影と日の恋綴り | ナノ
×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -

 愛しき妖怪

「っ…!」

障子越しからのシルエットで、彼が人間に化けていることを知らされ、
そして発せられた声が耳に響き、胸が大きく脈打った。
忘れる事なんて、一度もなかった。
ずっと、貴方に想いを寄せていたんだから。

「おう、燈影。お前、いつの間に…」
「?リクオの知人が来ているんだろう?仕方な、く…」

障子から顔を覗き込んできた彼は、あたしを視界に入れて固まった。
そして、あたしも固まった。

「っ…」

だって、目の前にはあたしが、生前もっとも愛してた…大好きな彼が変わらない姿で立っていたから。
少しだけの年月が経っただけなのに、また色気が増したのは気のせいかな。

「……ぁ」
「……!!緋真っ、」

嗚呼、あたしのことを覚えてくれていたんですね。
嬉しかった。
でも…、

「あ、の…あたし…」
「燈影。こいつは、藤堂緋真。…“緋真”じゃ、ねぇよ」
「っ…」

お父さんの言葉が、鋭く胸に突き刺さった。
記憶があると、あたしが“奴良緋真”だと言えばどんなに楽なのか…思い知らされた。
あたしに近寄った燈影。けど、

「…そう、か」

お父さんの言葉に、燈影はショックを受けつつも返答した。
その反応にも、違う感情で胸が痛くなった。

「あ、あの…」
「…なんだ?」
「な、まえ…を…」

知っている、覚えている。
けど、怪しまれたくない。

「名前を、教えてくれませんか…?」

初対面であるということを、思い知らされる。
でも、また貴方と関わりたいの。
また貴方に恋をしたいの。

「……、燈影だ」
「あたしは、藤堂緋真です」

お願いだから、そんな辛そうな表情をしないで。

「…それじゃあ、案内するぜ。ついてこいよ」
「っ…は、はい!」

燈影に一礼して、あたしはお父さんについて行く。
今だけ、今だけこの空間を壊さないでください。この話が終われば、関わりませんから。
無言の状態のままあたしはお父さんの案内のもと、さっき集まった場所へ辿り着いた。
今更だけど、あたしこの家の構造知ってるから問題は無いんだよね…。
でも、お父さんと会えたし喋れたから良いかな…?

「それじゃあ、皆が来るまで待っときな」
「はい。…ありがとう、ございました」

お父さんに礼を言うと、再びお父さんはあたしの頭を撫でた。つか、さっきから撫ですぎでは…。

「…緋真がもし、生きてたらあんたみたいになるんだろうな」
「っ!!」

空耳、だと勘違いしていてもいいだろうか。お父さんは今何て言った?
気付いてる?それはないよね?
でも、

「っ…」

嬉しさがこみ上げてくるのはいいよね?

prev / next