影と日の恋綴り | ナノ
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 猫騒動

それは突然の出来事。

「あ!この仔また来てる!!」
「何?!」

昼食を担当の左之助さんと新八さんと一緒に作っている時だった。炊いたり焼いたりしている最中に聞こえた可愛い鳴き声。
あたしが言ったのを皮切りに、左之助さんと新八さんも勝手場の入口に目を向けた。閉じたはずの扉は開いてて、隙間からやって来たみたいだ。

「新八ィ!そいつをこっちに近づけんなよ!!」
「おう!」
「緋真!飯守れ!」
「う、うん!」

左之助さんに指示されながらも、猫がこっち来ないように注意する。新八さんと左之助さん二人がかりで猫を捕まえようとする。
ゆっくりとジリジリと猫に近寄る二人。

「どりゃ!」
「この!」

息を合わせたかのように二人は同時に猫へかかった。しかし、

「え、ちょ…?!」
「しまっ」
「緋真!!」

猫はしなやかな動きで二人を躱して、こっちへやって来たではないか。
ちょ、二人して駄目駄目じゃない…!!
猫を捕まえようにもどうしたらいいのか分からないから、とりあえず手にしたそれを猫がいるであろう場所へ振り下ろした。
しかし、手応えはない。

「…あれ?」
「“あれ?“じゃねえ!!緋真ちゃん、俺を殺す気か!!」
「え?」

不思議に思っていたけど、ふと前を見れば…。

「わ、わ…!新八さん、ごめんなさい…!!」

新八さんの足元にまさかの包丁を投げていたのだった。慌てて新八さんのところへ行こうとした瞬間だった。

ガシャーン!

「……ぇ?」
「うわ…」
「最悪だな…」
「にゃー」

振り返ってみれば、ひっくり返っている釜や鍋。サッと静かに青ざめるあたしや、やられたと手で顔を覆う新八さんや左之助さん。
だってその中には、今日の昼食があったのだから。

「お、お昼が……」

震える手で釜に手を伸ばすあたし。けれど、伸ばした手は隣に静か歩み寄った左之助さんに掴まれる。左之助さんを見れば、諦めろと首を横に振られた。
もう手遅れなのだ。

「にゃあ」

あたし達をまるでバカにしているかのように一鳴きする猫。その口に銜えているのは、今日のお昼のおかずである焼き魚。
猫はそのまま勝手場から去っていった。
途端に外で沖田さん達の声が聞こえた。そして騒がしくなったのも分かった。最近、あたし達を困らせている猫だから、彼らも捕まえようとしてくれたのだろう。

「……」

だからといって、このままじゃいけない。

「左之助さん、新八さん」
「……分かってるよ」
「対策考えねぇとな」

そう言って、新八さんと左之助さんに猫についての事を頼んで、あたしはぐしゃぐしゃになった勝手場を片付ける事にしたのだった。



(千鶴side)

お昼までの間、暇だったけれど一変。部屋の外で騒がしくなったかと思えば、次々と私と緋真姉様の部屋へと幹部の皆さんが集まってきたのだった。
原因は一匹の野良猫。

「昼は俺と左之が当番だからよ、緋真ちゃんと一緒に飯の準備してたんだが…」

永倉さんは一度言葉を切り、そして怒りを露に言い放った。

「そこに飛び込んで来た奴が、俺達の努力を無にしやがった」

まるで犯人は人のような言い方だけど、私の中で整理すれば、奴とは猫の事であってるそうだ。
猫一匹に困ってる新選組、なんて情けないですものね…。

「勝手場の釜やら鍋やら全部ひっくり返しやがった。もちろん中身の飯までだ」

原田さんの言葉で勝手場が大惨事になったのが、安易に想像できた。そして今は緋真姉様が一人作っているという事なのだろう。

「緋真もカンカンだったな」
「ああ。アイツ、怒ると静かになるんだな」

猫による被害で緋真姉様の堪忍袋の緒が切れたようで、その様子を見た原田さんと永倉さんが話し始める。
そんなにお姉様怖いのだろうか…?
少し気になるような内容だけど、話は変わり猫の対処法を考えることになった。けれど、皆さんが怖がるのは土方さんとのこと。
この事が土方さんに知られるとなると、みんな説教を食らうかもしれないらしい。確かに土方さん、理由はどうあれ怒りそう…。簡単に想像できる鬼の土方さんに、皆さんはだんまりに。

「と、とにかく。千鶴ちゃん、俺達に手ぇ貸してくれねえか?」
「ええっ!?」
「勝手場は今、緋真が切り盛りしてくれている。お前は、猫を捕まえるのを手伝って欲しいんだ」

原田さんにも頼まれる。私なんかを頼りにしてくれているのは嬉しいけど、何かできるのだろう。でも、斉藤さん曰く、想定外の事なら出てもいいと言う。それくらい被害が大きいみたい。
結果、私は平助くんと一緒に土方さん達を誤魔化す担当になった。力になれるか分からないけれど、と意気込んだものの結局土方さん達にバレてしまったけど。
お昼は、なんとか緋真姉様が頑張ってくれたみたいで、平隊士達に気づかれることなく作れたそう。

「今度から、勝手場に猫の嫌いなものを置いておかなきゃいけないわね…」

なんて、主菜を見つめて、ぼそりと低い声で言うお姉様が少し怖かったけど。

(千鶴side終)

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