影と日の恋綴り | ナノ
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 思い知った無力さ

日が明け、あたし達は怪我の治療とか色々な関係で花開院本家にお邪魔することになった。ゆらさん達が文句を言っていたけど、それを無視するリクオは通常通りで少しだけ安心した。

「うぉい!!ここが花開院本家かぁー!?」
「四百年ぶりだぜ」
「へー、ちょっと壊れただけで無事かよ。晴明がこっち斬らなくてよかったなぁー」

ぞろぞろ、わいわいがやがやと騒がしい様子でやって来たあたし達に、本家で修復などをしていた花開院陰陽師さん達が目を丸くした。

「ちょっとくら邪魔すんぜ!!」
「オーイ、並べーオレの組!!点呼取るぞー」
「四百年前の乱痴気騒ぎがよみがえってくるぜー!!」
「よ……妖怪が…」
「ウアアア〜」

納豆小僧や小鬼、一つ目を中心に五月蠅くする。敵である陰陽師を前にして堂々とし、なおかつ好き勝手やっているところを見ると、流石奴良組の妖怪と言うしかない。

「お前ら、少しは静かにしろ」
「あはは…」

燈影も呆れているようで、そうやって注意をするものの本人たちは聞いてない。苦笑いしか浮かべない。ふと、陰陽師達の中、一人だけ混ざった妖気。
…………あ、やば。

「ごくろうだったな、青」
「おせーぞおめーら!!オレをこんなとこで……。おい雪女!!てめーどーいうつもりだ!!」
「ご、ごめんね青…!」
「お嬢はいいんでさぁ!!ご無事で何よりです!!」

手の平を返すような態度に、なんというか、青だなぁと思って笑った。青は此処であの子たちを守ってくれたはず。彼の拳は、子供を守るためにあるのだから。

「で、お前は何をしているのだ?」
「手伝いですよ。此処も京妖怪の連中に襲撃されて、半壊って様子ですけどね」

燈影にそう答える青は嫌々ながらに見えたが、自分から力を貸したのだろう。それを分かっているあたし達は、互いに目を見合わせて笑い合った。



賑やかな本家の境内の中、彼らは話していた。鵺、安倍晴明が再び地獄からやって来る時期を、十三代目秀元は花開院家の者に調べるよう言うとぬらりひょんと鯉伴に言った。

「妖の感覚は人でははかれんが、早くて一年…」
「……」
「鵺となりゃあ、半年もかからねぇかもな…」
「そやな。とにかく、一刻も早く調べさすわ」
「おう、頼んだぞ」

鵺との闘いに、彼らもまた備えようとしていた。

「ところであの刀…かえしてもらうで」
「ん?あれ?どこいった?」
「祢々切丸なら、リクオがどっか持ってったぜ」
「なんじゃと」

そう言って指差す方向には、ゆらとリクオが花開院家の者へ近寄っていた。その様子を、緋真もこっそり見ているのも気付いた。
それに何を思ったのか、十三代目秀元が鯉伴に声を掛けた。

「……なぁ、あんた、ぬらちゃんの息子やったな」
「ん?ああ。奴良組二代目、奴良鯉伴ってな」
「僕は花開院家十三代目の秀元。…君の娘さん、緋真ちゃんやったな」
「…ああ」

笑った顔は消え、真面目な表情を浮かべる鯉伴。傍で聞いていたぬらりひょんも真剣な目つきになった。

「僕にしか感じへんかったから、気のせいかもしれへん。けど、二條城で見た記憶の映像で気付いた事があるんや」
「……」
「緋真ちゃんの転生の秘密、君は本当は気付てるんとちゃうん…?」

その言葉に鯉伴は黙った。けれど数秒後、ゆっくりと口を開けたのだった。



ふと、リクオがゆらさんに案内されて何処かへ向かおうとしているのが見えた。その先には、崩れた木材を片付けている途中のゆらさんのお義兄さんが。
ああ、彼に祢々切丸を越える刀をお願いするのか。

「あ、おい、緋真」

燈影に呼ばれたけどその場面を見たくて、静かに彼らへと歩み寄ったのだった。

「あなたにその刀を越える刀を作って欲しい。晴明を倒すために!!」
「…」

真っ直ぐな目を秋房さんに向けて力強く言ったリクオの言葉に、あたしはそっと目を伏せた。
本当に、あの子は大きく成長したなぁ…。

「お願いします。共に闘いましょう!」

別々で鵺を倒そうとするのではなく、一緒に力を合わせて闘うというリクオ。すると、十三代目秀元さんもあたしと同じように様子を見ていたのか、自分も協力すると言った。

「知ってること全部叩き込んだるよ!まぁ〜君なら出来るやろ」

その言葉に、綺麗な瞳から涙がじわりと浮かぶ。彼が抱えてきた重責や期待の辛さが、そして今までの努力がこうして頼られるという実に結ばれた瞬間だった。

「わ…、…私でよければ。この力でよければ…」
「ありがとう!」

上手く話がつけたようで、安心してほっと息を吐く。と、のしりと覆い被さってきた重いもの。
言わなくても分かる、その正体。

「なぁに盗み見してんだよ、緋真」
「あ、おと、さ……」
「リクオの奴、面白そうな事しようとしてんじゃねぇか」
「……そう、だね」

その言い方からお父さんもその様子を見ていたようで、あたしはそう返すだけだった。自分に圧し掛かった重さがふっと消え、思わず顔を上げれば、優しそうな目をあたしに向けるお父さん。
あの時の怖さはもう、無くなっていた。
その眼差しがなんだかこそばゆくて、くすぐったくて、思わず顔を下げた。それに気付いたお父さんがくしゃり、とあたしの頭を撫でるから、何とも言えない気持に。
でも、意識しなくても思い出してしまう二條城での闘い。お父さんを悲しませたくなくて、何もかも必死で、彼女を助けようとした。自分の力の限界なんて分かっているくせに、出しゃばろうとした。
自分の無力さを思い知った。
そして、このままじゃ駄目だとも実感した。

「……ねぇ、お父さん」
「なんだ?」

頭を撫でる手が止まった。もう一度お父さんを見れば、あたしの様子が変わった事に気付いたみたいで一瞬、目を丸くした。
反対されるかもしれない。お前は駄目だ、と言われるかもしれない。
でもね、それでも。

「あたしに、刀をください」

あたし自身も、強くならないといけないと思った。

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