影と日の恋綴り | ナノ
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 賭けの結果は

自分は用済みの人間だという山南さんに怒りで声を張り上げてしまった。なんでそんなに自ら追い込むようなネガティブな思考になるんですか。なんでそんなに周りの視線を、言葉を気にして、弱くなっているのよ。
貴方は、そんな人じゃないでしょう…!?

「伊東の言葉がなによ。平隊士の陰口がなによ。左腕を負傷してネガディブになるのは分かるわよ。戦えないって分かると悔しい気持ちになるのだって分かるわよ。だからって、自分から周りと距離をとってる野郎が周りの言葉を鵜呑みにしてんじゃないわよ!」
「奴良くん……」
「新選組の事を想っているなら、まだ彼らと歩みたいと思っているなら、他の方法を探したらいいじゃないですか!たとえ背中合わせに戦えなくても、他にもできることはあるわよ!!っ…隊をまとめる総長が、一個人の勝手で隊を見捨てるようなことをするんじゃないわよ!!」

必死に伝えるあたしを山南さんはじっと見つめた。そしてフッと冷笑を浮かべて言ったのだ。

「剣客として死に、ただ生きた屍になれというのであれば、人としても死なせてください」
「!」

そう言って、彼は小瓶を開けて一気に口に含んだのだった。瞬く間の出来事に、妖の力を借りたとしても阻止することは出来なかった。

「山南さんッ!!」

空になった小瓶が床に落ちた。
ドクン、と静かな室内に響いた心臓の音は、あたしのものなのか山南さんのものなのかは分からなかった。
自分の顔が青ざめていくのが分かった。山南さんは心臓を鷲掴み耐えるような仕草でその場に膝をついた。

「ぐぁ……が……!」
「!?」

何かを耐えるような声。額を伝う汗も、必死に身に食い込ませた指も、普通じゃない。そうしてみるみるうちに変わっていく山南さんの容姿。
綺麗な鶯茶色の髪が真っ白な髪へと染まっていった。

「山南さんっ!」

咄嗟に駆け寄ったあたしに目を向けた山南さん。髪の隙間から覗く理性の薄れた瞳は、あの日見た紅い目をしていた。
まずい。
思わず後退しようとしたあたしよりも先に、伸びてきた手。

「っ…ぐっ…」
「く…くく……」

気道を圧迫されて息ができない。声を出したくても、でるのは掠れた息だけ。少しでも緩めたくて山南さんの腕を掴むけれど、力の差は歴然。指先に力も入らなくなって霞んでいく視界の中、彼と目が合った。

「!」

瞬間、バッと手が離れた。突然解放されて、いっきに空気が入ってきたために咳き込んでしまう。何度か繰り返しながらも呼吸を整えたあたしは彼を見ると、顔を手で覆う姿が。一つ大きく深呼吸をした山南さんはゆっくりと口を開けた。

「失敗…みたいですね…。思っていたより私は賭けに弱かったようです」
「っ…貴方に、得するような事が無いじゃないですか…!」
「本当に、そうなってしまいましたね…。……奴良くん」

失笑を浮かべた山南さんは、あたしの名前を呼んだ。目を合わせたあたしに、穏やかな表情で彼は言った。

「私を殺しなさい」
「……え?」

何て言った、この人は?
殺せ?私が、山南さんを?
理解したと同時に拳を震わせた。
あたしの中にあるのはかつてないほどの憤怒だった。
<夜のあたし>も同じ気持ちだった。

「人の忠告も聞かないでした事を、他人に後始末を任せようとするんじゃないわよ!!ふざけないで!テメェの尻拭いをテメェがしないで、それこそ武士でもなんでもないわよ!!」
「厳しい、ですね……」

笑える余裕はあるのか、山南さんは呆れたような笑みを浮かべた。でもその笑みが影を落としているように見えたあたしは怒りを抑えることは出来なかった。

「貴方が人でないというならば、やり残したことをその命果てるまでに全てしなさいよ!心配してる連中の手足になって、償いなさいよ…!」

人は気持ちを高ぶると泣くという。
その通りだ。
泣きそうになりながらも、あたしは山南さんに必死に思いを伝えた。その時、勢いよく襖が開いた。山南さんと二人してハッと入り口を見れば、夜中の騒動に気付いたのか土方さん達。

「奴良!?」
「山南さん!」
「っ、副長…!」

山南さんの姿に驚愕するもいち早く動いたのは土方さんだった。山南さんに手刀を与え、距離をとる。すかさず沖田さんと斎藤さんが山南さんを抑え込んだ。その時、再び発作が起きたのか山南さんが呻き声を上げ、そのまま気失った。

「緋真、大丈夫か…!?」

あたしの姿を目に映した左之助さんが声を掛けてくれた。素直に大丈夫だ、と言ったあたしは、気失ったままの山南さんを見た。そして土方さんへと目を向けると、彼は少なからずショックを受けていた様子だった。しかし、一度目を閉じてゆっくりと瞼を開けた時には、副長としての顔になっていた。

「幹部たちを呼ぶぞ。山南さんは、井上さんに任せる」

その言葉に皆は戸惑いながらも頷いた。その際、もし山南さんが意識を戻して血に狂ってしまわないように拘束をした。その様子を見る事しかできなかったあたしだったけど、土方さんからの痛いほどの視線に気付いて小さく息を吐いたのだった。

「(長い夜になりそうね……)」

そう思わざるを得なかった。

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