影と日の恋綴り | ナノ
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 腹が立つ

あたしを一隊士として今回の新選組出陣への参加を考えている土方さんに、幹部の人達は困惑していた。預かりの身であるあたしを一隊士として扱うというのは、今までの土方さんを考えると有り得ない事でもあったから。
山南さんが静かに怒り、土方さんに言及した。

「どういう事ですか、土方くん。確かに奴良くんは浪士を圧倒させたでしょうが、池田屋では屯所で待機していました。彼女を一隊士として扱うのは、危険ですよ」
「別に一隊士として扱うつもりはねえよ。雪村の補佐役として一緒に行動させてもいいだろう」
「それでも浅はかに思いますが…」

土方さんに一歩も譲らない山南さん。千鶴の件でも時間が浪費したというのに、あたしのことで時間を費やすのは無駄に近い。
これはあたしが折れるしかない。

「分かりました。私もご同行させていただきます」
「奴良くん…!」

自若として言えば、山南さんはあたしを凝視した。そんな彼に大丈夫だと笑って見せれば、彼も小さくため息を溢して「彼女がそう言うなら仕方ないですね」と引いてくれた。
これであたしと千鶴は出陣参加となり、すぐに準備を行った。大急ぎでの支度。隊士は着替えたりしていて、あたしも少しでも身なりを男に近付けるように晒を巻いたりした。準備が出来、広間へ向かえば山南さんの姿があった。あたしに気付いた山南さんは、まだ納得のいってない表情で、眉を顰めていた。

「たとえ、貴方が人ではないとしても、気をつけるのですよ」
「はい。…最後まで反対をしてくださってありがとうございます。ああでもしないと、どちらも引かないと思ったので」
「皆が予想していたでしょうね。……くれぐれも、ご自身の力を使わないようにしてください」
「ええ。山南さんも、そう卑屈にならないでくださいよ!これからの自分の戦い方を見つけて行きましょう」
「………ええ」

山南さんと互いに笑い合い、そうしてあたし達は屯所を後にして伏見奉行所へ辿り着いた。会津藩からの正式な要請を受けたはずだというのに、新選組は奉行所やら陣営をたらい回しにされ続けたのだった。

「(グダグダすぎる……)」

こちらの戦況が混迷しているようで、内輪の情報伝達ができていないからだった。原因がどうあれ、組織間での情報が正確に行き届いて居ないとなれば、自分達もどう動けばいいのか分からない。

「取り次ごうとも回答は同じだ。さあ、帰れ!壬生狼如きに用は無いわ!」
「……」

その言葉にさすがのあたしも腹が立った。
アンタ達が聞いてなくても、上はそう言ってるの!
怒り声を荒げたかったが、ここで騒動を起こせば新選組の上司である会津藩の顔がつぶれてしまう。色々言い返したいのを堪え、あたし達は九条河原へと向かった。しかし、会津藩士にでさえも「そんな話は聞いていない」と言われる始末だった。
堪忍袋の緒が切れた。

「…うだうで言わねーで、さっさと上に取り次ぎやがれよ!」
『!?』

隊士に混ざり思わず声を張り上げ言えば、ぎょっと目を瞠る会津藩士と新選組の皆さん。言ってすぐに気配を消したから、誰が言ったのかは分からない。会津藩士も誰が言ったのか分からないから、「誰だ今言ったのは!」というだけ。それがなんだか面白おかしくて、クスクス笑って前を見た。

「……あ」

鬼の副長様と目が合ってしまったのだった。ギラッ、と眉間に深く皺を寄せている土方さんに、あたしは苦笑い。近藤さんがなんとか取り次ぐように願い出て、あたし達は九条河原で待機することになったのだった。

「奴良てめえ!!勝手に何言ってやがんだこのヤロウ!!」

お冠の土方さんは鬼の形相であたしの元へ真っ先にやって来た。近くに居た隊士は彼の怒気に畏れ、さっと道を開けて避難する始末。その光景はさながらモーセの十戒だった。

「本当の事じゃないですか。この状況で下っ端の藩士が聞いているようには思えないですから」
「てめえが言ったって事は否定しないんだな…!会津の奴等に喧嘩売りにきた為に連れてきたわけじゃねえんだぞ!切腹してぇのかお前は!」
「職権乱用ですよー。というか、事実を言ってなにが悪いんですか!そもそも、あちらがちゃんと情報伝達していないのがいけないですよ?こちらにはちゃんと正式な要請書もあるのに、それを頭ごなしに否定して、さらにはたらい回しされているんですから。堪忍袋の緒が切れたっておかしくないじゃないですか」
「てめえなぁ…!」

ふん、と鼻をならして言えば、土方さんは疲れ切ったようにため息を吐いたのだった。土方さん達の身分上出来ないとは分かってはいますが、何も見ない聞かない奴等よりは、新選組の事を見てきているんです。つい、腹を立てちゃっても仕方がないじゃない。
土方さんは「次変な事言うんじゃねえぞ!」あたしに釘を刺して、近藤さんのほうへと向かったのだった。

「緋真ちゃん、すげぇな!スカッとしたぜ!」
「緋真姉様、素敵でした!恰好良かったです!」
「だが、安易な発言は慎め。お前の首が撥ねられては元も子もない」
「気をつけます。でも、木偶の坊にあそこまで言われたらついカッとしちゃいますよ」

新八さんや千鶴、斎藤さんにそう言われて嫌とは思えず、あたしは笑って返したのだった。隊士も今までぞんざいな扱いだったけれど、あたしが言った事で少し気が晴れた様子になっていた。
すると、左之助さんがあたしをじっと見て言った。

「けど、自分から危ない目に遭おうとするんじゃねーよ」
「…ご心配おかけいたしました。でも、皆さんの事をああまで言われると、黙っていられなかったんです」
「………ありがとよ」

ポン、と頭を撫でられ、あたしは思わず笑んだ。
近藤さんと井上さん達が戻ってきて、聞いた話、此処に居る会津藩士は予備兵。主力だった兵は蛤御門を守っているとのことだった。
その言葉に千鶴は目を丸くし「新選組も予備兵扱いってことですか?」と尋ねてしまった。新八さんも伝令では一刻を争う事態と聞いていたのに、と不平を漏らす。
結局、あたし達は待つしかないのだった。

「日が暮れてるわね…。夜襲を狙う可能性もあるのかしら…」
「どのみち、戦場に出れば安心して寝れるなんて事はねえよ」

土方さんにそう言われ、あたしも「そうですね」と返すことしかできなかった。
火の傍に座ると、隣に千鶴も座った。七月とはいえ、夜になれば冷え込む。そっと千鶴を引き寄せて、羽織をかけてやった。そんな光景を見ていた左之助さんが笑って千鶴に言った。

「千鶴、休むなら言えよ?俺のひざくらいなら貸してやる」
「あ、いえ、大丈夫ですっ」

笑って言う左之助さんに、千鶴は慌てて首を横に振った。揶揄われている千鶴を見て、あたしはつい左之助さんに言った。

「左之助さんのかたーいひざよりも、あたしのひざを貸しますよ」
「お、お姉様…!?」
「千鶴、無理はしなくていいからね。貴女はあたしが守るから」
「………ありがとうございます」

安心した表情になった千鶴に、あたしも安心した。けれど、納得していない人はいるわけで…。

「おいおい、俺もいるからな。千鶴も緋真も、ちゃんと守ってやるよ」

裏の無い言葉。それをさらりと口にする左之助さんに一瞬くらっとしてしまうけど、彼は冗談で言っているんだと自分に言い聞かせて、笑って言った。

「心強いですね」

こうして、新選組は緊張状態で夜を明かす事になった。

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