▼ 再会
リクオに部屋を入れさせて貰って数分後。あたしはドスドスと足音を上げて歩ていた。
品が無いのは分かってるけど、それでも怒りは収まらない。
「あいつ等、帰ってきたらマジで赦さん…。人様の家を歩き回るとか、常識がなってなさすぎだ…!!」
この家がリクオの家だとかそんなのより当たり前のことが出来てない奴なんて人間として、常識として、マナーとしてどうなのかってんだ!!
リクオの家だから歩き回るだぁ?!そんな理由で歩き回る権利などないだろうが!
「ふざけるのも大概に…、ッ!?」
目を丸くした。ただトイレに行っただけなのに、ただ彼等を探して説教しようって思ってだけなのに…。
見つけて、しまった。
「………」
勝手に足がその部屋に向かう。綺麗に整頓されたその部屋には仏壇が一つ置いてあった。
その仏壇には遺影があって、その写真の人は…。
「(あた、し…)……前の、前世の…」
【奴良緋真】だったときのあたしの写真があった。
顔も、姿形は幼い頃のだったけど…それでもお父さんから受け継いだ目元や、母さんから受け継いだ口元や鼻はそのままで。
嗚呼、やはりあたしは転生したんだなと思い込まされた。
「……っ」
悲しくなった。涙が出そうになった。けど泣いたら駄目なような気がした。
現実をつきつけられた。
此処にあたしの存在は、居場所は、もうないんだって言われているようで…。
「誰か、いんのかい?」
「!」
声が、した。慌てて振り返ってみればそこにはあたしが命をかけて守った人が…。
「ぁ、(…お父…さ…、)」
奴良鯉伴様が、部屋の引き戸に縋ってあたしを見て
「…緋真?」
「ぁ……」
時が、とまったような気がした。
「……緋真、なのか…?」
嗚呼、この人は誰の事を言っているのだろうか?
もう“奴良緋真”はこの世にいないのに。
一瞬で胸が締め付けるような痛みがあたしを襲った。悲しいなあ、何も言えないなんて、何も告げることができないなん。泣きそうになるのを隠すように、一歩彼があたしに歩み寄った瞬間、反射的にあたしは頭を下げていた。
「か、勝手に入室してしまいすみませんでした!」
どうしよう。なんで此処に居るの。いや、彼が此処に居ても別に可笑しくは無い。
じゃあどうしてあたしは此処に居るの。リクオ達の姿が見えなくなって探そうと思って。あ、部屋から出て行こうとしたこと自体が間違いなのか。
ならさっさと部屋に戻らないと…!
「す、すぐに出ますので…!ほ、本当にすみませ、」
「おっと、そんなに焦るこたぁねぇぜ。俺は怒ってないからな。…それに、迷子なんだろ?俺が部屋まで送ってくよ」
「っ…そう、ですか…」
近い、とてつもなく近すぎる。なんでそんなにあたしの顔を見てくるこの人は。ふざけるな、顔をどっかよそのほうに向かせろ。
心臓がもたなくなんぞ、コノヤロー。
「…あんた、緋真かい?」
「あ、の…確かにあたしは緋真ですが、あの…」
何も知らない、とでもいうようにあたしはお父さんに言った。よっしゃ地味に演技力を培ってきた成果がある。ポーカーフェイスで上手くかわしているし、何より違和感は仕事してない。
今此処であなたに何を言おうとあたしは何も話さない、言わない、答えない。
関係、無いから。
「…あんた、名前は?」
「っ…藤堂緋真です…。…貴方は…」
「俺は奴良鯉伴だ…、よろしくな」
知ってます、知っていますよ。今更自己紹介しても言わなくてもいいんですよ?
そういいたい、でも…言っても意味がない。
だって、信じてくれるわけがないもの。
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