影と日の恋綴り | ナノ
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 優しい人たち

「遅ぇよ」

あたし達が広間に着くと、左之助さんが開口一番に文句を言ってきた。新八さんもそれに続く。

「おめえら遅えんだよ。この俺の腹の高鳴りどうしてくれんだ?」

それに対して呆れた声を上げるのは平助君。

「…新八っつぁん、それってただ腹が鳴ってるだけだろ?困るよねえ、こういう単純な人」
「おまえらが来るまで食い始めるのを待っててやったオレ様の寛大な腹に感謝しやがれ!」
「新八、それ寛大な心だろ…」

左之助さんが新八さんに突っ込んだ所で、後ろに控えて居た千鶴ちゃんが頭を下げた。

「…すみません、私のせいで…」
「じゃあ新八さんの寛大なお腹に感謝してあげましょうか?」

予想外のあたしと千鶴の登場に、二人が目を丸くした。

「何でそいつらが居るんだ?」
「何だよ、居ちゃ悪い?」

平助君の言葉を聞いた新八さんは首を横に振った。

「ん?んな事ぁねえが。まあ、飯は皆で食った方がウマいに決まってる」

そう言った彼にあたし達は安心する。

「おい、そんな所に突っ立ってねぇで、こっちに座れ」

左之さんはそう言って横にずれて、新八さんと左之さんの間に、千鶴が座る場所を作った。あたしは左之助さんの隣へと促された。隣に座ると、左之助さんは嬉しそうにあたしを見て言った。

「これで、ようやく一緒に食えるな」
「…平助に、ずっと口説かれてたもので。仕方なく、ですよ」
「ははっ、おいおい、俺だってお前を口説いてたってのによ」
「へへっ、悪いねぇ左之さん」

あたしと左之助さんの会話が聞こえてたのか、笑って言う平助。あたしと千鶴が座ったのを頃合いに、夕食をあたし達は取り始めたのだった。

「今日も相変わらずせこい夕飯だよなぁ。というわけで……隣の晩御飯、突撃だ!弱肉強食の時代、俺様がいただくぜ!」
「ちょっと、新八っつぁん!なんでオレのおかずばっか狙うかなあ!」
「ふははは!それは身体の大きさだぁ!大きい奴にはそれなりに食う量が必要なんだよ」
「じゃあ、育ち盛りのオレはもっともっと食わないとねー!」
「……」

横で繰り広げられる戦争はどうやら日常茶飯事のようだった。主にこの二人、なのかしら。驚くあたしや千鶴に左之助さんが困ったように謝るけど、賑やかでいいくらいだ。

「(なんだか、奴良組の皆を思い出すなぁ…)」

ガヤガヤと騒がしい奴良組の妖怪達と彼らの様子を重ねて、笑ってしまった。
最初は驚くけど、こういう光景もこれから慣れていくのだろうとなれば、嫌ではない。そう思っていると、どうやら斎藤さんもまさかの戦争に参戦していた。すると、千鶴は向かい側にいた沖田さんの膳を見て言った。

「あ……沖田さんはもういいんですか?」
「うん、あんまりお腹一杯に食べると馬鹿になるしね」

それは誰の事かなんて言っていないのに、反応したのは新八さんだった。
あまり味付けが美味しくなかったのかな…。
あまり手をつけられていない御膳にあたしは少し寂しさを覚えた。

「…別に緋真ちゃんの料理が嫌いじゃないからね。今日はあんまり食欲ないだけだし、お酒をチビチビしたいだけだから」

そう言い、沖田さんは酒を呑む。どうやらあたしが元気をなくしたことに気付いたようで、元気づけてくれたのだろう。見て無いようで見ている彼は、本当は優しい人なんだろう。

「……今度、何か食べたいものがあったら言ってくださいね」
「うん、ありがと」
「えー!総司くんだけかよ、緋真!」
「平助も言っていいよ。けど、まずは沖田さんに聞いたから、沖田さんが食べたいものを作るよ」
「絶対だからな!」
「ふふ、えぇ」

ニコリと笑って、あたしはご飯を食べる。千鶴もちゃんと食べるように沖田さんに言われたりしているが、久しぶりに騒がしい食事につくことが出来て嬉しい様子だった。

「千鶴。最初からそうやって笑ってろ。俺らも、おまえを悪いようにはしないさ」
「原田さん……」

左之助さんの言葉に千鶴は嬉しいような申し訳ないような気持ちになっていた。それはあたしも分かる。けれど、本人たちがこうしてあたし達と接してくれるなら、それを素直に受け入れようと思うべきだ。

「千鶴、左之助さんの言う通りよ。あ、でも、もし悪いようなことされそうになったら、あたしを呼んでね?すぐに駆けつけて、千鶴を守るんだから」
「緋真姉様…」

これからの事のためにそう言えば、千鶴はまた嬉しそうに破顔した。けれど、あたしの言葉に聞き捨てならない様子の左之助さんあがこちらを見た。

「おいおい、緋真。俺らをなんだと思ってんだよ」
「あら、別に左之助さんたち新選組の事を言ってるんじゃないのですよ?」
「よく言うぜ、ったく…。じゃあ、千鶴を守るお前を俺が守ってやるからな」
「……それは、頼りにしてますね」

酒を一口煽り、あたしを見て言った左之助さん。流し目が色っぽくて、本当に困った人だと笑ってしまう。こうやって何人の女性を落としてきたのだろうか。

「何だよ、あんまり信じてねぇだろ」
「いいえ?そんな事はないですよ」

信じてねぇな、と笑う左之助さんに、あたしも小さくだけど笑った。
若い頃の爺やもお父さんも、こんな感じで女を口説いていたのだろうかと思ってしまった。

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