影と日の恋綴り | ナノ
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 独り暮らし

院長先生に呼ばれ、院長室に向かいながらあたしは思った。
ここの院長は女性で、温厚で優しい人。むやみやたらに子供達を叱るようなことはなく、平和主義。職員達も、同じような性格の人が集まっている。
ここに預けられたあたしは、かなり幸運だったろう。
アットホームで、居心地が良い。
で、そんな院長先生があたしをお呼びだと言う。

「(ん?あたし…何か言われるようなことをしたっけ?)」

ここ最近を振り返ってみるが、どうもそれに相当する事象は見当たらない。
三回目の転生であったから、もう子供の振る舞いをするのは面倒になったから、極力先生たちの手伝いをしているのは憶えてる。
先生はあたしをいい子としか見ていない(ハズ)。

「…思い当たること、ないんだけどなー…」

あ、でも、一つだけあるっちゃあるね。

「ありゃりゃ、またあそこで…」

あたしの視線の先にはフワフワと浮いている女の子。あたしの存在に気がついたのか、女の子はスゥーとあたしに近付いてきた。
そう、あたしは“視える”のだった。

「あらあら、今日はどうかしたの?」
“お姉ちゃんを見かけたからつい…”
「そっか。それにしても、此処にずっといると貴方が危ないよ?」
“うん、でも…”
「大丈夫。怖くないから」
“……うん!”

そう言って、少女はあたしのヒーリングによって成仏していった。
幸せそうな、顔して。

「…さて、と」

あたしは小さく笑って、そのまま院長室をノックして入った。
院長はいつものように優しい笑みを浮かべて、私を迎えてくれた。院長以外に誰も居ないことから、あたしを引き取りたいという人と対面するわけでもなさそうだった。
院長は私を座らせて、お茶を出してくれた。一口頂いて、用件を尋ねた。

「…一週間後、ですか?」

院長先生の言葉を聞いて、あたしは目を丸くした。院長先生は朗らかに笑っていて、あたしが復唱した言葉にコクリと頷いた。

「緋真ちゃん、中学校はちょっと遠いでしょ?此処からだと、一時間以上も掛かっちゃうでしょ?」
「はぁ。そうですね…」

その時、この続きが何故か理解できてしまう。いや、もしかしたらあたしの勘違いかもしれない。でも、あんなに裏のありそうな院長先生の顔を見てたら…。
院長先生はにっこりと、言った。

「それでね、緋真ちゃん一人暮らししてみない?」

やっぱりー!!?ですよねー?!そうじゃないとあたしを呼ばないですよねー!!
あの微笑ましい、自分の子供を巣立ちさせるあの笑み
まさに母親の顔…!!

「ッ………」

こんなんだったら、絶対に…、

「…分かりました」

断れるわけないだろうが…!!!!

「あら、ホント?あたしも渋ったんだけど、やっぱり此処からだとキツいと思ってねー」
「はい、はい…」
「それじゃあ、一週間後に引っ越しは終わってるからその日に一緒に行きましょ」
「はい…」

先生はまたにっこりと笑って、あたしを退出させた。

パタン…

「ん?」

院長室から出たあたしに待ち構えていたのは10人くらいの子供たち。
おいおい、何でいるのだ?

「ど、どうしたの…?皆してここにきちゃって…」

自分の一番近くにいる男の子、ハルキくんにしゃがんで同じ視線で聞いてみたら…。

「……っ…うわぁぁぁぁあぁぁん!!!!」
「え。えぇぇぇええぇぇ!!!?」

いきなり号泣しました。そしてつられるように皆泣き始めた。

「ハ、ハルキくん…?!み、みんな…??!!」

慌ててあたしはハルキくんを抱っこしてあやす。ちょっと、マジで何でいきなり??!
あわあわとあたしまで混乱してしまう中、救世主が現れた。

「あらあら、皆して泣いちゃって」
「院長先生…!」

ガチャリと、あたしの後ろの部屋から、というか自室から出てきた先生は、苦笑を零しながらそう言った。

「この子達、聞いてたみたいね。緋真ちゃんがどこかに行くと思ってて…」
「ぁ……」

院長先生の言葉に、あたしは自分の腕の中で泣いているハルキくんを昔の自分と重ねてしまった。
前世の、初めてお父さんが出入りをする光景を見た日の事を。

「…おとーさん、何処行くのー?」
「んー?ちょっと出かけてくるんだよ」
「お出かけって、どこに…?」
「散歩みてぇなもんだ」
「…ひ、緋真もいく!」
「うーん、今のままじゃ駄目だなァ。もう少し大きくなってからだ。…だから、緋真はいい子で待っとけよ?」
「っ…う、ぅ…うわぁぁあぁぁあん!!あぁあぁぁぁあぁんん!!」
「ちょっ?!わ、若菜なんでいきなり緋真…ッ!!」
「きっとあなたが帰ってこないと思っていたのよ。緋真をおいていなくなるってね」
「お、おとさ…いかないでっ…う…ひっく…」
「……何処にもいかねぇよ。ちょっと、悪いことをしている奴らをお仕置きしてくるだけだからよ」
「おとーさ……」
「待ってろ、緋真」


「……」

懐かしい、としか言いようがなかった。あの頃のあたしと同じように、この子らもそう思っているのだろう。
何処に行くわけでもないのに。

「心配しないで、ハルキくん」
「緋真、ねぇちゃ…」
「ちょっとね、勉強しに行くだけなの。ここには、あまり帰ってこれないかもしれない。でも、あたしは絶対に帰ってくるよ」

ハルキくんと目を合わせて、あたしは言った。

「…ほんと?」
「ホントよ。お姉ちゃんが、嘘ついたことあった?」
「ない!」
「だったら信じて。帰ってきたら、ハルキくんがしたいこと、いっしょにするよ」
「…うんっ!!」

ハルキくんの元気な返事を聞いて、あたしはゆっくりとハルキくんを下ろした。ハルキくんは涙はもう引いていて、はにかんでいた。
あぁもう可愛い!

「それじゃあ、あたしは準備しますね」
「えぇ。一週間後、一緒に行きましょうね」
「はい、分かりました」

院長先生にそう言って、あたしは自室へと戻っていった。
…というか、私って中学校何処行くんだろう。

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