影と日の恋綴り | ナノ
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 重なる笑顔

「………」
「………」
「……っ!!!???」

数秒目が合っていると、馬頭はわたわたと慌て始めてあたしにジェスチャーしてきたのだった。
黙っててくれというサインを。
まぁ、あたしは他人ごと(一応)だから仕方ないといったら仕方ない。牛鬼おじ様は奴良組を思って今回この行動を起こしたんだ。
反対なんてしない。

「(頑張れ、馬頭)…ふふっ」

馬頭に会えた喜び、そしてエールの意味での笑みを送って、あたしはそのまま見なかった振りをしてみんなの後を追った。

「緋真ちゃん、上見てどないしたん?」
「いえ、黄昏時の空は綺麗だなと思って眺めていただけですよ」
「そんな事より早く帰ろーよぉ!」

巻さんや鳥居さんが泣きそうな声で帰りたいと訴える様子に、私はただ苦笑いを浮かべるだけだった。



緋真達が去ったあと、背筋がゾッとするような風が辺りに吹き荒れる。

「馬頭丸よ、うまくあいつらを留まらせるのに成功したようだな」
「………………」
「どうした?」
「…牛頭丸、ボクの操り糸に気が付いた子がいた」
「…なに?」

馬頭丸の言葉に驚きが隠せない牛頭丸。しかし、それよりも他の事に驚いているような様子の馬頭丸に牛頭丸は不思議に思い首を傾げてしまった。馬頭丸はゆっくりと口を開けた。

「…緋真様って、幼少の時に亡くなったんだよね?」
「…あぁ。詳しい事は俺も知らないが、亡くなったのは確かだ」
「………」

「牛頭!馬頭!遊ぼっ!!」
「待て待てー、緋真様ー!」
「きゃー!」
「くぉら、んな走ってっとこけ、」
「ふぎゃっ!!」
「ほら言わんこっちゃねぇ!!」
「ひ、ひひひ緋真様ァ!?」
「おいおいおい、大丈夫か!?」
「うん!」
「緋真様は強いねー」
「お嬢だったら、捩眼山のうしおに軍団に会ってもビビらねぇだろうな」
「確かに!」
「牛頭!馬頭!早く!!」
「お嬢お待ちください」
「待ってー緋真様ぁ!」


二人が思い浮かべるのは、朗らかな笑みを浮かべて自分達のもとへ向かってくる幼きお嬢。馬頭丸は肩をフルフルと震わせながら牛頭丸に言った。

「…緋真様、みたいな人が…いた」
「……なんだと?」
「僕のことに気付いた子ってね、すっごく似てたんだ。気付いてたのに黙ってくれたあの優しさとか、それに…笑顔が似てたんだ、とっても」

見間違えてしまうくらいに。
その言葉を聞いて、牛頭丸は動揺を隠し切れなかった。だが、今自分たちにはすべきことがある。牛頭丸は馬頭丸に自分達のすべき事を伝えてその場を後にした。

「(居るわけないだろう…。緋真は死んだんだ。俺たちを置いて…!)…ありえねぇんだよ」
「(牛頭……)……」

二人は木々を渡り渡って闇の中へと溶けていった。

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