影と日の恋綴り | ナノ
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 喜び、そして苦痛

第三の人生を歩み始め、あたしはとうとう中学校に入学した。

「院長に何処の中学校なのか聞いてなかったけど、地図貰ったからまぁいっか…」

独り暮らしを始めて一週間。中学生が一人暮らしという貴重な体験をしたのか、大家さんがとても親切にしてくれているからとても嬉しい。
大家さんと仲良くなっておこう。

「…行ってきます」

誰も居ない家に呟くように言って、あたしは家を出る。地図を頼りに学校へ行くと、次第に視界にちらほら映る家族の姿。その中で、真新しい制服を着ている子も多く見られた。この流れに乗って行けば辿り着くようだ…。
しばらく歩けば、学校が見えた。そして正門前に大きくかけられている『公立浮世絵中学校入学式』の看板。

「浮世絵中かぁ…」

って、ん?浮世絵中学校?

「…ぇ、」

あたしは目を丸くした。だって、思いもしなかったから。
転生して、また別世界に転生したと思ってた。
でも、違った。
ここは【ぬらりひょんの孫】の世界なのだ。
あたしはまた、この世界に生を与えて貰ったのだった

「っ…」

これで、またリクオを守れることが出来る。リクオに会う事が出来る。あの子の笑顔が見れる。
嬉しくて嬉しくて仕方がなかった。

「っ…ありがとう、ございます…!」

あたしは誰に礼を言っていいのか分からないけど、それでもあたしをまたこの世界に生かせてくれたことに感謝した。
あたしが、これから出来ることを必死に探します。

 

「………楽しそう、だなぁ」

式が終了し、あたし達新入生はそれぞれHR教室に戻るよう促された。その日は、あたし達は午前で終わるようで簡単に担任が自己紹介して、明日の予定を教えてくれて、それで解散。
親や友達と一緒に仲良く歩いたり話している姿が目に映る。
微笑ましくて、羨ましかった。

「さて、あたしも帰るか…」

席を立って廊下を出ようとした。その時、何故だか廊下が騒がしかった。なんというか、悲鳴のような、そんな声があった。なになに、イケメンでもいたの?なんて思いながら教室から覗き見ると…、

「ッ!?」

そこには会いたくてしょうがなかった存在が。

「リク、オ…」

弟だけじゃなかった。

「…お母さん、お父さん…」

若菜様と必死で命をかけて守った、鯉伴様がいた。
廊下の騒がしさの原因はお父さん達であることが一目瞭然だった。
いやまぁ、確かに、お父さんはイケメンだしお母さんは中学生の母親なのにもの凄く若いし、リクオは可愛いし…。あ、なるほど騒がれるわけだ。
そんなことを思う半分、あたしは慌てて教室へ戻ってそのまま教室から三人の様子を見た。

「…元気、そうで良かった…」

お父さんも、お母さんもリクオも、あれから何もなかったようで元気に過ごしているようだった。良かった。本当に。
でも…

「ツラい、ね…」

会いたくても会えない。
だって、あたしは【奴良緋真】じゃなくて、【藤堂緋真】だから。
死んだ存在が、生前の家族に会う資格なんてあるわけがない。

「っ…」

辛い、胸が締め付けられる。
苦しくて、哀しみが込み上げてきた。
一人、自分の世界に入っていると…

「大丈夫?」
「!」

たまたま通りかかったのだろう。とある女子生徒があたしに声を掛けてきた。

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