影と日の恋綴り | ナノ
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 治癒の力

土方さんに食事後の会議の約束をし、あたしは勝手場へと戻った。すでに用意は出来ていて、千鶴は山南さんに食事を持っていったようだ。

「同情と、思われてないといいのですが…」
「無理な話かもね、実際は」
「……」

バッサリと言い捨てた沖田さんの言葉に、ぐうの音も出なかった。分かっている事でもあった。妖怪でも戦う身であれば、同情が一番嫌いなのだから。
上手くいっていると願ったのだが、戻ってきた千鶴の表情は暗く沈んでいた。千鶴のせいじゃないのに、そんな顔をさせてしまった事に罪悪感を感じて、ぎゅうっと強く抱き締めてしまった。
居間で食事をするのだったが、山南さんの姿はなくやはり駄目だったのかと、肩を落とす千鶴。新八さんや平助が声をかけるが、千鶴の声は元気が無かった。彼女の様子を見、静かに自分の手のひらを見つめる。
一種の賭けをしたつもりなのだが、やめた方がいいのだろうか…。
あたし自身も諦めかけていたその時だった。
静かに、居間の襖が開いた。皆の視線はもちろんそっちへ。そこに立っていたのは、皆が予想だにしていなかった、山南さんの姿。彼の手には御膳があり、山南さんは静かに定位置に座った。そして、

「いただきます」

礼儀正しく合掌をして、千鶴が握ったおむすびを一つ、口へ運んだのだった。彼曰く、食事は大勢でしたほうがいい、との事。きっと千鶴が山南さんに言ったのだろう。優しい笑顔を浮かべる山南さんに、近藤さんも、みんなも喜び、口元を綻ばせた。

「…」

千鶴もにっこりと笑ってて嬉しそう。幹部の皆様も安堵の表情を浮かべ、少し前の穏やかで、賑やかな光景に戻ったように思えた。

「奴良」
「はい?」
「あとで、俺のところに来い」
「……分かりました」

食事を終えた頃、土方さんは鋭い目つきであたしにそう言った。穏やかから一変、重苦しい空気を感じ取った千鶴が不安そうにあたしを見たけど、あたしは笑って返すだけで何も言わなかった。
大丈夫、と言外に伝えたけれど。

「…」

ふと、左之助さんも気にしているようで、あたしを見ていた。そこまで心配するような事だろうか、と思わず首を傾げたが、左之助さんは何も言わず、静かにあたしから視線を逸らしたのだった。
気のせいだろうか、胸が痛んだように感じた。



朝食を終え、片付けを千鶴にお願いしたあたしは、土方さんの執務室へと向かった。近藤さんと山南さんには話を伝えているようで、すでに彼らは部屋で待っていた。

「それで?話したい事と、試したい事ってのは、なんだ」
「……私の素性で、一つだけ皆さまに隠していた事があります」

その言葉にハッと息を呑む三人。この三人だから話すことは限られていると踏んでいたようだが、まさか思っても無い、隠し事をしていた事は想定外だったようだ。
先に冷静になったのは、やっぱりというべきか山南さんだった。

「何を、隠し事しているのですか?」
「……口で言うよりも、実際に見た方が早いと思います」

あたしのこの力は見るからこそ、理解するもの。あたしは一言言って、山南さんの腕を手に取る。包帯を解いていいか、と許可をもらう。まだ癒えていない山南の痛々しい傷に顔を歪めた。小さく息をついて、腕に手をかざす。そして、手に力を込めた。
淡い光が放たれ、彼らは息を呑んだ。

「これ、は…!」
「……傷が癒えただと…?!」
「…奴良くん、これは、一体…」

驚く山南さんがあたしに戸惑いながら聞いきてきて、あたしは居住まいを正した。

「私には傷を癒し治す力を持っています」
「…治癒能力、ですか…?」
「はい。…万病をも治すと言われるほどのものです」
「……なんでそんな力を持っている」

土方さんにそう聞かれ、あたしは過去を掻い摘んで教える。祖母・珱姫のこと、京妖怪の大将・羽衣狐のこと、生き胆信仰のことを。話し終えたら、何故か土方さんは眉間に皺を深く刻んであたしを見てきた。

「なんでそんな力を俺たちに教えたんだ。下手すりゃ、テメェは狙われるかもしれねぇんだぞ!」
「貴方達を助けたいと、力になりたいと思ったからです」
「!」
「確かにあたしの祖母も、生き胆を狙われるようになりました。けれど、それでも人の傷を治したいと思ったのです。争い失う命を前に、その力を隠しただ見捨てることなど、あたしには出来ません…!」

この人たちを助けたい。そう思ったら、自分の力を使おうと思うじゃない。わかって欲しい気持ちで土方さんを見れば、山南さんがフッと笑った。

「……そうですね。確かに、見捨てる命などありません」

山南さんはしかし、とあたしを見て言った。

「この傷を治されて、私はどうしたらいいのですか」
「!」
「再び刀を握ることは出来ます。ですが、私の傷は既に周知の事実となっている。その上で、再び刀を握れたとなれば、不審に思われるのは、貴方だって分かること」
「そ、れは……」

山南さんの言っていることは正しく、あたしは何も言えなくなった。でも、助けたいの。そう言いたいけど、山南さんはあたしの気持ちだけ受け取ると言った。

「私も、悲観になりすぎたと思いました。…生きてるだけでも喜ばしいこと。刀を無くした私ですが、やれる事は他にある」
「山南さん……」

自分の手を見て山南さんはそう言った。居間に来た時よりも、もっと心が晴れたような表情になっていた。
鼻の奥がツンとなった。

「…あたしの組も、清浄で、腕を無くした妖がいます。でも、その妖は剣技を磨きました」
「……」
「片腕で扱えるようにして、鍔迫り合いになっても負けないように、別の方法で戦おうと言ってました」
「……奴良くん」
「戦う身であれば、いつ起きるか分からないこと。けど、命があるんです。別の戦い方で、山南さんも、これからも戦ってください…」
「ええ。ありがとうございます」

そう言って山南さんは優しい笑を浮かべた。
私の力を知り、三人は何があってもその力を誰も見せるな、使うな、と言った。平助の怪我を治したけど、それは伏せようと思った。そして、あたしの力は再び彼らだけとの秘密になった。

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