影と日の恋綴り | ナノ
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渋る住職様を説得させ、地下に案内をしてもらうことになった。土方さんが自分も行こうとしたけど、もし万が一にもその杭が人間の手によって抜かれれば、最悪な事態を招く事になるためお引き取り願った。そこまで警戒しなくてもいいかもしれない。
でも、もしあたしが思っているものなら…。

「こちらになります」

頼りない蝋燭の灯り一つで、西本願寺の奥にある扉から地下へ通ずる道を歩く。カタカタと金属音がするのは、蝋燭を持った住職様から聞こえた。今まで守り通したものを破いてしまったという後ろめたさや後悔があるのだろう。あたし一人でも良かったが、住職様の案内が無ければ通れないのだから仕方ない。
だが分かってほしい。
この世界に存在する封印が、“ぬら孫”と同じだとしたら、本当に厄介な事にしかなりかねないのだ。
道だったものが、階段に変わる。一段一段降りていくうちにひんやりとした空気に変わる。陽も当たらない場所で、真っ暗なら冷たいのも仕方ないことだ。冷静に辺りを見渡していると、一番下まで到達したようだった。住職様が辺りを灯す松明に火を移した。徐々に明るくなっていく空間は、前世でアニメや漫画で見たあの光景を思い出すようなものだった。

「…これが、件の封印の杭になります」

大きな空間だった。天井が見えないほど高く、そして広い場所。誰が想像していた事か。西本願寺の地下にこんな大きな空洞があるとは思いもしないものだ。
でも、あたしは知っている。
そして、あたしの目と鼻の先にあるこんもりと盛ってある砂地の上に差してある杭を。

「……貴女は、何が封印されているのか知っているのですか?」
「………」

もう一度尋ねられたが、答えなかった。じっと見つめた後、ゆっくりと杭に歩み寄った。住職様が息を呑んだのが分かったが、何も言わなかった。
足音を極力立てず近付き、杭とその周りに囲まれた結界をじっと見つめた。静かに座り込み、地面に手を置いた。冷たい砂のその下に眠っているはずのモノの気を確かめるようにして。
ゾワリ、と背筋に冷たいものが走った。

「っ………」

弾くようにして手を離して立ち上がったあたしに住職様は情けない声を上げた。悟りを開いても、恐怖を消すことはできないようだ。
感じたモノは間違いなく妖気だった。
つまり、此処に封印しているのは妖怪ということになる。

「………」

どうなってんのよ…ここは…。
“ぬらりひょんの孫の世界”か“薄桜鬼の世界”なのか、どっちでもないのか。それとも、融合しているということなのか。
未だ元の世界に戻る術が見つからない中、次々と浮上してくる問題。

「……住職様」
「は、はい」

ただ、今分かっている事は…。

「…此処には誰も近付かせないよう、お願いします」

慶長の封印は、完璧じゃないということだった。
地下から出たあたしは住職様に詳しいことをお話をしないまま、地下に通ずる扉に結界を施したお札を貼らせて頂いた。妖怪が近付くことも、人間が容易く近付くこともできないはずだ。それからあたしは、土方さんと近藤さんのもとへ向かった。説明もしないまま住職様と地下へ行ったから、苛立ったままの土方さんに小言をもらいつつ、事の真相を明かした。

「住職様が話された内容は間違いないです」
「…何かが封印しているってやつか」
「はい」
「その何かとは、なんなのか教えてはくれないか?」
「………」

優しい声で尋ねた近藤さんに、一度口を開けて思わず閉ざした。彼らが特に何かをするということはないだろう。そんな事よりも、すべき事があるはずだから。
でも、もし言ってしまえば彼らはどうするのだろうか。
黙り込んだあたしを土方さんが苛立ちを隠さないまま「さっさと言いやがれ」と命令した。
そうやって脅して…後悔したって、知らないから。

「妖怪です」
「…何だと?」
「……まさか。それは本当か」

驚きを隠せない二人。でも、嘘じゃない、本当のこと。近藤さんの言葉に肯定するため一つ頷いて彼らに住職様の話した事を補足した。

「二百年程前に、ある陰陽師が“慶長の封印”という、螺旋型の強力な結界を施されました。八つの寺社や城に封印の杭を施し、強力な妖を封じ込めて「栓」をすることで、妖が京都に侵入するのを防ぐものです」
「…その一つが、此処なのか」
「はい。本来なら、妖は一歩も踏み入れることが出来ません。触れることができるのは、人間のみ。妖が杭を抜こうとするならば、人間の肉体を持たなければならないのです」
「つまり、人間は簡単に抜くことができる」
「そういう事です」

一応、地下に通ずる扉に結界を施したことを伝えるが、一方隊士に伝えることはやめてもらった。怖いもの知らずが行ってしまえば京が再び妖に跋扈してしまう。だけど、本来は外殻の封印から順々に封印を解いてしまわないといけない。例えここを抜こうとしても抜けいはず。
でも、一概にそう言えない。

「(池田屋事件の時、妖は現れた。そして、禁門の変で会ったあの人達は、紛れもない鬼だった)」

つまり、慶弔の封印は完全ではない故に、順番に抜かなくても妖は復活する恐れがあるということになる。
それは一番危険なものになってしまう。
どの妖が封印されたかは分からないが、もし、土蜘蛛が復活してしまえば…。

「(京は、再び破壊し尽くされてしまう)」

花開院家が存在していないこともすでに確認済みだ。
なのに、この封印は存在しているというのは不思議でもある。まるで二つの世界が混じり合っているようなものだ。
それは、つまり。

「…土方さん」
「なんだ」
「確認のために、八つの封印を調べさせて頂きたいです」

あたしが元の世界に帰る方法が全くもって分からなくなったということだ。

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