影と日の恋綴り | ナノ
×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -

 死に際の笑顔

辛く、重苦しい空気が流れてしまった。お父さんは何も言わないでじっと何か考え事をしていて部屋に案内してくれる様子はない。ぬらりくらりと本当掴みとれないなぁ、なんて思いつつもこの重苦しい空気をどうにかしたい。
そう思って、視界の端にあったそれに目がいってあたしは思わず聞いてしまった。

「あの、この写真…」

…って、何あたし自分の首を絞め殺すような行動をしてんだ。でも、そんな事を思っていても勝手に口は動いてしまった。

「あぁ、これか?……これはな、」

お父さんは遺影に近づいて、その写真を手にとって悲しそうに見て言った。

「俺の、大事な大事な娘だ」
「っ…」

その言葉だけでも嬉しかった。
あたしの思いをつゆ知らず、お父さんはぽつりぽつりと話し始めた。

「こいつはな、緋真っつって…リクオのお姉ちゃんだったんだ」
「姉…奴良くんの…」
「あぁ。…甘える事を知らない、我慢して、俺を庇って死んだ子さ」

甘えを、知らない…我慢、して…、お父さんを庇って死んだ…。
ああ、お父さんはそんな風に思ってくれていたんだ。

「ほんと、親の心子知らずってのはこのことだよ…」
「っ……」

悲しそうに笑うお父さん。
言いたい。
吐き出したい。
大声で叫びたい。
あたしだよって、奴良緋真だよって。
何もかもを言いたい。
でも、出来ない。
どう考えても、可笑しいから。

「…あいつの死に際の顔を教えてやろうか?」
「ぇ…」

お父さんはあたしのほうに顔を向けると同時にそう言った。
あたしが、死んだときの…

「笑ってたんだよ」
「…笑って…」
「あぁ。俺を守れた事が嬉しかったのか、微笑んだ顔で目を閉じたんだよ」
「………」
「あたし、まも…れ、た?大切な人、まもれ…た、か…な?」

最期のとき、たしかにあたしはそう言った。お父さんを守れた事がどれだけ嬉しかったのか、お父さんを死なずにすんだってどんなに思ったのか。
嬉しくて、嬉しくて、悲しかった。

「でも、どうして…そんなことを、あたしに…」

聞きたくなった。リクオの友人としか見れないあたしに対して、どうしてそんなに…。お父さんはただあたしを見るだけで何も言わない。じっと、あたしを見つめてて…。

「っ…」

つい、目を逸らしてしまった。

「…っと、そろそろいかねぇとな…。リクオ達もなにやらしてそうだな」
「…そう、ですね…」

結局お父さんは何も教えてくれず、話を逸らした。遠くではないが、近くで騒いで歩いている彼等。
ほんっと、アイツ等は常識を分かっちゃいねえな…

「お騒がしてすみません。彼等には徹底的に説教しておきます」
「気にすんな。賑やかでいいじゃねぇの」
「ですが、此処は人様の家です。妖怪屋敷などど言われていますが、此処はあなたのすむ家です。迷惑などかけたくありません」
「……そうかい」

あたしの言葉にお父さんは目を一瞬丸くして、そのあと嬉しそうに笑ってあたしの頭を撫でた。お父さんに頭を撫でて貰ったのは、久し振りだった。
その時だった。

「おい、鯉伴。お前、そんな処で何突っ立って…」
「!」

懐かしい声が、また聞こえた。

prev / next