影と日の恋綴り | ナノ
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 手合わせ

「え…?手合わせ、ですか…?」

沖田さんの言葉に、あたしは目を丸くした。復唱したあたしに、彼はうん、と笑って肯定する。それに異論を唱えたのは、斎藤さん。

「待て、総司。緋真が巡察に同行する理由はないだろう」
「でも、一君。緋真ちゃんの記憶、いつまでも思い出さないままなのはよくないでしょ。此処にいるよりも、外の世界を見て思い出すきっかけを与えないと」
「…それは、そうだが…」

理にかなう事を言っている沖田さんに、斎藤さんは何も言えなくなる。確かに沖田さんの言う通り、あたしが此処に居る理由は記憶がないからだ。どういう意味で言ったかは分からないけれど、何も思い出せないままよりも少しは思い出して自分の事を理解させるほうがいいだろう。
とはいっても、記憶は失ってなんかいないけど。
斎藤さんを言い負かす事ができ、反論をする者がいないと分かった沖田さんは、嬉しそうな声であたしに声をかけた。

「だから、君も僕としようよ。手合わせ」
「でも、あたし…」
「刀なら、君も持ってるよね?護身刀のが」
「……」

確かに持っている。
お父さんから貰った妖刀。けれど、あれは人を傷つけるものではない。妖だけを切るという祢々切丸に似て作られたものなのだ。
妖気が混じっていない彼らに使えるはずがなかった。

「手合わせできないならいいよ。そうしたら、君はずっと記憶を戻ることもなく屯所生活なんだから」
「お、沖田さん、そんな言い方しなくても…!」
「分かりました」
「!」

これはあたしが折れるしかない。

「……相手になるなどないですが、それでもいいのですか?」
「君の腕を看るために、相手になるならないは関係ないよ」
「……」

こちらを見る沖田さんの目は至って真剣だった。その目からそっと視線を外して、あたしは鬼哭を取りに再び部屋へと戻って行った。驚きの展開に千鶴が不安を口にしたが、大丈夫と笑って答えた。
部屋に鎮座する鬼哭を手にし、そっと撫でる。

「(…)」
≪加減、ちゃんとしなさいよ≫
「(分かってる…)」

もう一人の自分の忠告をもらい受け、あたしは沖田さんの前に立った。鍔なしの長ドスを鞘から抜いて、反転する。峰打ちでの手合わせだ。沖田さんも静かに構えて、いつでも来てもいいと目であたしに言っていた。千鶴と斎藤さんさんは、縁側に座って事を静かに観る。
静かになり、数秒の間があき、あたしと沖田さんは同時に動いた。

「っ!」
「!」

キィン、と金属同士が当たり高い音が鳴り響く。一撃を互いに刀で防いだ。そこからは、互いが身体が動くまま、相手のスキを狙うままだった。
左、右と連続して沖田さんに攻撃をするが、流石は一番組組長。あたしの攻撃を見極めていた。あたしの斬撃が終わるも束の間、今度は沖田さんが攻撃をした。
未来でも有名な、突きの攻撃。

「っ…」
「!(躱した…)」

ぬらりくらり、と捕えどころのない動きで沖田さんを翻弄した。刀の一突きが、鋭く重たい。真正面から受ければ、あたしはすぐにその刀身を身に受けるほどに。
だからこそ、あたしは真っ正面から行かなかった。
三度目の突きを躱したあたし。一瞬、沖田さんの目にはあたしが消えたかと思っただろう。けれど、あたしは下へしゃがみこんだだけ。そのまま、彼に攻撃しようと柄を持つ手に力が入る。

「(懐ががら空き…!)」
「!」
「っ、きゃあ!!」

けれど、一瞬にして刀は振り払われてしまった。

「…僕の勝ち」
「っ…」

切っ先を目の前に向けられれば、どうする事も出来なかった。
小さく、参りました、と言えば満足げに笑い沖田さんは刀を降ろしてくれた。途端に感じる疲労。吐いた息は重たくて、そんなにも緊張していた事が驚きだった。

「緋真ちゃん、すごいね。あんなにもキレのある動きをするとは思わなかったよ」
「……そう、ですね。…あたし自身、驚いてます…」
「刀を持っているからまさかとは思っていたが、緋真は何らかの事情があって刀を扱っていたのだろうな、やはり」
「…」

冷静に告げる斎藤さん。その目は酷く鋭利なもので、居心地があまり良くはなかった。
疑われている、なんて気付くのに時間など要らなかった。
確かにあたしの動きは素人ではないと分かるもの。戦いを知った者しか知らない動きだってあった。沖田さんと互角に戦った者などいないから、尚更。
疑う視線ほど、嫌いなものはない。

「巡察に同行できるよう、俺達から副長に頼んでみよう」
「あ、ありがとうございます!」
「…、…ありがとうございます」

千鶴は嬉しそうにしていたけれど、あたしは嬉しく等なかった。
それから数日し、あたしと千鶴は土方さんに呼び出された。何かやらかしたかと不安になったけど、沖田さんと平助が同席していたことに驚いた。
あたし達が部屋に入り、座ったのを確認して彼は重たい口を開けた。

「お前らに外出許可をくれてやる」

それにあたしは驚き、千鶴は素直に喜んだのだった。

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