影と日の恋綴り | ナノ
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 男所帯の弱点

保護される扱いになったあたしだが、極力部屋から出ないようにした。行動範囲は限られているとはいえ、自分の命は彼らに左右される。些細な行動が彼らの何かの琴線に触れたら溜まったものじゃない。朝食は幹部の方が日替わりで持ってきてくれた。平助や新八さん、そして原田さんは一緒に食わないのかと尋ねるがそれをやんわりと断っている。近藤さんにしばしば食うように誘われている、とも言われているけどそれでも断る。

「君、自分の立場ちゃんと理解してるんだ。本当に記憶ないの?」
「何も覚えてないのですから、本当です。外部の者が貴方達の周りをうろちょろされても困りますでしょう?」
「…君、本当に変な子」

今日は沖田さんが持ってきてくださったようで、彼はあたしが食べている間ずっと入口のそばで座っている。彼に見られながらご飯を食べるっていうのは恥ずかしいのだが、そうも言っていられない。静かに朝食を食べるが、ふと、主菜の魚を見て驚く。

「…」
「なに?どうかしたの?」
「…生焼け…」
「……」

あたしの言葉にそっと目を逸らしたのは気のせいではないようだ。沖田さんを見れば、あたしと目を合わせてくれない。
え、あの、もしかして…。

「食事は当番制ですか…?」
「君には関係ないでしょ」
「皆さんに生焼けを出してるのですか?」
「これはたまたまだよ」
「…お料理、苦手なのですか?」
「……苦手だよ」

三度目の質問に観念したのか沖田さんは答えてくれた。まぁ、この時代男性が料理するというのはあまり見ない光景ですものね。上手く全体に火が通っていなかったのか、少しだけある生焼け部分を見つめる。こういう生焼けなのは、あとあとお腹を壊したりする原因にもなる。
いたたまれない気持ちになったのか、沖田さんは「ちゃっちゃとご飯食べてよ」とあたしを急かすように。そういう子供っぽいところのある沖田さんにあたしはクスリと笑ってしまう。
しかしこれは別。彼らの衛生面によろしくない。

「あの、沖田さん」
「なに」
「あとで、副長様のところへご案内させていただけませんか?」

そう言えば、沖田さんは目を鋭くした。
嗚呼、警戒されている。少し殺気立った沖田さんに誤解されないようにと笑みを浮かべて言った。

「逃げるつもりはありません。ただ、ご相談をばと…」
「変な事したら斬るよ」
「もう何度も言われてるので、耳にタコ、です」

食事を終わらせると、沖田さんは配膳を片付けたあと、あたしを土方さんの下へ連れていってくれた。

「土方さん、僕です。入りますね」

本来ならば、室内にいる人が許可を得るまで開けないはずなのに、沖田さんはそんなの関係ないといわんばかりの態度で堂々と副長室を開けた。中には何か会議をされていたのか、近藤さんと山南さんもいた。

「総司…お前はまた、入っていいって言う前に開けんじゃねぇ!」
「だって土方さん許可下すの遅いんですもん」
「お前なぁ…、…あ?なんでお前がここにいる?」

沖田さんのほうに向けていた目があたしに。沖田さんとは違う目つきに苦笑を浮かべながら、土方さん達にご相談を、と用件を告げた。

「我々に相談、と?」
「…何か思い出されたのですか?」
「いえ、そうではないです。…あたしに仕事を頂けたらと思いまして」

言うな否や、彼らは驚愕する。仕事と言っても、彼らの巡察などの同行を求めているわけではない。頭ごなしに駄目だと言おうとした土方さんの言葉を遮って言った。

「皆さんのお食事は当番制だとお聞き致しました」
「!」
「ああ、そうだ。一日三食、みなの食事はみなで当番制で作っている!各組ごと、そして幹部と言ったようにな!」
「今日は沖田くんと斎藤くんが作りましたね。…何か問題でもあったのですか?」

さすが山南さん、話が早いなぁ。感心しつつ聞かれたから、あたしはにこりと笑って言った。

「今朝の主菜のお魚が生焼けだったので、皆さんのお食事が心配になったのです」
「…そう言われたら、そうだった気が…」
「ねぇ、緋真ちゃんは何を言いたいの?告げ口?」

沖田さんが慌てたようにあたしの口を塞ごうとするけど、別に告げ口がしたいわけじゃない。

「以前から思ったのですが、時折生焼けなものもあれば、土が混ざった野菜もあり、皆さんはどのような調理をなさっているのか気になってました。ですが、今日も食べて分かりました。貴方がたは料理が全くと言っていいほど駄目だと」

バッサリと言えば、彼らはあたしから視線を逸らした。
こら、視線を逸らさない。

「これだといつ食中毒や腹痛にでもなるか分からない。そこで、相談なのです」
「…言ってみろ」

話が見えているだろうに、土方さんは促した。ありがとうございます、と心の中で礼を言って口を開けた。

「あたしに、食事のお手伝いをさせて頂きたいのです」



(原田side)

「なぁ、今日はやけに美味そうだが、当番誰だ?」

昼餉の時間に部屋へ向かえばすでに配膳されている光景に俺は目を丸くした。俺だけじゃねえ、新八や平助、一もいつもと違う輝きを出す昼飯に言葉を失っていた。思わず出た質問は誰に拾われることは無く消えた。けど、土方さんや総司がなんとも言えない表情をしていて何かあるとは分かった。もう1回聞こうと口を開けたが、近藤さんに遮られて聞くことは出来なかった。

「今日は一段と美味しそうじゃないか!さぁ、食べて午後からも頑張ろう」
「…それでは、いただきます」

山南さんの号令で俺達は箸を取る。いつもとは断然に違う米の粒の輝きにご飯に手をつけるのが少しだが億劫になる。が、ご飯の匂いが食欲をそそる。小さくいただきます、と俺らしくなく改めて合掌して米を一口。

「っ!」
「こ、こいつぁ…!」
「っ〜〜美味ぇ!!」

平助が俺の気持ちを代弁してくれた。それを拍子に箸は止まらなくなった。
米だけじゃねぇ、おかずも味噌汁も俺達が作る以上に美味すぎた。いや、美味すぎて涙出そうなくらいだった。

「やっべぇ!!めちゃくちゃ美味いじゃねえか!!」
「すげぇな、この味噌汁なんてどうやって作ってんだ…?」
「…」

新八につられて出る言葉に同意するように一が頷く。総司も普段食わねえくせに、箸が止まることを知らないくらい動かしている。土方さんも味噌汁を啜って目を丸くしていた。

「なぁなぁ、今日の当番誰だったっけ?」
「たしか、土方さんと山南さんじゃなかったか?」

平助の質問に新八が答えた。そして事情の知らない俺達は土方さんへ目を向けた。ご飯を食ってた土方さんは俺達の視線に耐えれずか、どうなのか、観念したようにため息をこぼしてからこっちを見た。

「左之助」
「ん?なんだ?」
「あとで、奴良のところに飯を持ってけ。お前今日午後から非番だろ」
「そうだが…、まぁ、分かった」

俺達の質問に答えてはくれず、土方さんは俺にそう言って再び飯を食う。どういうことはさっぱり分かってねぇ俺や新八達は不服気な目を向けるがそれからは無視された。
その日の飯は幹部全員好き嫌いもしねぇで完食した。

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