影と日の恋綴り | ナノ
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 梅若丸伝説

ようやく乗り換えの繰り返し地獄から抜け出したあたし達を待っていたのは大きく連なっている山々。そして延々と続く坂道と石段。あたし達を殺す気なのか?
最初こそみんな登る気満々だったけど、一時間経っても変わらない風景でみんなもう足腰がキツいようで、弱音を吐いていた。まぁ、あたしは前の前の人生で何度家族で登山からか、重心移動などが生まれ変わっているのに身についていた。

「うん?なんやろ…あれ…。小さな祠に…お地蔵さまが奉ってある…」
「本当だ。視界が悪すぎて見えないけど…」

ゆらさんがふと森の奥に祠の存在に気付き、皆もそっちのほうに視線を寄せた。そのままゆらさんはその祠に向かって歩き始めた。霧が段々と濃くなっているようだし…、ちょっと危ないんじゃないのか?

「“梅若丸”って書いてあるよ!!」

そんな思いをつゆ知らず、リクオは眼鏡だというのに驚異的な視力で言い始めて…。おいおい、目が悪いんじゃないの?

「梅若丸のほこら…きっとここだ!!やったぞゆらくん!!さすがだな!!」

ゆらさんの背中をバシッと叩きよろこびを表す清継 くん。おい、ゆらさんが可哀相だろうが、それでもお前男なのか?

「意外と早く見みつけたな…さすが清十字怪奇探偵団!!」

そう思っていると、突然背後からガサリ、と草木が揺れる音がし、そして現れたのは小汚いおじさんだった。
清継くん曰く、妖怪研究家の化原先生という人。
たしか、この人あれだよね?馬頭に操られてるんだよね?実際に見てても分かるね…、肩ら辺に糸が光に反射して見えるし。つまり、すでに“原作”は始まっているということ

「妖怪伝説の……主人公だよ」

研究先生が語る梅若丸の伝説を右から左に流し(いや、だって知ってたし…)、妖怪に纏わる場所を見て回る…。実際に大木についた深々とついた痕ともげた爪には圧倒された。
本物なんだよね、あれ…
きっと、かなり昔に爺やと闘ったときの痕だ…。この山、やっぱり寒気というか…嫌な感じがする…
例えるならやっぱり妖気

「っ…(おじ様は本気なんだよね、ちゃんと自分の身は守らないと…)」

震える手を無理矢理抑えた。
あたしの様子を見て、神無が真剣な表情をしていたことには気付かなかった。



「氷麗、どう?」
「かん、じゃなかった…美詠奈さん…。いえ、全然通じません…」
「そう…」

携帯は圏外。周りはすでに暗くなってきており、無闇に山を降りるのは危険だろう。
けど、もっと危険なのはこの山の頂上に住む存在。

「いい、雪女」
「はい」
「もしものことがあれば、側近頭であるあなたがリクオをお守りなさい」
「え、し、しかし…!」
「私は他の子達も守らなければいけないわ。…頼むわよ」
「…はい!」

神無の言葉に、氷麗はリクオを見守るように見た。その氷麗をカナさんが怪しむように見ていた。
そして、神無は心配そうにあたしの方を見ていた。
だから、あたしよりリクオを優先してってば…。

「「いーやだぁー。帰ろうよこんな山ー!!」」
「見てよぉ、こーんなでかい爪。死ぬって」
「ホントに喰われちゃうよー。妖怪にー」

危機感を感じて、巻さんと鳥居さんが騒ぎ出す。帰りたいのはあたしだって同じだっつーの!!なんで命掛けの旅行なんて行かなくちゃならないんだよ!!

「そーだよ。鳥居さんと巻さんの言うとおり。今すぐみんな帰った方がいいよ」

リクオも巻さんたちに同意して言った。リクオだってもう分かっているはず。ここは牛鬼おじ様の住処。無事に帰れるわけがない

「待ちたまえ!!暗くなった山を降りる方が危険だ!!それに山を下りてもバスはもうない!!」
「「ええー」」

山を降りようとしている巻さんたちに対して清継くんは引きとめようとしていた。いや、バスがなくても、山を降りたら電波は復活するし電話でタクシーを頼めばいいじゃんか
なんでお前はわざわざ引きとめようとする?

「ふふ!!何をビビっているんだ君たち!?僕の別荘があるじゃーないか!!この山の妖怪研究の最前線!!セキュリティも当然バツグンだ!!」
「いや、妖怪にセキュリティなんて効くわけないでしょ」

小さく突っ込む。それはリクオも思っていたようで、リクオが清継くんに聞いていた。嗚呼、彼は皆を守る為に彼等を帰らそうとしているのね…。
だったらあたしはあんたを守らないとね

「使用人が時々来てるが何か出たなんて話1回もないぞ!?君たちは心配しすぎだ!!」
「ハッハッハッ…まぁ…牛鬼なんて伝説じゃからあの爪も誰かの作り物かもしれんしのー」

清継くん、あんた今回の目的と矛盾しまくってるぞ。そして、妖怪先生あんたは実際今操られてるから!牛鬼おじ様の手下の馬頭に操られていますから!!
そうツッコミたいけど我慢。小さく溜息を吐いてあたしは妖怪先生の頭上を見た
そしてバッタリ彼と目が合った。

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