▼ GWの予定
「え、ゴールデンウィーク…ですか?」
夜。
大分身体の傷の痛みがなくなった頃、あたしの家に一件の電話が。相手は花開院さんで、明日の時間割と今週末のゴールデンウィークについての予定を教えてくれた。
“せや。週末から清継くんの家の別荘がある捩眼山に行くそうや”
「捩眼山…ですか…」
“…藤堂さん、あんな”
「はい?」
捩眼山といえば、牛鬼おじ様が住んでいる山…。それに、今この原作の流れでいけばリクオと牛鬼おじ様が対立する場面。
…行っても、いいのだろうか。
そう思っていると、花開院さんが神妙な声であたしの名前を呼んだ。いったいどうしたのだろう。
“窮鼠の時、守れんでごめんな。痛い思い、かなりしたやろ”
「あ、窮鼠の時?あれはあたしが勝手にしたことよ。花開院さんのせいではありません」
そう。あれはあたしが自身で招いた結果。あれが花開院さんのせいだなんて思うはずがない。
自分がいいと言っているのに、花開院さんは不服そうな声を出す。
“せ、せやけど…式紙を取られただけで何もできひん陰陽師なんてありえへん…”
「…それだったら、修行したらいいのではありませんか?」
“え…”
花開院さんの驚いた声。あたしはその声に小さく笑みを零して話し始めた。
「花開院さんはまだ半人前なんだから、失敗したってしょうがない。今まで実戦したことがないならなおさらしょうがない。此処に来たのは妖怪になれるためでしょ?」
“せ、せや…まぁ…”
「だったらこれから慣れればいいじゃないですか。これからどう自分がすべき事なのかを考えればいいのではないですか?」
自分だって自分の身を守る為に真言を唱えたりしていたのだ。霊力のコントロールを身につけて普段霊を極力見ないようにしているしで、かなりの時間を費やした。
彼女はそれと同じなのだ。
「これから頑張ればいいんです。失敗したなら反省して、そこからまた練習してなれて…それが修行じゃないのですか?」
“藤堂さん…”
「あたしのことは緋真でいいですよ。あたしも花開院さんのことを下の名前で呼びたいですし…」
此処でさりげなくお願いするあたし。
うん、抜かり目なし!
“…分かったわ、緋真ちゃん。ホンマ、ごめんな”
「気にしなくていいって。また明日ね、ゆらさん」
“うん。また明日”
その言葉を最後に、あたしは電話を切った。小さく息を吐いて、月夜を眺める。
「牛鬼おじ様…」
前世の幼き頃、私を実の娘のように優しくしてくれたヒト。達磨おじ様と一緒に今のご時世の話をしていましたよね。内心わかってたけどまだ赤ん坊だったから頷くとか出来なかったけど。
「…リクオが通らないといけない道だから、邪魔はしない。けど、」
ギュッと、強く拳を握って呟いた。
「弟を守るなら、少しくらい…構わないよね?」
月が雲に隠れて見えなくなった。
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