影と日の恋綴り | ナノ
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 畏をぶつける

暗く冷たい闇から現れたのは、この世ならざる異形の存在達だった。
千鶴を守るように立って、三人を睨みつける。

「よぉ。また会ったな、女」
「………」

褐色肌の男、不知火匡が不敵な笑みを浮かべてあたしにそう声を掛けた。けど、そう反応を見せるつもりはなく、だんまりを決め込んだ。それを面白おかしく鼻で笑った不知火。

「貴様に用はない。そこを退け、女」
「……あら?この子に用があるのかしら。知り合いとは思えないくらい、彼女は怯えてるわよ」

袴を着ているが、あたしが女であることに気付いている。千鶴のことも気付いているのは明白だ。

「だから何だというのだ。力ずくでも、我らと来てもらう」

彼らの目的が千鶴だけ。千鶴だけでもこの場から離れさせたいけれど、千鶴は殺気に顔を青ざめていて、どう見ても動ける様子はなかった。
それなら、あたしは彼女を何がなんでも守ってみせる。

「な、なんで……ここにいるんですか……!?」
「あ?なんで、ってのが方法を言ってんなら、答えは簡単だ。……オレら【鬼】の一族には人が作る障害なんざ意味を成さねぇんだよ」
「そう。私たちはある目的のためにここに来た。君を探していたのです。雪村千鶴」

不知火に続いて天霧九寿が千鶴に目を向けてそう言った。困惑する千鶴とは反対にあたしは、不知火が言った言葉に思考を巡らした。
【鬼】。彼はそう言った。人間の姿をしているけれど、やはり妖気を隠しきれてはいなかったし、本当の事なのだろう。物語の流れは知っているため、千鶴が【鬼】であることも本当と言えよう。
けれど、千鶴は突然の急変した事態に、自分に迫り寄る彼らに恐怖を抱いていた。

「……い、言っている意味がよくわかりません。【鬼】とか、私を探してとか、……私をからかっているんですかっ!」
「……【鬼】を知らぬ?本気でそんなことを言っているのか?我が同胞ともあろう者が」

千鶴が張り上げた精一杯の声を一蹴して、彼らの長であろう存在の風間千景が闇を引き連れて一歩踏み出した。ビクリ、と千鶴の肩が揺れた。恐怖を拭うように、彼女を自分に引き寄せる。
風間に続けて天霧は、子供を諌めるような静かな音色で千鶴に向けて口を開けた。

「君は、すぐに怪我が治りませんか?」
「!?」
「……」
「並の人間とは思えないぐらい、怪我の治りが早くありませんか?」
「そ、そんなことは……」
「………」

あたしがいる手前、答えることのできない千鶴。肯定しかけた唇を引き結ぶ彼女に、今度は不知火が口を開けた。

「あァ?なんなら、血ぃぶちまけて証明したほうが早ぇか?」
「……っ」
「千鶴、下がりなさい」

彼の得意武器である銃をちらつかせてそう言う不知火に千鶴は息を呑む。そんなこと、簡単にさせるわけないじゃない。嫁入り前の女の子に傷を作らせる気もない。

「……よせ不知火。否定しようが肯定しようが、どの道、俺たちの行動は変わらん。……多くは語らん。鬼を示す姓と、東の鬼の小太刀……それのみで、証拠としては充分に過ぎる」

そう言った風間の視線が千鶴の腰に据えた小太刀に向けていた。千鶴が重苦しい空気に膝が笑いかけていることに気付いた。
このままだと、彼女の精神的にも危ない。

「言っておくが、おまえを連れていくのに、同意など必要としていない。女鬼は貴重だ。共に来い」

そう言って闇から千鶴に向かって手が伸びかける。
その瞬間。

「<……そう簡単に、彼女を渡すわけないだろう?>」

ぶわり、と畏を発動させた。

「!?」
「!」
「な…!」
「きゃ……!」

伸びかけた手が引っ込められたその隙に、千鶴を抱きかかえて距離をとった。
相手を威圧するために畏を放っただけ。自分に畏れた彼ら。どうやら畏で相手の意表を突くことはできたみたい。

「……おね、さま……」
「千鶴、あたしから離れんじゃないわよ」

あたしの愛刀である鬼哭を鞘から抜き、その切っ先を風間達に向けた。
今まで感じた事のない気配に三人があたしに警戒し始める。天霧も身構えているし、不知火はあたしに銃口を向けていた。風間は一人、あたしを睨みつけている。

「……貴様、一体何者だ」
「この娘を無理矢理連れて行こうとした野蛮人に、言うつもりはなくってよ?」
「貴様……!」

馬鹿にされたことに逆上する風間。三対一の今の状況、あたしに勝ち目は無いといってもいい。不知火の銃撃があるなら尚更。
それなら、あたしは彼らが来るまで時間稼ぎをすればいい。

「……千鶴」
「は、はい…!」
「怖かったら、目を閉じてなさい」

安心させるように、ニッコリと笑って見せる。千鶴の目が大きく見開かれたが、彼女の反応を気にしている暇はない。
ギュッと千鶴を抱きしめ直して、鬼哭を持つ手に力が入る。

「さぁ、かかってきても構わないわ。鬼退治でも、させていただこうかしら」

チャキ、と刀が鳴る。その刀を見て、彼らの顔が一瞬硬くなったのに気付いた。でもそれは瞬く間の事。すぐに、自分達を侮辱したあたしに怒りを見せる。誰から相手をしてくれるのか。それとも、三人が同時に斬りかかってくるのか。千鶴がいるからといって、人間の姿のままじゃいられない。
さて、どうしようか。
そう思った次の瞬間だった。

「!」

闇を、白刃が切り裂いた。

「おいおい、こんな色気の無い場所、逢引きにしちゃ趣味が悪いぜ……?」
「……またおまえたちか。田舎の犬は目端だけは利くと見える」
「……それはこちらの台詞だ」

一閃で風間達を大きく退けて、槍と刀を抜き放った二人があたし達の前に立った。

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