▼ 勝手に居なくなるな
夏祭り-2(燈影side)
「さて、と…」
鯉伴に緋真を任せて、俺達は不良共と対立する。青が、黒が、首無が怒っているのが目に見えて分かった。まぁそれは俺もだ。
なんたって、こいつ等は俺達の逆鱗に触れてしまったのだ。
鯉伴の、リクオの、俺の、奴良組の大切な、大事な者に手を掛けそうにしたのだから。
天罰を下さねばならぬのは当たり前だろう?
「…お前達は我らの大事な者に何をしようとした?」
一歩前に出て言えば、下衆な男の一人が苛立ちながら俺に睨み付けて答えた。
「あぁ?そりゃ、おめー…あの餓鬼でセ、」
ドゴォ!!!
遮るようにして生じた音は、特攻隊長の一人がちかくの壁を破壊した音。
「………」
「…え…?」
「すまないな。連れの者が暴れてしまったから聞こえなかったよ」
悪いとは一寸も思っても居ない。当たり前だ。下衆な輩に詫びる気持ちなどあってたまるものか。
祭りは基本、日が暮れて行われる。夕日が山々の間に沈み、星が輝き月が道を照らす。
夜は我らの世界。
生きて帰れると思っているのだろうか。
「…もう一度言うぞ」
我らの大事な者に何をしようとした?
その返答が返ってくることはなかった。
(燈影side終)
「………」
「…っ……」
お父さんに抱き上げられたまま出店の通りを抜けた頃に、あたしはお父さんに降ろされた。ずっとだんまりのお父さんに、不良たちに抱いた恐怖とは違う“畏れ”を抱いていた。迷子になって、あんな不良に絡まれたことに怒っているのか、何故怒っているのか分からなかった。
ただただ、お父さんが怖い。
「っ…おとぅ、さ…」
「………」
「お父さ…」
あたしの手をつながないで、ただ前を向いてあたしの事を放っているようなその態度に、精神年齢が高いあたしでも、父の背中が冷たい事が本能的に分かってしまい…。
「ふっ……」
さっきとは違う意味で、父さんに見捨てられるのではないかと思ってしまって、ぼろぼろと涙が流れてしまいそうになる。
捨てないで。迷子になった事は謝るから。ごめんなさい。ごめんなさい。
「ぉ、と…お父さん…っ」
背の低いあたしは着物の振袖を掴むことしか出来ない。必死にお父さんにこっちを見てほしいと訴えることしかできない。それなのに、お父さんはこちらを見ようともしない。
なんで、なんで。ねえ、こっちを見て、お願い、お願いだから。
とうとう堪えきれず、枷が外れた。
「お、とうさぁん…!!」
不良が怖かったからか、父さんの態度が、捨てられるのではないのかと、勝手な被害妄想で思いが積もり募ってぼろぼろと涙が零れ落ちた。
こっちを向いて欲しい、捨てないで、恐かった。
色んな思いが混ざり混ざって、父さんにぎゅってしてもらいたくて、泣き止ましてほしくて、父さんの着物にくっつく。自分の体重で足を止めようとする。でも、お父さんの顔が見れなくて、着物に顔を埋める。
だからこそ気付かなかった。
ぎゅう
「緋真…」
「っ…」
再び温かい抱擁をされた。してくれたのは、もちろんお父さんで。
「おと、さ…」
「…馬鹿野郎…っ」
「と、さ…!」
見上げたら、眉間にしわを寄せて辛そうな、心配している瞳のお父さんがこっちを見ていて。
「勝手に居なくなりやがって…。心配、しただろうが…」
「ごめっ、ごめんなさ…っ!!っ…、怖かったよぉ…!」
「ああ…もう大丈夫だ……」
お父さんの暖かな抱擁を受け、あたしはそのまま泣き声を上げた。
大好きな温もりの中で。
夏祭り
(あ、鯉伴さん!!緋真見つか……、まぁまぁ)
(泣き疲れて寝ちまったよ。お、燈影)
(…無事で何よりだ)
(…何かありましたの、二代目…)
(あー…お前もやらかしそうだから、言わねぇわ…)
(気にするな、神無)
(おねーちゃん、寝ちゃったの?)
(…すぅ……)
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