影と日の恋綴り | ナノ
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 優しい弟

「三代目!?そんなのどーでもいいよ!!いますぐはなしてあげてよ!!3人を!!」
「ぅ…」

リクオの声がする…。身体の痛みを我慢して、あたしはゆっくりと起き上がろうとする。しかし、何故か動く事はできなかった。
なん、で…。

「っ…此処、は…」
「!!委員長っ!」
「っ…奴良…く…」

周りを見ればなにもあるわけでもなく、ただ煌びやかな部屋の中ってことだけしか分からなくて。でも近くでもないがすぐ近くで弟の声が…。

「…なん、で…此処…に…」
「ほう。もう目が覚めたのですね」
「!…お前…っ!!」

むかつく声がしたと思えばすぐそこの偉そうな椅子に窮鼠は座っていた。つか、今気がつけばあたし以外にすぐそこにはカナさんや花開院さんが気失って倒れていた。
四肢を封じられて。
なるほど、だから上手く動く事が出来なかったんだな。

「あなたにはかなり強い一撃をしたんのですがねぇ…」
「っ…クソ鼠が…」
「窮鼠様に対してなんだその口のきき方ァ!!!」

ガッ!

「ぐっ…!」
「委員長っ!!」

身動きが取れないのをいいことに、窮鼠の手下たちはあたしに強い蹴りを入れる。やべぇ、今のはかなり痛い…。あー、やばい…意識が…。

「てめーなんぞが妖怪のトップに立つと思うだけで死ねるわ。軽々しく言ってんじゃねーぞなりそこないが!!どんだけ重い代紋かわかってんのか、オラッ」

あたしのことを放って、窮鼠はリクオに暴力を振るう。いい度胸してるじゃねぇの、クソ鼠が…。

「逃げ、て…」
「そんな!三人を置いて逃げるなんて…!!」

ほらね…、やっぱりそう言うと思ったよ

「いいから、早く…」
「テメェは黙ってろ!!!」
「う゛っ!!!」
「委員長!!」

また窮鼠の手下に腹を蹴られた。やばい、かなり痛いぞ…そして目が霞んできた…。

「逃げ、て…」
「でも!」
「いいから逃げなさい!リクオ!!!」

あたしの必死の叫びを聞いてリクオは窮鼠に「回状は回す!!!だから三人を殺さないで!」とそんな事を言って、走り去って行った。そう、それでいいの…。

「っ…」

リクオの気配がなくなって、あたしは再び意識を手放した。

***

「この街ではな…星矢さんって呼べやー!!」
「な…」
「式紙もってないてめーはただの女だよ」
「ゆらちゃん…!」

声、が聞こえる…。何、しかもビリって何かを破くような音もしたし…。
ん?破くような音?

「さて…そろそと時間だな。ま…来ないなら来ないでオレはかまわんがな…知ってるか…?人間の血はなぁ…夜明け前の血が一番ドロッとしててうめぇのよ。ちょうど…今くらいのなぁ…。」

生理的に受け付けない声も聞こえた。ということは、さっきの破れた音は…。

「ホストならホストらしく女性に優しくするものじゃないんですかね」
「グホッ!!」

籠の中へ入ろうとした第一号に蹴りをお見舞いしてから、花開院さんとカナさんを自分の後ろに置いて守るように警戒した。もちろん、花開院さんには自身のセーターを渡しましたよ。

「ホストである以前に、彼方方は男の風上にも置けませんけどね」
「この、くそアマ…!」
「ほら、それですよ。事実を言われすぐに拳でケリをつけようとするその精神」

あたしの襟を掴んで拳を振り上げた窮鼠の部下。ゆっくり、というかあたしが動体視力が良いのだろうかその拳は遅く見えて簡単に掴むことが出来た。そのまま、孤児院の時に茜雫に教えてもらった空手をして失神させた。

「さすが、旧鼠と、鼠といわれるだけありますね。知能も低い上に何度も試行錯誤をしないといけないほどのレベル…。一度学校というものに通ってみては如何ですか?」
「テメェ…、今俺たちを馬鹿にしやがったな…!?」
「そう言っているのにわざわざ聞き返すくらい、彼方方は馬鹿なのでしょうね」

窮鼠たちはあたしのその一言で怒りで顔を染めて、殺気は垂れ流し。
だから、鼠は馬鹿だと言われるんだ。

「この子達には手を出すな。指一本触れてみろ…消し飛ばしてやる」

そう言うや否や、窮鼠はあたしをゲージの中から引っ張り出して勢い良く殴りかかってきた。

ガッ!!

「っ…」
「緋真ちゃん!!」
「藤堂さんっ!!!」
「おいクソ女ァ…。テメェ、調子乗ってんじゃねーぞ…」
「誰が、アンタみたいなクソ野郎に調子乗らなくちゃならないんだか…!」
「ッ!!」

バキッ!!

「ぐっ…!」

また殴られた。しかもそれだけじゃ済まさないようで、あたしを殴る蹴るをずっと繰り返してきやがった。

「テメェ星矢さんに謝れ!土下座しろ!!」
「っ…ほざけ…」
「くそ餓鬼がァ!!!!」

あたしの言葉にキレた手下どもは腹を目掛けて殴ってきた。なんかミシミシ言ってるのは気のせいですか?

「もう、もうやめてよ!それいじょうやったら緋真ちゃんが!!」
「あんたら、えぇかげんにしぃや!!女相手になにして!!」

ちょっと、言い過ぎたか…な…。
そう思っていると、ガシャンと何かを上げる音がした。まさか、と思って振り返ってみれば檻の中に入る手下どもの姿がカナさんと花開院さんのほうに詰め寄っていた。

「な…っ!カナさん!花開院さん!!」
「テメェはこっちだ!」
「ぐっ!!」

ボタッ

口の端が切れてそれが滴り落ちる。やばい、かなり本気で殴ってきてる…、いや、それは当たり前か。
つか、女相手に容赦なさすぎだろ。それでもホストを名乗ってたやつ等ですかコノヤロー。

「いやっ…」
「ひっ…」

カナさんと花開院さんは完全にパニック状態…。そしてあたしはまだ殴られ蹴られの繰り返し。
ねぇ、そろそろキレてもいい?

「ははっ…いいねぇ、その顔そそるぜ…」
「へへ…俺はこっちが好みだな〜」

彼らはジリジリとつめより、檻の角へと彼女たちを追い詰めてくる窮鼠ども。
こいつら最低だな。

「「いやぁあああああ…!!!!」」

恐怖のあまり彼女たちは叫んだ。瞬間、あたしの中で何かがキレた。

「オン ハンドマダラ アボギャジャヤニ ソロ ソロ ソワカ!!」

真言を唱えて、窮鼠達から二人を守った。いわゆる結界というもの。いきなり何かに弾かれたことに驚いている窮鼠を横目に、二人が無事なことに一息吐いた。
と、同時に横腹に勢い良く衝撃がきた。

「う゛ァ…!!!」
「図に乗るんじゃねぇぞ、ガキ。テメェは少々俺たちをバカにし過ぎたみてぇだな…」
「っ…、…一言訂正してあげようか?」
「なに?」

さっきの一撃がかなり重たかったみたいで、動くのが辛い。あたしは小さく笑って窮鼠に向けて敬意をこめて言ってあげるよ。

「…現在進行形でバカにしてんだよ、カース。…死ね」
「決定。お前は一番始めに殺す!」

手だけを獣化させてあたし目掛けて鋭利な爪を振り下ろす窮鼠。死ぬ覚悟はこれを言う前からできてたけど…。

「緋真ちゃん!!」
「藤堂さんっ!!」
「……」

嗚呼、けど、やっぱり…

「緋真」

死ぬんだったら、またお父さんの腕の中が良かったなぁ…。

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