影と日の恋綴り | ナノ
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 埋められない距離

家長カナ(であろう少女)と別れてあたしはグラウンドへ出た。
グラウンドでは、多くの家族が集まっていて楽しそうにこれからの予定を話し合っていたり、祝いにと写真を撮ったりとしていた。嬉しそうに笑いあう様々な家族の様子をよそにあたしは学校を早く去りたかった。

「…」

居心地が悪かった。
転生したとはいえ、あたしは孤児。あたしの親という存在は知らないし、あたしを捨てたんだ、ろくでもない親なのだろう。けど、生まれた頃の記憶が本当に無いのが不思議だ。転生したと、自我が芽生えたのは8歳の時なのだ。それまでの八年間、あたしは何をしていたのか、本当に分からない。
けど、それよりも自分だけが孤独である事に息苦しく感じてしまい、あたしは足早に帰ろうとした。
けど、聴こえてしまった。聞きたくなかった、けど聞きたかったその名前。見てしまえば、その人に向かって走りたかった。

「あ、燈影!それにおじいちゃん、神無!」
「!!」

人ごみの多い中、あたしは立ち止ってしまいその声がした方向を見てしまった。
そこには…

「っ…!」

会いたい存在が全員、居たから。

「おー、リクオ。どうじゃった?入学式は?」
「うん。人間らしく出来たよ!」
「…そうか」
「親父、そうションボリすんなって」
「うっさいわい!!三代目を継ぐのはリクオじゃい!」
「ぬらりひょん騒がしいぞ。周りの迷惑だ」
「燈影様、それは初代様をもっと傷つけるのでは…」
「構わん」
「それでリクオ様ー、これからはどうするのですか?」
「どういう事、河童?」
「人間として生きていくのですか?」
「当たり前だろ!これいじょう妖怪のことが知られたら…!」
「リクオ様、昔は元気だったのに…」
「首無、なんでアンタがそんなに感傷的になってんのよ」
「うぅ…!拙僧は、嬉しゅう御座います…!!」
「それはそれでウザいわよ…」


燈影、ぬらりひょん、神無、首無、毛倡妓、黒田坊。青田坊と氷麗がいないのは、きっと人間に化けているからだろう。
だとしても、この距離はなんなのだろうか。

「…」

あと数歩歩けば、近づくことが出来る距離。それが、とても長く感じてしまった。
燈影も、神無も、爺やもお父さんもお母さんもリクオも皆元気そうで良かった。
安心した。
けど、心が痛かった。

「…っ」

ツゥ、と一筋だけ涙が頬を伝った。

「(あたしは、此処だよ…)」

こっちを向いて欲しい気持ちと、向かないで欲しいと言う気持ちが交ざり合う。
どうして、あたしだけこんなにも皆から離れてるのだろうか。皆があまり変わってない事に喜ぶ一方、どうしてあたしは生き方も、生まれも、育ちも変わってしまったのか、自問自答してしまう。

「(おと、さ…)」

喉で何かに邪魔されて声が出ない。じっと見つめても、お父さんは気付いてくれない。
あたしの存在が見えていない。

「…」

長居は無用。逆にずっと見つめていたら怪しまれるだろう。そう思って、流れたそれを荒々しく拭き取ってあたしは何も発することもなく学校を後にした。

「…ん?」
「?…どうかしたのか、鯉伴」
「いや、…なんでもねぇよ」

お父さんが、あたしが居た場所を見たのはあたしが正門を去った後だった。

「…緋真、あっちで元気にしてんのかねぇ…」
「……そう、だな…」
「あいつが此処に居たら、また一層華やかになってただろうにな…」
「…もう、言うな」
「…、…悪ィ」

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