影と日の恋綴り | ナノ
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 勘違い注意

元治元年六月の最中。
梅雨が明け、気候の変化が激しい京内は、隊士たちの体調管理が怠り、崩す者が多くなっていた。衛生面に関してもよろしくない屯所じゃあ、そりゃあ体調なんてすぐに壊れやすくなる。

「あ、緋真姉様…!」
「ごめんなさい、千鶴。今から隊士に食事を渡すからまた後でね…!」

小間使いとしてのあたしは、病人に優しい食事を作るように頼まれるようになり、千鶴と一緒にいることがあまり出来ずになっていた。幹部の皆さんと一緒に食事をとるようにはしているけれど、隊士の容態を看るためあまり時間を有することができない。必然的に、皆と一緒に食事をとるのが難しくなっていた。
そんなある日の事。
幹部の人達の朝食の片付けを終え、寝込んでいる隊士たちの容態を確認するために、土方さんから頂いた石田散薬(本物と実感した時、落としてしまった)を人数分頂いて、熱燗を用意する。

「緋真」

優しい声で名前を呼ばれた。振り返れば、勝手場の入り口にいたのは、思った通りの人で、左之助さんだった。どうやら巡察帰りだったようで、隊服を羽織ったまま。
けど、なんだか彼を見て、ほっとした自分がいた。

「左之助さん、どうかなさいました?」
「今からどっか行くのか?」
「はい。体調を崩された隊士の人達の看病をしに」

ほら。と石田散薬と熱燗のために温めているお酒を魅せると、なるほどな、と笑う。あたしもつられて笑ってみると、左之助さんは安心したように目を細めた。

「無茶はしてねぇみたいだな」
「……はい。左之助さんか散々言われているので、気をつけていますよ」
「そりゃ酷でぇ言い方だ。お前を思って言ってるんだけどな」
「はい。…本当に、左之助さんは優しいんですから」

大袈裟な言い方をする左之助さんに笑いがこみ上げる。
左之助さんは、隊士の看病と小間使いとして仕事をするあたしが無理をしていないかと会うたびに心配してくれていた。そこまで無茶なんてしていないけれど、左之助さんは“奴良緋真”という人間を分かっているようだ。
あたしが一人で抱え込む人間というのを。

「お、そうだ。緋真、手ぇ出してみろ」
「?」

突然にそう言われるがまま、あたしは左之助さんに手を差し出した。すると、左之助さんはニッと笑ってあたしの手のひらにそれを置いた。重みを感じた手のひら。彼の手がどかれ、目に映ったそれに目を輝かせた。

「金平糖…!」

可愛い包みに入れられたそれは、あたしの時代にも見慣れたもの。
きらきらと日に反射し輝く星々のような甘味に思わず目を輝かせて見てしまう。

「い、いいのですか…?!」
「当たり前だろ。緋真のためにって思ったんだからよ」
「……ありがとうございます」

この時代、砂糖菓子なんて高級なもの。今現代だったらそりゃあ百均で売ってたりして、簡単に手に入るものだけど…。甘味としては美味しくて好き。よく爺やと一緒に縁側で食べたりしてた。でも、この時代を考えたらそう手に入るものじゃないはず…。
それを買ってくれた左之助さんは本当にお優しい人だ。

「……」

なんだか、食べるのがもったいないなぁ…。

「あ、勿体ないからって食べないままにすんなよ」
「!」
「お、図星か」
「…左之助さん、最近あたしの考え読み取り過ぎじゃないですか?」
「そんな事はないと思うぞ?緋真が分かりやすい反応するからだよ」
「……千鶴よりも、分かりやすくないと思うのに…」
「アイツは別格だ。俺にとっちゃ、お前のほうが分かりやすいけどな」
「……」

そんなに分かりやすいかしら…?
今までそんな事を言われた事なんてないから、どう答えたらいいのか分からない。リクオやお父さん、それに燈影にも言えない事とかあっても、ずっと隠し続けたというのに。
可笑しいな、と首を傾げていると、突然左之助さんは笑う。どうやらそこまで悩むとは思っていなかったみたいだった。

「隊士たちの面倒を見てくれるのはすげー助かる。けど、お前も無茶はするなよ」
「…はい。ありがとうございます」

そう言って、左之助さんはフッと笑って勝手場を後にしたのだった。後ろ姿を見送って、あたしもいい熱さになった燗を取り出してから、石田散薬をお盆に乗せて隊士たちの元へと向かった。
隊士たちの容態がだいぶ良好になったことに安心し、左之助さんから頂いた金平糖を部屋に置いたあと。
中庭から聞こえた金属音。

「師を誇れ。おまえの剣には曇りが無い」

何ごとかと思って、気になりそっちに足を向けた。そして聞こえた斎藤さんの言葉。と、続いて見えた光景。
斎藤さんの刀身が千鶴の首元に向けられていた。

「さ、斎藤さん…?!」
「!」
「あ、緋真姉様…」
「やぁ、緋真ちゃん。休憩かい?」

呑気にあたしに尋ねる沖田さんの言葉を無視して、慌てて千鶴を庇うように立った。あたしの介入に驚く斎藤さんだけれど、あたしのほうが驚いている。

「な、なんで千鶴に刀を向けているんですか…!?千鶴に怪我させたら、斎藤さんでも許しませんよ…!!」
「いや、違う。俺は、」
「お姉様、違うんです!斎藤さんは、私の剣の腕を見てくれようとして…!」
「それで真剣を使ってるんですか…!?峰打ちだとしても危ないじゃない!」
「緋真、聞け」
「この子に傷一つつけたら、あたしが許しませんよ?!」

ギュッと千鶴を抱きしめて、斎藤さんを睨みつける。弁解なんて遅い。千鶴に刀向ける時点で、斎藤さんは悪いんだから。
けど、違うとあたしの言葉を否定したのは斎藤さんでも沖田さんでもなく、千鶴だった。

「お姉様、私の話を聞いて…!」
「え…?」

話を掻い摘んで聞けば、父の捜索のため千鶴が屯所の外に出たいため、巡察に同行しても問題ないかを見るために手合わせをしたとのこと。
簡単にいえばあたしの早とちりだった。

「……ごめんなさい、斎藤さん…」
「いや、誰もあの光景をみれば思ってしまう事だ…。気にするな」
「(その割には、声に元気が入ってないけど一君)」

悪くない斎藤さんにあんなにも強く責めてしまった事に申し訳なさが…。千鶴を守るっていう気持ちが大きかったために、斎藤さんの気分を悪くしてしまった。
もう一度謝ると、斎藤さんは「気にするな。俺は怒ってなどいない」と言った。

「あ、そうだ。ねぇ、緋真ちゃん」
「?はい…」

何か閃いたような声を上げ、あたしを呼んだ沖田さん。ニコニコと笑っているけれど、裏のある笑み。
何故だろう、すごく嫌な予感がする。

「君も外に出たいだろうからさ、僕と手合わせしようよ」
「え……?」

沖田さんの言葉に、その場に居た千鶴と斎藤さんも目を丸くした。

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