▼ 花開院ゆら
あの旧校舎の事件から二日ほど経った。あたしは何も変わらず普通に登校、隣のクラスのリクオやカナさんも登校していた。清継くんや島くんはお休み。
根性なさすぎだろ。
「やぁ。君たち…ごぶさたぁあー…あのときいらいだねぇ…」
「………」
原作だったらちょうど鴆の話が終わった翌朝。鴆かあ…元気かなぁ。幼い頃一緒に遊んだのを憶えてくれてるかな、なんて思いながら登校した。そして廊下でばっったり会えば背後からバケモノの如く現れた清継くん。
清継くん、お前のほうこそ妖怪になれるんじゃないのか?
「君たち……。見たよねぇ!見たよねぇ!」
「な…何が…?」
「だから!あのときだよ!」
切羽詰るような顔でリクオとカナさんに尋ねる清継くん。怪しげなオーラを背負いながらリクオとカナさんに迫りやがって…周りには島君や及川さんもいる…。
話しているのはきっと旧校舎での出来事のことだろうし…。
関わりたくないな、うん。
そう思えば無言実行。あたしはゆっくりと爺やのようにぬらりくらりとその場を去ろうとした。
ガシィ!
「委員長は見たよねぇ…妖怪を…!」
捕まった。見事に捕まった。ヤバイ、これはやばいぞ…。しかし、実際あたしはあの場に居合わせては居なかった。つまり逃げることができるはず!
くるりと清継くんの方を見て、あたしはにっこりと貼り付けた笑みで言った。
「おはようございます、皆さん。先日のことでしたら、あたしはその場に居合わせていなかったから分かりません。及川さんや倉田くんがその時不良がいたと仰ったので彼等を信じないといけないのでは?それとも…、もしかして清継くん見間違えてたとか…気失ってたとかしてたのですか?」
馬鹿にするような声であたしは言った。プライドが高いせいなのか、清継くんは「あ、ああ。覚えてる、覚えてる!!不良ね…不良」と鵜呑みにした。
バカはすぐに信じるんだから…。。
内心バカが、と嘲笑いつつも貼り付けた笑みを浮かべて言う。
「それでは、あたしは用があるので」
「あ、うん。それじゃあ…」
あたしの言葉が聞こえたのか、リクオはあたしに手を振ってくれた。嗚呼、本当に優しい子だねリクオは…。お姉ちゃん嬉しくて涙が出そうだよ…。
「っと、さっさと職員室に行かねば…」
そう思って足を進めようとした時だった。
「あの…ごめんなさい」
「はい?」
誰かに声を掛けられ、あたしはつい、と後ろを振り向く。そこには小柄なショートヘアの…って、花開院ゆらさんやありませんか!!??
つか、なんであたしに声をかけた!?原作だったらカナさんじゃんか!何故に…って、あたしがカナさんより先にこっちに向かったから。それだと納得。内心自問自答しながら花開院さんの質問を聞く。
「職員室はどこですか?勝手がわからなくって」
「二階ですよ。この棟の…。あ、あたしも用がありますので一緒に行きませんか?」
あたしもクソ担任に用があるし…、と内心思いながら花開院さんに尋ねた。すると、花開院さんは一瞬目を丸くしてその後「お言葉に甘えて」と言ってあたしの後ろをついてきてくれた。
彼女を見てると、昔のリクオをまた思い出しのは秘密。
「花開院さんって、京都から来たんですね…。それに一人暮らし…、あたしも一人暮らしですよ」
「緋真さんもですか。えらい奇遇ですね…」
まぁ、あたしは理由の内容が違うけどね。なんてそんなことはいえないで、あたしはただ笑みを零すだけだった。
「困ったときはあたしに声をかけてください」
「ありがとう、ほな…」
そう言って、あたしと花開院さんは別々の担当と顔を合わせた。つかあたしの場合色々といいたいことがあるんだよクソ担任が。
「京都から来ました。花開院といいます。フルネームは…花開院ゆらです。どうぞよしなに…」
彼女はあたしのクラスに転校してきたのだった。うーん、やっぱりおっとりというか、見た目が仄々してて可愛いなぁ…。
と、担任の紹介が終わった後あっという間に花開院さんの周りは野次馬で群がった。どっから来たのー、ってさっき言っただろうがお前聞いてないのかよ。なんて思いながらあたしはその様子を見ていた。で、視界の端でなにやら清継くんたちが騒がしくてなんだろうかと見てみれば鳥居さんと巻さんに先日の旧校舎の話を尋ねられていた。
って、お前気失ってたから意味ないだろうが。
「今度こそは!!今度こそはたどりつく!!」
自信満々に言ってて…、うん健気だなぁ…
そう思っているとちょうど通りかかったリクオとカナさんを見た。リクオたちも呆れているようだった。
「あ、藤堂」
「はい」
担任に呼ばれ、あたしは席を立って先生の元に行く。なんなんだよ、あたしに何か用ですか?コノヤロー。
すると、担任は生徒にさせるかフツーとでも言うようなことを言い出した。
「明日学級委員長会議がある。その時、クラスの様子やらの報告があるからその為の資料を作っておいてくれ」
「………はい?」
今こいつ何つった?あたしの気持ちも知らないで、先生は言い始めた。
「本当は俺がするべきことなんだが、俺明日主張でな。すまないが、お前がしてくれないか?」
「合間を縫ってやればいいじゃないですか」
「それがこれからなんだよ」
「………」
ということで頼むな、と嵐のように去っていった担任。
ねぇ、殴っていい?
「事故死で死ね、あのクソ教師」
ポツリと呟いたあたしの言葉は、その時大声で「清十字怪奇探偵団!今日は僕の家に集合だからなー!」という清継くんに掻き消された。そのほうが都合いいんだけどね。
「え、緋真ちゃんは行かないの?」
「えぇ。今から仕上げないとしけない仕事が出来ましたから…」
放課後。あたしを誘おうとしたのか、あたしの教室にカナさんとリクオがやってきた。いや、あたしはマジで今から死ぬ気でしないといけないことがあるから。
そう言うと、カナさんは悲しそうに項垂れた。リクオも何故か寂しそうだった。
え、なんで?
「と、とにかく…。また明日ね」
「…うん、また明日!」
「仕事、頑張ってね」
「…奴良くんもね」
カナさんとリクオにそう言って、あたしは彼等を見送った。
「緋真ちゃーん」
「どうかしたの、冬青?」
「んー、帰らないのかなって思って」
「…帰りますよ」
冬青に手を引かれ、あたしは教室をあとにした。
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