影と日の恋綴り | ナノ
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 明かされる

「雪村!奴良、!?」

まず最初に駆けつけたのは副長である土方さんだった。あたしの姿を見た瞬間、言いかけた言葉は消え、固まってしまった。千鶴は切られた箇所を手で抑えながらも、土方さんの姿を目にした瞬間安心したように息を吐いたのが見えた。
しかし、駆けつけたのは彼だけじゃなかった。

「千鶴!緋真!」
「千鶴、だいじょうぶ、っ!?」
「!?」

土方さんの後、幹部の皆が全員やって来た。
そして土方さん同様、息を呑む。

「こ、れは……!?」
「おいおい、何が起きてんだ…!?」

状況が理解できていない彼らはただその光景を見る事しかできなかった。
彼らからしたら、一体どう見えているのだろうか。
怪我を負って動けない千鶴に、ピクリとも動かない事切れた羅刹が二つ。そして、その傍らで刀を片手に、血塗られた姿のまま立っている女。
どう見ても、あたしが悪者でしかならない絵図だった。
ずっと背を向けたままのあたしだったが、彼らがどんな顔になっているのか純粋に気になってゆっくりと振り向いた。
最初に目に入ったのは、彼だった。

「!お前……!」
「………」

あたしの姿に見覚えのある左之助さんは、思わず声をかけてしまう。けれど、あたしはその声掛けに応えないまま、何も言わないまま、じっと彼らを見つめるだけ。
見つめるけれど、あたしの気持ちはただ悲しみしかなかった。

「(ああ、ばれちゃったな。こんなにも、呆気なくバレちゃうなんて)」

頬についた血をそのままに彼らを見つめるあたし。しかし、彼らは違う。見覚えのない人物が千鶴の前に立って、そして羅刹であったとして仲間を殺されたのだ。殺気を放ち、警戒するのは当たり前の事だった。
最初に声を放ったのは新八さんだった。

「お前は何者だ!?」
「千鶴から離れやがれ!」
「………」

平助と続き、沖田さんと斎藤さんは無言であたしを睨み警戒する。事情を知っている土方さんや近藤さんが何か言おうと口を開けかけるが、それをあたしは目で制した。
殺されるだろうか。
それとも、出ていけと言われるだろうか。
こんな形で知られたくなかった。
ふと、彼は一つ、見当たらない姿に気付いた。

「……おい、緋真は何処だ…!?」
「…………」

彼の問いにも答えず、あたしは静かに土方さんへ目を向けた。

「……悪かった、土方。お前との約束を破ってしまった」

そう言うと、皆はあたしから土方さんへと顔を向けた。皆の視線を受けた彼は観念したようにため息を吐いて口を開けた。

「……元の姿に戻れ、緋真」
「!?」
「え…!?」
「緋真…!?」
「………」

耳を疑った皆の前で素直にあたしは昼の姿に戻った。
心の中で念じると、妖気は消えて人間の姿。
それは、よく見る姿のあたし。
今迄に見たことのない姿に、そして正体があたしだったことに皆が目を疑う。そんな彼らを横目に「土方さん、ごめんなさい」と謝ると、土方さんは目を伏せて「気にするな」と返してくれた。理解が追いついていない他の幹部はあたしと土方さんを互いに見て、どういう事だと目で訴えてくる。あたしから話すべきだろうと思い、口を開けた。しかし、それよりも先に面倒ごとがあたしたちの前にやってきた。

「……まったく、こんな夜中に、何の騒ぎですの?」
「!伊東さん……!」

眠そうな目をこすりながら、部屋の中へ足を踏み入れた伊東さんはその光景に硬直した。それもそうだろう。部屋には絶命している隊士と、武器を片手に集まっている組長たちという、あまりにも惨殺的な光景があったのだから。

「な、何なのですか、これは!」
「……ちっ」
「そこの隊士には、見覚えがありますわ。確か、隊規違反で切腹させた筈では……!それに、この血……!あなた方の仕業ですの!?」

平助がとっさに違うんだ、と訳があるんだと言いかけたけど、伊東さんは聞く耳を持たない。事情もなにも知らない彼からしてみれば、幹部総出で寄ってたかって隊士をなぶり殺しにしている光景にしか見えないのだから。面倒だ、と思わず嘆息を吐く。説明なさい、と気色ばんだ声を上げた時だった。

「皆さん、申し訳ありません。私の不注意が原因です」
「山南さん……!」
「さ、さ、山南さん!?」

廊下から現れた彼、山南さんの姿を目にして、伊東さんはさらに驚愕に目を見張った。

「何故…!?なくなった筈のあなたが、ここに……!?」
「その説明は後ほど。とにかくこの場の始末をつけなくては」

伊東さんの横を通り過ぎ、山南さんは室内の光景を目の当たりにして息をのんだ。ショックを受けている山南さんに新八や平助が山南さんの所為ではないというが、彼の監督不行き届きが原因の一つでもあると思ったあたしは何も声をかけなかった。
しかし、現状理解をしていないのはたった一人。伊東さんはわめき散らすように、どういうことだと周りに訪ねてくる。しかし、この現状の意味を分かっていないのが自分だけだと思うと、彼は一変、どういうことかと余裕気な笑みを浮かべて聞いてきた。

「私は山南さんは亡くなったと聞かされておりましたのにねぇ。みんなしてこの伊東をたばかっていた……と?私は仮にも新選組の参謀ですよ?その私に黙ってはかりごとを……。納得のいく説明をしてもらえるんでしょうね!」
「っ!」
「ああっ、いちいちうるせぇんだよ、てめぇは。ちっとは黙っていやがれ!」

黙れ、とそう叫びたくなったあたしよりも先に、口を開けたのは土方さんだった。今までとは違って、怒鳴るように言った土方さんの言い方。慌てて近藤さんが間に入るけれど、伊東さんも聞く耳をもたず。それよりも、山南さん本人から説明を聞こうと彼に近づいて行った。
その時だった。
彼の異変に気付いたのは。

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