影と日の恋綴り | ナノ
×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -

 外出許可をもらう

土方さんに呼ばれ、あたしと千鶴に言われたのは外出を許可してくれた事だった。素直に喜ぶ千鶴だけど、あたしはあっさりと許可を下した土方さんに疑惑の目を向けた。けどあっさり無視された。

「市中を巡察する隊士に同行しろ。隊を束ねる組長の指示には必ず従え」

そう言って土方さんは傍で待機している沖田さんと平助に声をかけた。今日は二人が巡察担当らしい。でも昼は沖田さん、夜が平助の当番のよう。
たとえ沖田さんでも、あたしと千鶴二人の面倒を見るのは難しいかもしれない。

「千鶴、貴女が行きなさい」
「え…!?」
「お父様を探したいなら、せっかくの機会を無くしちゃダメ。あたしの事は気にしないでいいから、今回は沖田さんに同行して行きなさい」

しかし、千鶴はそんなこと出来ない、と頑なに拒む。それどころか、あたしも行かないなら自分も行かない、という始末。こんなに頑固だったかしら、と驚きと戸惑いが生まれる。
すると、このままだと埒が明かないと判断した土方さんがあたしを呼んだ。

「奴良、お前も巡察に同行しろ」
「えっ…」

土方さんまで何を言っているんだ。それが顔に出ていたのか、眉間にしわを寄せて続けて言った。

「お前の記憶もそろそろ思い出してもらわねぇと困るだろうが」
「でも…」
「諦めなよ、緋真ちゃん。土方さんに言われたら、頷くしかないよ」
「そーそー。土方さんは泣く子も黙る、」
「平助、それ以上言ったらお前を黙らせようか」
「うげ?!」

沖田さんと平助にも言われれば、何も言えない。たしかに、記憶喪失という扱いだし、いつまでも動かないのもおかしいのかもしれない。あたしだって、話せたいことが話せなくて心苦しいし…。
じっと千鶴があたしを見ているのが分かる。この子はあたしと一緒に行きたいみたいだし、ここはあたしが折れるしかないか…。

「分かりました、あたしも沖田さんの隊に同行致します」
「お姉様…!」
「それじゃあ決まりだね。でも逃げようとしたら殺すよ?浪士に絡まれても見捨てるけどいい?」
「沖田さん…!」

また冗談でそんな口振りで言った沖田さんに思わず声をかける。けど、土方さんが眉間に深く皺を刻み、ギロリと睨みつけた。

「いいわけねぇだろうが、馬鹿。何の為におまえに任せると思ってんだ」

怒鳴っている土方さんを見て少し驚いた。怒っている姿はいつもとなんら変わりは無いけれど、少しはあたしたちの身を案じてくれているのだ。千鶴には、綱道さんという少し前に一緒にこの新選組にいた仲間みたいな人の娘だから殺す訳にもいかないっていうのは、分かるけど…。
まさかあたしの身までも案じてくれているとは思いもしなかった。
同じ存在を見た以外、あたしの方がここから逃げる可能性があるというのに。

「ま、危険を承知でついて来るって言うなら僕の一番組に同行してくれて構わないよ?」

沖田さんの問いに千鶴は強い眼差しではいっと答えた。話はそれで終わった。すぐに支度するように言われるが、あたしは一人残って土方さんに問い詰める。

「なんであたしも外出許可を?あたしは外に行く理由なんて無いですよね?」
「……」

おかしい話なのだ。土方さんはあたしの内情を知っている。記憶喪失の話無しにしても、外に出すメリットなんて無い。むしろ、危険かもしれないほどだ。
あたしの聞きたいことを分かってるのか、土方さんは数秒の間を空けて、大きくため息を零した。

「…左之助だよ」
「え?」
「左之助が、千鶴もっていうなら緋真にも外出許可を出してくれってしつこく言うんだよ」
「………」

左之助さんが、そんなことを…?
驚くあたしを他所に、土方さんは開き直った様子で続ける。

「ったく、アイツの面子を考えりゃあ言えるはずねぇってのに、お前、少しは…」
「新選組の人は」
「あ?」

あたしにも出してくれって、なんで頼み込んでるのかしら。あたしは預かりの身。外に出すのが、本当だと駄目だというのに。
ああ、もう。本当に、ここの人達ってば……。
口から零れた言葉は止まらない。

「みんな、不器用にも程がありますね」
「……うるせぇよ…」

あたしは、着物の裾で口元を隠すしかなかった。


prev / next