影と日の恋綴り | ナノ
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 妹ができました

土方さん達について行き副長室へ入ると、土方さんは開口一番にあたしの記憶について話し始めた。

「記憶が無いってこと、忘れてんじゃねえ」
「すみません、うっかり…」
「ったく…」

確かにあたしもしまったとは思った。でも、いつまでも記憶が無いという扱いはかなりしんどいもの。常に周りに気配がないかを考えて発言しないといけないとなれば、気力はすり減っていくばかり。あたしはそんなに演技が上手というわけじゃないのに…。

「まぁ、土方くん。奴良くんも常に気を張っては苦しいもの。徐々に記憶が取り戻しつつあるということにしておきましょう」
「…」
「彼女が口にしてはいけないのは、夜の姿であり、己の血筋。あの光景を目の前で見た我々にしか理解できるものなのですから」
「そうだなぁ。山南くんの言う通り、奴良くんも忘れたくないことを口にしてはいけないとなると悲しいだろう」
「……ったく、分かったよ」

山南さん、そして近藤局長の言葉もあってか、土方さんはしぶしぶと言った言い方で、あたしの事について考え直してくれた。たしかに、山南さんの言う通り、この三人以外に言ってはいけないのは、あたしが四分の一が妖怪である事だ。家族のことや自分が住んでいたことは話しても問題は無いはず。
あ、あとは未来からということは言っちゃいけないか。

「緋真、今後は話してもいいが、絶対にあの事だけは言うなよ」
「はい。分かってます」
「…ならいい」

舌打ちをしそうなくらいの恐ろしい顔をする土方さんに苦笑を浮かべたら、山南さんが申し訳なさそうな表情であたしを見た。

「他の隊士のためとはいえ、あなたにまで男装を強制させること、申し訳ありません」
「それは仕方ない事と思ってます。風紀を乱せば、京の治安維持も出来なくなる。むしろ、しばらくの間ですけど、この姿で居させてくれてありがとうございました」

にこりと笑い言えば、山南さんは少しだけ表情を和らげた。近藤さんも同じように申し訳ないと思っていたみたいで、近藤も気にならさないでください。と言えば、何か困ったことがあれは言うのだぞ、と言ってくれた。
袴は今日の夜にでも渡す、と言われた。買ってくれるのか、それとも隊士の誰かのお古を貰ってくるのだろうか。

「そういえば、彼女は…」
「雪村千鶴については、本人から聞くんだな」

バッサリと言われて何も言えなかった。まぁ、土方さん達から聞くと色々と漏らしかねないし、本人からの言葉だと信憑性も高い。数秒遅れて返事をした。
話はこれで終わりのようで、今日のお昼は手伝わなくていいと言われた。珍しい事もあるけど、あたしの手伝い無しの食事もなんだか久しぶりに思って、食べてみたいと思ったので素直に従った。まだ三人は話すことがあるみたいで、あたしだけ退出することに。
あ、でも。

「土方さん」
「なんだ」
「あたしが彼女の部屋に行けばいいのですか?」
「…ああ、そうしろ」
「分かりました」

指示されれば素直に動こう。了解し、今度こそあたしは退出した。
部屋に戻ったあたしはすぐに小物を風呂敷にまとめた。といっても、小物は髪留めやお札、そして鬼哭だけ。布団は、あとで左之助さんか平助あたりの暇人にお願いしよう。と自分のする事をインプットしつつ、お世話になった部屋に一礼して、千鶴ちゃんがいる部屋へ向かった。



「千鶴ちゃん、奴良です。入ってもいいかな」

障子越しに声をかけると、慌てた様子でどうぞ、と聞こえた。どうかしたのかな、とは思いながらも中へはいれば、彼女は凛とした佇まいで座っていた。
えっと、これは…。

「…そんなに畏まらなくてもいいのよ?」

苦笑を漏らして言えば、千鶴ちゃんはカァと赤らめて楽な姿勢になってくれた。もしかして、あれかな、本能がそう言ったとか…?
鬼の眷属ならそんな田舎妖怪に畏まらなくてもいいのに…。鬼童丸とかの京妖怪は、絶対に嫌がるし、そんなことするくらいなら死ぬほうが、いや、それよりもあたし達を皆殺しするか。

「今日から同室になったの。よろしくね」
「は、はい!よろしくお願いします…」

彼女に近寄りいえば、緊張しながらもそう言ってくれた。まだぎこちない笑顔なのは仕方ない。でも、それでも分かるリクオとはまた違う可愛さは思わず抱きしめたくなる愛らしさだ。

「これで男の子と間違えた新八さんや平助はどんな目をしてるの?これだから女に言い寄られないんだわ、きっと」

さっき聞いた話を思い出して憤慨する。すると、千鶴ちゃん、あ、あのと戸惑った声であたしを呼んだ。

「あの、私って、男装下手…ですか…?」

それは今まで気付かれなかったのに、ここに来て尽く気付かれたことで自信が失いつつあるのだろう。尻込みする言葉は最後まで耳にはいり、その原因はあたしの発言にもあると分かったため、フッと、笑い言った。

「そうね、たしかに袴を履いていたら男の子と思われるかも。けどね、男の子が好き好んでそんな桃色の袴を選ばないわ。この年の子なら、青や緑といった、落ち着いたものを選ぶから」
「うっ……」
「あとはもうこれは仕草とかの問題。千鶴ちゃんの歩き方や手、それに口調も、男の子にしては弱々しいかと思うもの」
「ど、道中は流石に一人称を変えようとは思いましたけど…」
「難しいよね。あたしも男装しろって言われてるから、気をつけないといけないわね」

やれ困った、と言外に言えば、千鶴ちゃんは小さく笑ってくれた。その様子に、あたしも笑みを零した。息が詰まりそうな生活がこれから始まるのだ。少しでも、あたしに吐き出して欲しい。

「ねぇ、千鶴ちゃんのことを妹と思ってもいいかしら?あたし、弟がいたから、つい重ねちゃって」
「そ、それなら、私も緋真さんのこと、緋真姉様って呼んでもいいですか…?」
「…ええ、もちろんよ」

頬を赤らめて、目を輝かせる可愛い子の頼みなんて聞かないはずがない。笑って頷けば、千鶴は嬉しそうにあたしに抱きついてきたのだった。

「よろしくね、千鶴」
「はい!よろしくお願いします、緋真姉様!」

ねぇ、やっぱりどこからどう見ても女の子だよ。

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