁー!妖怪とか全然興味ないけどォ、この別荘気に入っちゃったぁ。さっすが清継君!もう一生ついてくー」
「巻、あんた現金すぎるよー」
「だってー」

彼女たちもご満足のようで、来た甲斐があったようだった。ま、これで風呂も入らずご飯も食べず妖怪探しとかどっかのバカが言ってたらあたしブチ切れて殴ってると思う。神無はというと、あたし達と一緒に風呂を満喫していた。
前世じゃ、一緒に風呂入ってたなぁ…。懐かしいな、なんて一人思い出に浸っているとふとある子に気付く。

「…カナさん、眉間に皺…寄ってますよ」
「え?」

リクオ一筋かぁ…、なんかお姉ちゃんにとって嬉しいんだか悲しいんだか…複雑だなぁ…。
あたし的には氷麗がいいんだけどなぁ←

「考えすぎなんでくださいね。早くのぼせてしま…っ!!!」

ザバッ

「きゃっ!!」

カナさんと話していると、突然背後からの抱擁。
な、ななななな何だ!!?

「へー、意外と委員長胸が大きい…。それにいいスタイルしてるねぇ…」
「ほんまに…。なんで、そないなカラダになるんやろか…」
「ま、巻さんっ!!?そ、そにれゆらさんまで!?ちょっ、はははは離れて下さいよっ!!」
「あらあら。中学生は、やはりそういうの気にするのね」

抱擁してきた相手は巻さんで、じろじろとあたしの胸やら身体を見るゆらさん。
ちょいと!?なんでそんなに見るんですか!?というか、神無はほのぼのと温かい目で見ないでこの二人をどうにかしてくださいよ!!
そう思って巻さんとゆらさんを呆れたような少し怒ってますよ的な眼で見れば二人は離れてくれた。まったく、最近の中学生ときたら…。

「にしても、委員長って大和撫子って感じだよねー」
「!」
「わー、分かる分かる。髪もストレートの黒でしょ?和服を着たら滅茶苦茶似合いそー」
「あ、はは…そうですか?」

いつの間にやら鳥居さんまでも会話に参加し始め、あたしの容姿について語り始めた彼女たち。
あたしよりもあなた達の方が可愛いと思うんだけどな!!!!

「…あれ?」
「?どうかしたましたか、鳥居さん?」

ふと何かに気付いたのか、鳥居さんが声を上げた。つい声を掛けると、鳥居さんは何か一点をじっと見つめたままあたしに聞いてきた。

「委員長、これって…痣?」
「!」

触られた場所は、背中のちょうど真ん中。

「は、い…。それは、痣ですよ」
「痣にしては凄く痛そうに見える…」
「…後ろだけじゃなくて、前にもあるよ?」

カナさんもつい話に入ってきた。そこまで凝視しなくていいと思うけど、でもやっぱり気になるのでしょうか神無もあたしの方に歩み寄っていた。
ああ、だから一緒に入りたくなかったのだ。

「…生まれた時から…?」
「えぇ。…けど、あたしにとってこの痣はなんだかとても大事なものに思えるんですよね…」
「大事な、もの…?」

顔を上げたカナさん。あたしはそっと痣に手を置いて言った。

「自分が頑張った証拠…、そんなものですかね…」

これはお父さんを守れたという証拠。
この痣を、傷を忘れてはいけないという戒め。
嫌いになる理由なんて、存在しなかった。

「ねぇねぇ、委員長」
「はい、何でしょうか?」

一人傷心していると、今度は巻さんがあたしに詰め寄って声を掛けてきた。なんだい、なんだい。そんなに詰め寄ってきてから、どうしてそんな上目遣いでこちらをみるのかい?

「好きな人とかいないの?」
「…うぇ?!」
「委員長って、誰か好きな人居ないのー?」
「は、はい!?」

巻さんの言葉にあたしは絶句した。あ、あああああたしに好きな人!!?

「い、いいい居ないですよ!」
「ほんとにー?その否定っぷりはどう見ても怪しいぞー?」

面白そうに言う巻さん。
おいおい、最近は温泉でも恋バナをするようになったのか?

「居ないですよ、本当に。…それに、あたしはあまり興味がないというか…」

「緋真」

「………」

優しい笑みで、優しい温もりで、あたしをいつも抱き上げてくれた燈影。
貴方は、あの約束を覚えているのですか?
また、貴方に抱き締めて貰いたいと思ってしまうのはいけないことですか?

「あたしは、そんな資格はありませんし……」
「緋真ちゃん……?」

あたしの呟きはカナさんにしか聞こえなかったようだった。それはそれで有り難い。というか、
そろそろ出たい。

「逆上せたので先に上がりますね…」
「!」
「えー、委員長はやー」
「もうちょっと浸かろうよー」
「ゴメンなさい。あまり長居するほうではないので…」

巻さんと鳥居さんをやんわり断ってその場を後にした。神無が慌ててあたしの名前を呼ぼうとしたけど、それを無視してあたしは脱衣所へと向かった。カナさんもすぐに上がるだろうことを予想しつつもあたしは早々に温泉から出て浴衣に着替えず私服の姿で別荘から立ち去った。
目指すはリクオ達の場所。

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