影と日の恋綴り | ナノ
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 言えない謝罪

「よし…いくぞ!!せーの!!」

バン!

「ぐあああああぁ。また負けたぁぁ」
「くそーまたリクオと花開院さんの勝ちかよ」
「ちくしょー持ってけよ…賭けたお菓子持ってきゃいいだろー!!」
「……(元気だねぇ…)」
「ふふ、楽しそうですね…」
「……」

捩眼山へと向かう電車の中。清十字怪奇探偵団の皆は妖怪ポーカーでお菓子を掛けて大盛り上がり。そんなあたしはというと、ゲームには参加しないで通路を挟んで隣の席で読書をしている。

「…(捩眼山、か)」

捩眼山。
あそこにはおじ的存在である牛鬼おじ様が住んでいる場所。
リクオが試される場所。

「皆さん、楽しそうですね」
「ぇ、えぇ…」
「元気ですね、皆さん」
「委員長と美詠奈さんはやらないのかい?!」
「えぇ。見ているだけでも楽しいですから」
「そうね。私、そういう運はあまりないからね」

清継くんはあたしを誘ってくれるけど、やんわりと断る。にしても…

「…」

何故此処に神無が居る!?
集合場所で初めて知った彼女の存在。清継くん曰く、引率者として及川さんの従姉でリクオの近所に住んでいる斎藤美詠奈さんが参加してくれたということ。いや、確かに子供だけじゃ危ないとは思うけど…。
なんだよその設定!!どんだけご都合良くしちゃってんの!?

「あはは…また勝っちゃった」
「奴良、お前『妖怪運』あるなー…。普通じゃないぜ」

島くんはリクオの運に驚きをかくせなかった。まぁ、あたしも“原作”を読んでるときはそりゃ思いましたとも。けど、彼には妖怪の血が流れているからなぁ…。
そう思いながら読書をしていたけど、ずっとさっきから気になっていることがある。

「委員長は何か飲み物とかいる?」
「え?」

ふとリクオに声を掛けられなんだろうと思えば、彼は負けてもいないのにみんなの欲しいものを車内販売で買おうとしていた。良い奴、ではなくもはやお人好し以上になってるよ…。

「あたしは大丈夫ですよ。お腹も空いていないし、飲み物も持参していますから」
「あ、そうなんだ…」
「ごめんなさい、奴良くん」
「う、うん…」

……何故、避けられているのだ?あたし悪い事してないよね?!窮鼠以来、全然何も悪い事なんかしてないよね?!どうしてこんなに絡み辛いの?!!

「(訳が分からん…)…はぁ」

自然と溜息が零れてしまった。大体、なんでリクオはあたしの方を時々チラチラと見てくるの?全く、気が気じゃないってのもの凄くさっきから気にしてしまう。
というか、氷麗はリクオを見過ぎ!!おかげでカナさんが氷麗を疑い始めてるんだけど!!?

「……(大丈夫なのかなぁ…)」

前途多難だ。
そしてもう一つ気になっていたことがあった。

「…」
「……」

隣から感じる視線だった。いわずとも、視線の正体は神無でずっとさっきからあたしの方を何度もチラチラ…、リクオといい勝負が出来るほど見ていた。
我慢、出来ない…。

「…あの、」
「え?」
「どうか、しましたか?」
「ぇ、あ、えっと…」

誤魔化そうとする神無。そういえば、昔から神無は嘘を吐くのが上手じゃなかったよね。嘘を吐いたら、視線を別のほうにやったりおどおどといつもつけない動作をつけたりして嘘がバレバレだったよね。
気付いてる、神無。今もそれと同じだよ?
小さく、神無にバレないように溜息を溢してから神無に言った。
きっと、彼女が心の中でずっと思っていることを。

「…あたしの顔、誰かに似ているのですか?」
「ッ!?」

肩を大きく揺らした神無。その反応を見て、あたしはやっぱりだ。と他人事なのに小さく笑ってしまった。だって、神無が思っているのは【藤堂緋真】が【奴良緋真】に似ていること。
彼女は、ずっとあたしの護衛として側近として付き従ってたんだから仕方がない。

「ど、して…」
「美詠奈さん、奴良くんの家でもあたしの顔を見てとても驚いていたじゃないですか」
「っ…」

奴良家訪問にて、爺やと共にやってきた神無はあたしの顔を見て動揺していた。とても、酷く。リクオに制止されたくらいに。
だから、このセリフが言えた。

「…以前、私はあるお方の側近を承っておりました」

ゆっくりと、神無は静かに話し始めてくれた。
それは、酷くあたしには辛く感じてしまったものでもあった。

「その方は、明るくて優しくて素敵な方でした。家族の皆が、大事に大事に育てておりました」

その頃を思い出すように、神無は語った。今、彼女は何を思いながらそのことをあたしに話しているのだろうか。
気になってしまいつつも、聞いてみた。

「…その方は?」
「…8歳の時に、お亡くなられになりました」
「!」

やはり神無が言っていたのはあたしのこと。自分のことであるが故に、息が止まりそうになった。

「私は、家族の方々にその子の側近を頼まれており私自身その方が好きでした…。私の名を元気に嬉しそうに呼ぶ声や、太陽のようなその温かい気持ちになる笑顔も、とても…好き、で…」
「っ…」

神無はツゥ、と一筋涙を流した。それほど、神無は思いつめていたのだろうか…。

「……(ごめん、ね)」

そう言いたいけど、いえないのがまた辛かった。

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