影と日の恋綴り | ナノ
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 藪の中

「つ、着いた…」
「緋真様!」
「あ、神無っ」

お父さんと燈影の力を借りつつ、リクオの近い場所まで辿り着けた。そんな時に漏れた言葉が聞こえたのか、神無が近寄ってくれた。そのまま手を貸してもらって、ようやく立ち上がれた。
着物で動くのって結構しんどいなぁ…。

「テメェらまで何で此処に…」
「緋真がどうしても、てな…」
「……」

驚く竜二さんにお父さんがそう答えた。近くには、鬼纏を終え身体が思うように動けない黒の姿もあった。慌てて黒のもとへ向かう。

「黒ッ」
「!お嬢…?!」
「じっとしてて…」

そっと彼の身体に手を当て、力を込める。淡い光が手の平から出て、黒の傷を癒す。身体を硬直させていたのか、ゆっくりと黒が肩で息を吐いたのが分かった。少しは楽になったようで、安心した。

「緋真、あまりホイホイ使うなよ」
「…うん」

様子を見ていたお父さんに言われてそう頷くけれど、使わないといけない時は絶対にある。お父さんはあたしの事を思って言ってるって分かる。
でもね、お父さんだってあの時にあたしに必死に治癒の力を使ったって、聞いたんだからね…?

「どうして?目に見えて力が失っているぞ」

羽衣狐がリクオに向かって刀を振るう。それを躱したリクオだが、その後に続いた羽衣狐の攻撃をかわす事は出来なかった。

「四尾の槍“虎退治”!!」
「ぐ…」
「ねずみ、おとなしくしておれ!」

羽衣狐の槍がリクオを貫いた。そのまま槍の切っ先は板に貫き、リクオの動きが封じられた。

「リクオ様!!」
「!?」
「何やられてんだリクオ!!」
「若!!」

氷麗やイタクさん達もいつの間にか近くまで上っていたのか、声を荒げる。
深く、深く突き刺さる槍。

「いや…リクオォッ!!」
「ぐは…」

リクオの口からが血の塊が吐かれた。今すぐ行って怪我を癒したい。癒させて欲しい。けれど、そんなことができないほどの緊迫とした空気。

「動けぬなら、畏も発動できまい」

羽衣狐とリクオの目が交わる。

「とどめだ」

その時、羽衣狐の顔つきが変わった。何かを思い出しているような、リクオと何かを重ねて見ているような、そんな顔。
一瞬のスキが羽衣狐に生まれた瞬間だった。

「黄泉送葬水包銃ー!!」

その隙をついてゆらさんが攻撃をした。けれど、それくらいの攻撃を羽衣狐が躱せないわけがなく、いとも容易く鉄扇で攻撃を防がれた。

「奴良くん…!!今のうち逃げて!」
「ゆら…」

見覚えのある少女。羽衣狐は瞬時に察する。

「そうか、破軍使いか…」

羽衣狐の殺気の矛先がゆらさんへと変わった。

「ゆら!!何やってんだ!!逃げろ!!」

いつの間に近くまでいたのか、京妖怪がゆらさんの背後をとった。

「ゆらさん!!」

そのクナイでゆらさんの首を掻っ切ろうとしたけれど、寸前で魔魅流さんが助けた。

「魔魅流!!」
「……わかっている、竜二。これが…全ての優先事項」
「魔魅流…くん?」

自分の従兄である魔魅流さんの様子が違うことに戸惑うゆらさん。そんな彼女を安心させるように、魔魅流さんは笑い言う。

「ゆら……下がってて。ボクが守るから」

その為に、彼はその力を得たのだから。

「あの陰陽師娘、状況分かってんのかねぇ…」
「…アイツは猪突猛進だからな。頭で判断する前に、身体が勝手に動くタイプだ」

一度は息を呑むものだったが、無事にゆらさんが助かった事に竜二さんとお父さんが口々にそう言う。竜二さん、実の妹だというのに辛辣すぎる。

「無事で良かった…」
「緋真様、御下がりください」
「…うん…」

神無があたしを守るように構え言うけれど、あたしは羽衣狐のその上空にあるそれに目を細めた。そして、もう一度リクオ達に目を向けた。
羽衣狐のもとに、祢々切丸と破軍の使い手が揃った。

「リクオ…ゆらさん…」

その時だった。
ピキ、パキン、という音が響き渡った。

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