影と日の恋綴り | ナノ
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 同じ場所、同じ

「ためそうと思うことがあるんや。成功したら…“強力な結界”になる。四百年は妖は好き勝手出来ないやろうな……」

十三代目秀元さんの言葉が燈影や爺やに言った言葉が蘇る。
京を守る排魔の封印。千年の怨念が通う重大な地脈を塞ぐ、螺旋型の強力な結界陣。京にある八つの寺社や城に封印の杭を施し、強力な妖を封じ込め“栓”にすることで、妖を京都に侵入するのを防ぐもの。
それは完璧であるもの。
なのに、この世界は違った。

「緋真、準備はいいか?」
「はい、大丈夫ですよ。左之助さん」

まだ西本願寺に移転してから数日しか経っていない。普段の仕事に加え、荷物の移動や掃除などで忙しいのに、今日あたしは左之助さんと共に京内を廻ることになった。
あの日、土方さんは京内にある八つの寺社と城をまわる事を許可してくれた。信用しているのかは分からないけど、池田屋での事とかを思い返したのだろう。
そして今日、非番であった左之助さんが監視役として同行してくれたのだ。

「左之助さん、ごめんなさい。今日非番なのに……」
「構わねぇよ。非番っつっても、どーせ新八達がいなきゃのんびりすることしかねーからな」

笑ってそう言う左之助さんに救われた。八つの封印場所へ向かうのは骨が折れるため、二日に分けて行くこととなった。一日目である今日は、第八の封印場所である伏見稲荷神社から第五の封印場所の龍安寺まで行くことにした。

「てんでバラバラだが、この四つには何かあんのか?」
「いえ、ちょっと……思い出すものがあって」
「!…記憶、何か戻ったのか?」
「全部じゃないんです。でも…懐かしいものを感じて…」

記憶喪失という自分の設定を忘れかけているけど、左之助さんや他の幹部はそれを前提にあたしと話している。時々墓穴を掘りそうになるけど、記憶喪失という言葉によって助けられてもらっている。
今回もそれである。

「…もしかしたら、緋真は京によく遊びに来てたのかもな」
「そう…なのかもしれませんね。曖昧ですけど」

優しい声色でそう言って励ましてくれる左之助さんについ甘えてしまう。騙しているのは良心を傷つけるものだけど、この世界で衣食住を確保するためには仕方のないこと。いつか、本当の事が言えたらいい。
でも、言えたとしてもその時あたしは元の世界に帰っているのだろう。

「緋真?」
「!」

名前を呼ばれてハッと弾くように顔を上げた。見上げれば、心配そうにあたしを見ている左之助さんが。どうやら自分の世界に入っていたようだ。全く話を聞いていなかった為、左之助さんが何を話したのか分からず素直に謝る。けど、突然静かになったあたしを心配しただけだったそうだ。

「普段長い事歩かねぇから、疲れたらすぐに言えよ」
「いえ、大丈夫です。これでも、日々足腰は鍛えられていますので!」
「ははっ、そうかよ」

日頃の炊事洗濯をしているのがあたしと千鶴であることを思い出した左之助さんは笑った。その笑顔にほっと肩が撫で下ろされた。どうやらあたしは、左之助さんと一緒にいると気を緩んでしまうようだった。
ゆっくりとした足取りだけど、左之助さんと最近何があったのかとか色々と話しているとあっという間に伏見稲荷神社に到着した。

「いつ見ても圧巻だな……」
「……綺麗…」

昼間で参拝客はそこそこいた。でも、現代のように観光客がいるわけじゃなかった。
思わず引くくらい無数にある千本鳥居に左之助さんと違って、あたしは思わずそんな言葉を口にしてしまった。“私”が行った時、羽衣狐と対決する時、どちらの時も伏見稲荷神社は長い年月を感じさせるほど古くなっているものがあった。でも、この時代の伏見稲荷神社は、言葉は悪いかもしれないが魅了するくらい綺麗だった。

「それで、緋真。どこに行くんだ?」
「え、あ…」

圧倒されていたけど、そうだった。此処に来た目的を忘れてはいけない。
左之助さんにそう促され、本殿へ行くことを告げる。一瞬何で、という顔をされたがすぐに分かったと言って案内してくれた。神域の中を歩きながら、左之助さんは自分が知っている事を教えてくれた。
本殿に到着したら、あたしは宮司様に会いたいという旨を禰宜の人にお願いした。そう簡単に会える人ではないと分かっているため、此処の封印について知りたいと加えて言えば顔を青ざめて宮司様に会わせてくれた。

「緋真、あいつに何て言ったんだ?」
「えっと…相談したい事があるって、言ったんです」
「……俺達に言えねぇことなのか?」

きゅっと眉間に皺を寄せて不満そうな声で言った左之助さん。思わず目を丸くしてしまった。どう答えたらいいのか分からなく、黙ってしまう。左之助さんはふっと微笑を浮かべ、気にするなとあたしに言ったのだった。

「……いつか、話します」
「緋真…?」
「今はまだ、言いにくくて……。でも、話したいとは思ってます」

だから、待っててくれないでしょうか。
そう言うと、左之助さんは一瞬目を瞠り、すぐに目尻を和らげて「おう」と言ってくれた。
その後、宮司様が青ざめた表情でやって来てあたしは封印場所へと案内された。左之助さんはさっきの言葉もあってかついて行こうとしないで待ってくれた。

「ここが、封印場所でございます」
「………」

宮司様の案内のもと向かった場所にあったのは、西本願寺と酷似、いや、まったく一緒の杭と結界だった。
静かに地面に手を置けば、感じた妖気。

「……」

予想通りのことに、思わずため息が出てしまった。

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