影と日の恋綴り | ナノ
×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -

 改めた処遇

笑って彼女、千鶴ちゃんを呼べば、本人だけじゃなくて他の皆も驚いた顔になった。飽きれたような、あたしの言葉を分かっていたのは土方さんくらいだった。

「あの、わ、私……」
「お、おいおい緋真!お前、コイツが女って分かってんのかよ!」

千鶴ちゃんの言葉を遮りあたしに尋ねたのは新八さんだった。かなり驚いているのか、立ち上がってるくらいだ。千鶴ちゃん本人もそれが聞きたかったのか、同意するようにコクコクと頷いている。
可愛いなぁ、なんて思いながら新八さんに顔を向けた。

「当たり前じゃないですか。むしろ、こんな可愛い男の子がいたら危ないじゃないですか!…もしかして、新八さん、彼女を男と思ってたんですか?」
「ぐっ、ち、ちげぇし!」
「おっと、嘘はいけねぇな、新八ィ。お前、男と思って、こいつに切腹しろって言ったもんなぁ」

否定した新八さんの言葉をすぐに言ったのは左之助さんだった。おかげで新八さんは左之助さんに正直に話すんじゃねぇ、と怒鳴っていた。逆ギレはみっともないぞ。でもあたしの言葉に心当たりの人がいるのか、新八さん以外に平助や近藤さんまでそっと目を逸らしていた。
なんというか、想定内の人達だ。

「わ、私の男装って…そんなに分かりやすいですか……?」
「ええ。まず、そんな可愛らしい袴を着る男の子はいないわね」
「……」

バッサリと言い捨てあたしの言葉にショックを受ける千鶴ちゃん。そんなにショック受けないで欲しいけれど、ここの大半の人に女性だとばれていたのがそうとう胸に突き刺さったのだろう。さらに追い打ちを掛けるように言ったあたしの言葉。
否定するほうが可哀想じゃない。

「でも、何らかの理由があって男装をしているのでしょう?自分は男と思って行動すれば、周りの目を気にしてなかったら男の子に見えるわ」
「……ありがとうございます…」

納得のできなさそうな表情だけれども、私の言葉を助言として捉えたのか、律儀にも礼を言う千鶴ちゃん。
ああもう、可愛い。

「あ、でも、それだけであたしを此処に呼んだわけじゃないんですよね、土方さん」
「…」

たかだが千鶴ちゃんの紹介のために此処へ連れてくるような人ではないというのは、彼を知っているからこそ。別室で紹介すればいいだけなのだから、紹介はおまけ扱いで、本題は違うもの。

「お前の処遇を少し変えようと思っている」
「…」

身体を土方さんの方に向け、彼の言葉を待った。しばらく静かになった中、彼は重たい口を開けた。

「お前も男装しろ、以上だ」
「…え?」

たったそれだけ?
素っ頓狂な声が出てしまったのは仕方がないと思う。以上、と言ったには特に他の内容を変えるつもりはないということ。驚いたのは、あたしだけじゃなく、全員だった。

「え、それだけなのかよ、土方さん」
「緋真も男装しろって…」
「あらら、これで本当に屯所に華がなくなるね」

笑っていう沖田さんだけど、彼も少なからず驚いている様子だった。斎藤さんは変わらず冷静な様子。副長の命だから、という理由が大きいのだろう。

「分かりました。あたしも男装しますね」
「その口調も気をつけろって事だからな。女言葉を話す男ってだけで怪しまれるんだからな」
「…気をつけます」

この声事態で怪しまれそうだけれど、他の隊士の前じゃ口を開けないようにしたらいいことだろう。

「つーことは、緋真のその姿も今日でも見納めって事か」

そう言ってあたしをまじまじと見る左之助さん。その目つきが厭らしい感じがして思わず仰け反る。
セクハラだって訴えてやりたい。

「それと、緋真。お前は今日から雪村と同室扱いにする。いいな」
「分かりました。それくらい構いませんよ」
「扱いは一緒だ。お前は小間使いとする」
「はい」

今までと同じ扱いというのは少し安心した。彼女と同じで誰か、といっても土方さんの小姓扱いとなれば、色々と面倒になるだろうから。
幹部の小間使いなら、今まで通り食事の手伝いも出来るし、汚い屯所の掃除も出来そうだ。

「話は以上だ。斎藤、お前は雪村へ部屋を戻せ。緋真、お前は俺の部屋に来い」
「了解です」
「分かりました」

斎藤さんとあたしはそれぞれ返事をし、会議は終了。各自解散という扱いになった。
斎藤さんは指示通り、千鶴ちゃんを部屋へと連れて行った。心配そうな、不安そうな表情を浮かべる彼女を見て、あとで色々と話を聞こうと決める。そんなあたしに、土方さんは名前を呼びついてくるように言う。傍には近藤さんと山南さんの姿も。
そのメンバーでなんとなく話す内容も分かり、気が重くなった。彼らの後をついて行こうとすると、あたしに声がかかった。

「緋真」
「はい」

呼んだのは左之助さん。ぞろぞろと部屋を出る中、左之助さんはあたしをじっと見て、かと思えばフッと笑い言った。

「やっぱお前の着物姿が見納めってのは、残念だわ」
「助平ですよ、左之助さん」

間髪入れずそう言ってしまったのは仕方ない。

prev / next