影と日の恋綴り | ナノ
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 お誘い

島原へ行ったはずの左之助さんがしばらくして戻ってきたのは驚いた。そんなあたしの言いたい事が分かったようで、左之助さんは困ったように笑って、色々あったんだよ、と言うだけだった。
なに?色々って。そこが聞きたいのに。
結局教えてくれない左之助さんに呆れたら、左之助さんはだから俺達の飯も頼むと言ったのだった。なんだかそれが面白おかしくて、笑ってしまった。

「もしかして、それをわざわざ言いにきたんですか?」
「まぁ、そういう事だ」
「ふふ。おかしい人。前にもそんな事あって、その時は沖田さんや斎藤さんが勝手に食べてたじゃないですか」
「そうだけど、…作ってくれてる緋真に申し訳ねぇだろ…」
「なぁに、それ。ふふ、左之助さん、どうしたの」
「…本当、どうしちまったんだろな」

自分も分かってない様子の左之助に笑いが止まらない。そんなあたしを見て、左之助さんも笑みを浮かべていた。

「お前の作る飯が不味いわけじゃねぇ。むしろ一生食いたいくれぇだ」
「…前にもそんな事、言ってくれましたね」
「嘘はつけねぇ性分なんでな。緋真は、いい嫁さんになる」
「また……ご冗談を」

どう返したらいいのか分からなくて、そう返すことしか出来なかった。
結局、彼らのはちょっと少なめにするという事で許してあげた。



「緋真」
「斎藤さん?どうかしました?」

夕食作りを終え、自分のと千鶴の分の盛り付けが終えた頃、あたしを呼んだのは斎藤さんだった。幹部の人たちのはもう盛り付け終えて、平助が持って行ってくれたはず。何か足りなかったのだろうか。
作業の手を止め、斎藤さんを見れば彼は運ぶのを手伝おう、と言った。

「ありがとうございます。自分のは持ちますので、千鶴のをお願いしてもいいですか?」
「ああ」

そう言えば素直に動いてくれた斎藤さんに感謝する。けれど、その分皆の食事が遅くなるのでは?と思うけど、大丈夫そうだ。
そして急須と湯のみも準備でき、部屋へと向かう。すると、千鶴の声が聞こえた。

「もしかして私、このままずっと幽閉されてしまうんじゃ…」
「それは君の心がけ次第なんじゃないかな」
「ど、どど、どうして沖田さんが!?」
「あれ、もしかして気付いて無かったとか?この時間帯は僕が君の監視役なんだけどなー」
「もしかして、私の独り言も全部…?」
「ん?」

加えて沖田さんの声も聞こえて、少し遠い距離にいたあたし達にも聞こえた。千鶴も考えたりするのも分かるけど、たしかに独り言にしては声は大きかったわね…。苦笑を漏らすけど、斎藤さんはそんな事関係ないと言わんばかりに彼らに歩み寄った。

「夕食の支度ができている。そろそろいいだろうか」

声をかけた斎藤さん、そしてその後ろにいるあたしを見て、千鶴は目を見開き、慌てた。

「緋真姉様?!さ、斎藤さんも聞いてたんですか!?」
「…つい先程来たばかりだが」
「良かった…!」

斎藤さんの言葉に、千鶴はほっと胸を撫で下ろした。と、同時に、自分がとった行動が恥ずかしくなって、顔を赤らめた。

「あ、その、すみません。私、いきなり叫んだりして…!」
「気にするな。…そもそも今の独り言は聞かれて困るような内容でも無いだろう。」

その一言で台無しになったけど。
デリカシーがなってないわね、と言いたいけどここは横文字ダメだと思い出して、言葉を変えた。

「それ、あたし達も聞いてたって言ってるようなものよ」
「お、お姉様…」

項垂れる千鶴にごめんね、と口には出さず笑いで誤魔化した。すると、あたし達の後ろからバタバタと足音が。振り返れば、我慢ならないというような表情をした平助が。
どうやらご飯の時間を言いにきたようだ。みんな揃って食べようと言いたい平助だけど、二人は断る。

「俺達は仕事がある。先に食べて良い」
「片時も目を離すなって、土方さんの命令だからね」

二人がそう答える。まぁ、彼らは任された仕事だから仕方ないはず。けれど、平助は思ってもみない言葉を口にした。

「だったら、こいつも緋真もオレらと一緒に食わせればいいんじゃねーのー?」
「え?」

私が驚き目を丸くしていると、斎藤さんが私の気持ちを代弁した。

「部屋から出すな、との命令だ」

そう、土方さんからの命令であたしや千鶴は部屋から出す事は出来ないのだ。しかし、平助は食い下がる。

「いいじゃん、土方さんは大阪出張中なんだし」

それに、緋真もそろそろ一緒に食べようぜ。と続けた言葉に、意味が分からないと眉を顰めた。それに、の意味が分からないよ平助。たしかに今まで断ってたけど、それはあたしの為でもあったわけで…。
けれど、沖田さんは小さく息を吐いて言った。

「そうだね。僕も、この子が食べるの見てるだけなんて退屈だし」
「へ?」

彼はそう言うと、斎藤さんの手にあった膳を持ち上げて平助へと渡し、あたしの手にあったお膳をも取った。

「え…?何で俺に渡すんだよ…?」

いきなりお膳を持たされて平助は意味が分からない、と首を捻る。

「言い出しっぺは君で、それに賛成したのが僕だから。さ、行くよ」

つまり沖田さんは、千鶴とあたしを部屋から出す事に賛成な人達で、彼女の食事を運ぶ、と言いたいのだろうか。彼の考えている事は掴み辛いな、と思いながら、今更断れることも出来ないと観念した。 斎藤さんもため息を零して、もと来た道を戻っていった。
どうやら斎藤さんも了承したようだ。

「え…、えっと…」

どうしたら良いのか戸惑っている千鶴に、あたしは諦め、困ったように笑い、行こう、と誘ったのだった。

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