影と日の恋綴り | ナノ
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 助ける理由

(神無side)

花開院家にて宴をしているからなのか、縁側に居るというのにその騒ぎは聞こえてきた。リクオ様や鯉伴様、ぬらりひょん様達を筆頭に奴良組や、花開院でいえば十三代目秀元様が楽しんでいた。

「燈影、こっち!」
「待て緋真!…宴に参加しなくても…!」
「大丈夫!」
「我が大丈夫ではない!!」

緋真様の元気な声が聞こえた。どうやら宴に参加しようと燈影様をお連れになられていました。燈影様ったら、あんなに焦った姿をなさって…。

「ふふ…」

ついつい、笑いが零れてしまった。
けど、それはすぐに収まった。私は静かに、夜空に浮かぶ月を眺めた。

「…乙女」

私の大事な大事な親友。
鯉伴様が乙女を連れてきて、彼女の護衛として仰せつかったのが私。鯉伴様の正室、大切な方なのだから、丁重に扱わねばと、距離を置き常に護衛していた彼女。それを、乙女自ら距離を詰めてきた。

「ねえ、神無。妾、貴女とお友達になりたいわ」

私は神隠し。人をあの世とこの世の境に誘う妖怪。人を攫い、孤独に追いやるそんな妖怪に、彼女は裏の無い笑顔を浮かべそう言ったのだった。
それからというもの、乙女に半ば連れ出されたりし寺子屋へ行く日々。楽しい日々だと思った。
彼女も同じだと、思っていた。

「っ…」

けれど、そうじゃなかった。
貴方がそんな辛い思いをしていた事に気づかなかった自分が、とても憎い。少しでも、乙女の辛さを理解していたら。乙女の本当の気持ちを、悲しみを知っていたなら。
途方もない後悔が次から次へと私を襲う。

「こんなところで、妖が一人でなにしてんだ?」
「!」

一人感傷に浸っていたら、現れた彼。全く気配に気付かなかったから驚き振り返ると、そこには陰陽師の彼が。
左腕に巻かれた包帯と、至る所にある掠り傷が痛々しい。

「なんだ、お前は宴に参加しねぇのか」
「竜二さん…、えぇ…酒に酔ってしまい、ちょっと涼んでおりました」

私に声を掛けたのは竜二さんでした。竜二さんにどうしてこちらに、と問えば竜二さんは「騒がしくて静かに飲めやしねぇ」とため息を零して言いました。
飲めないって…。

「竜二さん、お酒を飲むんじゃあるまいし…」
「酒だよ」
「えぇ!?」
「嘘だ」
「う…、嘘…」

彼の嘘にはつい信じてしまいます…。慌ててしまった のか、頬に熱を持ってしまいつい手で冷やそうと必死になってしまった。竜二さんはどかっと遠慮なしに私の隣に座って綺麗な月夜を眺め始めました。
妖怪である私の隣に座っても、よろしいのでしょうか…?

「…あの、竜二さん」
「なんだ」
「お身体の具合は如何でしょうか…?」
「あぁ。…たいしたことはない。すぐに治る」
「そうですか…」

竜二さんの返答に私は安心した。
…え、なんで今…あたしは安心したの?

「?(なんで…)」
「なぁ」
「ぇ、あ、は、はい!」

考え事をしていたら竜二さんに呼ばれ慌てて返事をした。竜二さんは不思議そうに私を見たけど、何も言わないですぐに真剣な目をして私に聞いていた。

「…なんで俺を助けた」
「…」

その言葉の意味は、 たくさん含んでいるように感じた。まだ私は話さないで、竜二さんの言葉に耳を傾けました。
竜二さんは続けました。

「土蜘蛛然り、弐條城もそうだ。お前は俺達陰陽師の敵だぞ。それなのに、何故お前は俺やゆらを助けた?」
「…」

竜二さんの真剣な顔つきに惹かれそうになりましたが、すぐに言いたいことが出て小さく笑って答えました。

「…目の前に危なくなった存在を助けるのでは…?」
「……」

さも当然のように私は答えてしまった。竜二さんの目は、何故だとまだ疑念を抱いていた。

「勝手に身体が動いたのです。思考なんていらないくらい、本能で動いただけです」

理由なんてないのです。
そう言えば、竜二さんは幾分か納得してくださったのか、さっきまで深く刻まれていた眉間のしわが少しだけ和らいだ。

「…いつか、テメェを殺す存在になってか」
「その時は、その時ですよ」

それに、そう安々と私が滅されるわけないじゃないですか。
それを言えば竜二さんは式神を出しそうだから敢えて言わず、ただ笑みを零した。
本当に、とっさのことだったんです 。体が勝手に動いてしまっただけ。この方を、絶対に失うのはいけないと…私は本能に従ったまで。

「ハッ、めでてぇ奴だな」
「あら、そうでしょうか?」
「…次会った時は、覚悟しとけよ。…じゃあな、神無」
「!」

最後のその言葉にいきおいよく竜二さんを見れば、すでに彼は背を向けて歩いていました。
確かに、彼は私の名前を…妖怪の名ではなく本当の名を呼んでいた。

「…貴方に殺されるなら構わない、と言えば良かったのでしょうかね……」

少しだけ脈拍が速い自分の心臓にそっと手をあてる。目を閉じれば、次から次へと浮かぶ彼の顔。
…ちょっとだけ、後悔してしまった。



(???side)

アイツの気配が遠ざかるくらいに、息を吐いた。フラリ、と壁に背を預けて空を睨む。

「…何やってんだ、俺は…」

自問自答をするほどに、らしくない事をしたと思った。

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