影と日の恋綴り | ナノ
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 西本願寺の言い伝え

山南さんの一件もあり、新選組は西本願寺に屯所を移転する事になった。池田屋事件、禁門の変が続いて起こったこともあり、幕府にとって長州が討伐対象になってしまった。西本願寺は長州系志士との繋がりもあったから、一種の牽制にもなれた。
必要な荷物を持って行けば、あたしが生きている時代と遜色変わりない寺院に思わず見とれてしまった。

「ここが、皆さんの新しい屯所なんですね」
「えぇ。前川邸よりも広いから迷わないようにしなきゃいけないわ」
「はい」

千鶴と楽しく話しながら、境内に足を踏み入れた。
それから土方さんの指示のもと、幹部や隊士達の部屋やあたしと千鶴の部屋を振り分けられた。自分達が使う場所の掃除をしながら西本願寺の内部を覚えて行く。

「(…西本願寺かぁ)」

京都で西本願寺といえば、あたしの世界の方を思い浮かべるものでもあった。
“ぬらりひょんの孫”での西本願寺は“西方願寺”という一文字変えたものだった。花開院家十三代目当主の秀元さんが排魔の封印を施した結界人の「栓」の一つ。

「まぁ、ここにはそんな所はないか…」

あったら大事になってる。と思わず苦笑を浮かべて、寺院内を散策している時だった。
本堂の近くまで歩いていると、土方さんと近藤さん、そして住職様が三人で深刻そうな顔つきで話をしている様子を見かけてしまった。特に住職様は恐怖の色まで浮かばせているようにも見えて、土方さん達に何か忠告をしているようだった。

「…ここを貴方達の屯所としてお許し致しましたが、どうか一つ、足を踏み入れないで欲しい場所があります」
「踏み入れちゃいけねぇだと…?」
「はい。例え幕府の方であろうと、絶対に入ってはならぬ場所です」
「それは、どんな所でしょうか?他の隊士にも伝えるため、簡単にでもいい。教えてくれまいだろうか?」

盗み聞きしてしまっているが、これ以上後には引けない。土方さん達だけじゃなく、幕府のお偉い人でも駄目な場所があるなんて、何かあるのは確か。土方さんは、長州の人を匿う場所じゃないのかと睨んでいるようだけど、住職様の様子からしてそうじゃないようだった。
震わせた唇をゆっくりと開けて、住職様は二人に言った。

「この西本願寺には、二百年程前にあるモノが封印されているのです」

…え……?
一瞬、頭の中が真っ白になった。住職様はあたしや、土方さん達が訝しげに見ているのにも関わらず話を続けた。

「本当かどうか、私にも分かりかねます。ですが、この西本願寺の地下には誰も近付かせるなと、代々住職に言われております」
「……その“あるモノ”とは、何でしょうか?」
「つーか、ここ地下ってのがあったのかよ」

土方さんの気持ちは分かる。まさか西本願寺に地下があるなど誰が思っていたことか。近藤さんは困ったように笑って尋ねるが、住職様は首を横に振られた。

「それも、分かりません。私も一度もその地下に足を踏み入れたことがないのですから。ですが…」

そう言って住職様は二人を見た。
ドクン、ドクンとやけにあたしの心臓は大きく鳴る。じわりと手のひらに汗が出て、心なしか震えている気がする。
待って。どういうことよ。

「ここ京の都には、二百年程前に八つの封印を施されたと聞かされています」

どしりと両肩に重りが置かれた感覚だった。
二百年前っていえば、丁度戦国時代が終わるくらい。豊臣政権が衰退し、徳川家康が勢力を拡大している頃だ。そのころは、この都でも血が幾度も流れ、死者が出て、決して美しいとは言われていなかった。
もし、あたしの、“ぬら孫の世界”と同じだとしたら?

「(確かめ、なくちゃ……)」

八つの封印である「栓」はどの場所に施したのか。
その封印を解いたら何が起きると言われてきたのか。
まだ話の途中だが、この事はあたしは絶対に知っておくべきものだ。ギシリ、と板のきしむ音に三人はあたしの方を向いた。まさか聞いている者がいるとは思わなかったのか土方さんが声を上げる。けど、あたしは真っ直ぐ住職様だけしか見ていなかった。

「住職様。そのお話、詳しく教えてください」
「お前、聞いてたのか…!?」
「お願いです。その封印は、“慶長の封印”というものですか……!?」
「!」

あたしの言葉に住職様はどうしてそれを、とあからさまな反応をした。つまり、あたしが思っているもので正解だということだ。土方さんと近藤さんはわからないため、首を傾げている。詳しく知りたいけど、まずは確認をしないと説明ができない。
無言で肯定され、さっと顔を青ざめたのは、住職様だけじゃなくあたしもおなじだった。

「その封印は、誰がしたとか、何が封印しているかとか聞いてないですか…!?」
「いえ…。先代からは、近付くなとだけしか言われておらず……。なにが封印しているのかも分からないのです。…貴女は、その封印の事を知っているのですか?」
「っ…。…いえ、自分の知ってるものと同じなのか…それを確かめたくて……」

同じだと話は出来る。けど、もし違うのならば、彼らに、これから屯所として生活していく新選組の隊士達に不安と恐怖を抱かせるわけにはいかない。
あたしの気持ちを汲み取ってくれたのか、住職様はそうですか。とだけ言ってそれ以上何も聞かなかった。

「おい、奴良。どういう事だ」
「何が何だか分からんが、教えてくれないか?」
「………」

二人が知りたいのも仕方のない事。
でも…。

「少しだけ、待って下さい。……確認してから、お話します」

本当に封印の栓である杭があるのか。

「お願いします。その封印があるという地下に案内させてください」

それを確かめねば、教える話はない。

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