影と日の恋綴り | ナノ
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 今宵は聖なる夜

クリスマス-2

(燈影side)

師走の月となってからは、一段と冷え込みが激しくなっていた。起きることに抵抗が生まれ、皆、こたつや囲炉裏に近づいて“暖”を求めていた。
そんな中、最近緋真の様子が可笑しかった。

「あ、緋真お嬢おかえりなさーい!今からあそび、」
「ごめんね、納豆小僧。今からしないといけないことがあるから駄目なの!」
「え、ちょ、お嬢!?」
「ごめんねー!!」

そう言って緋真は小妖怪を素通りして自室へ向かう為に階段を駆け上がって去って行った。納豆小僧は傍に居た小鬼や豆腐小僧と話をする。

「最近、お嬢つれないねー」
「いつも帰ったら部屋に閉じ篭もってから、必要最低以上のことをしたらすぐに部屋に戻って…」
「…俺たち、何かしたのかな」
「してない…ような、したような…」

緋真の話で盛り上がって勝手に意気消沈している小妖怪を横目に、俺は部屋に居るであろう緋真を思い出す。確かに、最近緋真は焦っているような挙動不審になりながら家に帰っている。声をかけても「用事があるから」と言って皆とあまり会話をしていないように見えた。
実際、鯉伴がショックで倒れていた。
あれはバカとしか言いようがない。そんな事を思いながら俺は、緋真が何か俺たちに気にされるようなことがあったのかを尋ねに部屋へと向かった。
毎日若菜殿や雪女達が掃除しているのか、廊下も階段も屋敷内は綺麗だった。心地よいな、としみじみ思っていると緋真の部屋に着く。
そして目を丸くした。

「…我等は悪霊扱いか」

ドアにぶら下がっているボードには『進入禁止!入ってきたら滅します!!』という警戒心丸出しの文字。
そしてドアの左右にはご丁寧に盛塩と護符が。

「ククク…。この様子だと、窓際にも張られているな…」

感じる陽の気は緋真の部屋の四方にあるからそれから分かった。中で緋真が何をしているのか分からない。
気になる。…だが、楽しみにしておくのもまた良いのだろう…。
俺はゆっくりとその場を離れて、下へ降りた。

(燈影side終)



「…ふぅ、やっと離れてくれた…」

家に帰って部屋に戻って作業していると、突然近づいてきた燈影の妖気。いや、もう…本当に驚いた。まさかの燈影?って感じで。思わず作業を中断して燈影が中に入らないように警戒すれば、ゆっくりと離れていく燈影。
怪我、させたくなかったし…結果オーライ?かな…。
ドアの近くで待機していたあたしは、自室においてあるこたつの上に置いてあるそれらを見る。

「…ふふ」

皆、喜んでくれるかなぁ…。
色とりどりに並べられている毛糸と、出来上がった編物。みんなのイメージにあわせて編んだそれら。
嗚呼、はやくあげたいな。

「っと、最後まで頑張ろう!あと一週間しかないんだからね…!」

やる気を出して、あたしはまた集中して作業を始めた。




「メリークリスマスじゃー!!」
「サンタがー、サンタがー!!」

クリスマス当日。無神信者だからこそ色々とやれるような感じのこの宴。年末年始は宴が出来る行事があって掃除が本当に大変。
けど、そんな事は今日は忘れようと思う。

「メリークリスマス!」
「緋真お嬢、ジュースいりますかー?」
「うん、ちょうだい!」
「おらおめーらちゃんと楽しめぇ!!」

リクオの合図と共に始まった宴。合掌が終わった瞬間、各自酒を持ってワイワイ騒ぐ皆。
本当に、楽しい。

「緋真」
「お父さん」

はしゃぎまわる皆から避難するために上座の近くに座っていると近寄ってきたお父さん。片手には当たり前のように酒があって、嗚呼お父さんも楽しんでるんだななんて嬉しく思ってしまう。

「お前が、家族になって初めての…クリスマスだな」
「…うん」
「…楽しいかい?」
「うん!」

間髪入れずに答えると、お父さんは微笑んであたしの頭を撫でまわした。グシャグシャになった髪の毛を整えて、お父さんをにらみつけると今度は声をあげて笑った。
え、すっごく苛々するんだけど。
そんな事思いながら何か策はないだろうか、と考えているとお父さんの背後には爺やの姿が。
そして手に持っているのは妖銘酒。

「お父さん、ねぇねぇお父さん」
「何だ?」
「…ありがとね」

また、家族になってくれて。

「お父さんと、皆と、またこうして過ごすことができて…すっごく、幸せ」

そう言って笑えば、お父さんは目を丸くしてまた優しく笑ってくれた。
と、同時にお父さんにかかったのは酒。

「ぷっ、引っ掛かったー!爺やナイスタイミング!!」
「緋真、お前演技力上手いのう!鯉伴、お前まだまだじゃのう!」
「こンの…クソ親父ー!!!」

逃げ回る爺やにお父さんは捕まえようと追いかける。その光景にまた笑ってあたしはケラケラと笑う。
嗚呼、本当に幸せだ。

「…あ」

ふと、私はまだやっていないことを思い出して慌てて部屋へと戻った。そうだよ。何忘れているのよ。
騒いでいる皆からこっそり抜け出してあたしは部屋へと戻る。屋敷内の至る所で騒いでいて廊下でも踊ったりして宴を楽しんでいる妖怪もいた。
本当に帰ってこれてよかった。
それだけがすっごく嬉しい。後悔なんてないし、幸せなものだ。そんな幸せをかみ締めながら、あたしは部屋に戻って目的の物を取る。一つ一つ入っているそれにはちゃんとクリスマスカードも挟んでいて皆に一言メッセージをつけてある。
今まであたしが頑張ったもの。

「まずは、お父さん達から渡そう」

家族、側近、そして彼に…感謝の気持ちをこめてコレをあげたいな。

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