影と日の恋綴り | ナノ
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 決まる処遇

新選組の局長、副長、参謀の三人の判断によりあたしは新選組に預かるという処遇になった。信じて欲しいわけではないが、目の前で起きた出来事というのはあまりにも強いわけで、自分の素性をもう少し説明するようにと言われた。三人には、自分の素性と出生を教え、妖世界での大きな戦争が起きたことも伝えておいた。
といっても、ただあたしが可愛い弟のリクオ自慢を語ってしまっただけなんだけどね。
三人には自分の素性について内密にするようにと頼んだ。理由を分かっているために、三人は是と答えてくれた。そこには感謝した。もちろん、あの紛い物に関しても内密にしろと言われた。それにあたしも頷くのだった。
でも、あたしの能力についてを言うつもりはなかった。

「では、改めてご挨拶を…。私は、関東任侠妖怪総元締奴良組三代目総大将補佐役の奴良緋真と申します。この度の処遇、感謝致します」
「いやはや…そこまで堅苦しい挨拶をされると困ったものだな…。…俺は京都守護職会津藩松平肥後守容保中将御預浪士新撰組局長の近藤勇だ!」
「近藤さん、アンタも堅苦しい挨拶するなよ…。新選組副長土方歳三だ。…よろしく」
「私は山南敬助。新選組総長を務めております。困ったことがあれば、教えてください」

互いに挨拶をし、頭を下げた。堅苦しいというけれど、任侠作法としてはこれが仕来りなのだ。本当だったら血判でもなんでもするんだろうけど、此処は任侠妖怪じゃないからしない。
頭を上げて、あたしは彼らにまだ言えてない事を言った。

「…私は未来から来た。そう言いました」
「ええ、そうでしたね」
「つまり、この幕末の行く末を知っている事になります」
「……」

此処までで言いたい事が分かった三人は流石だと思う。自分の持つこの記憶は、情報は、今後の先見として使える代物。
けれど、そうしたら本来の未来が途絶えてしまうという事になる。

「たとえ何があろうと、私は、貴方方に助言もしません」
「…もちろんそのつもりだ。不利益だろうがなんだろうが、絶対に言うんじゃねぇぞ」
「はい」

土方さんの目をしかと見て返事をした。
緊迫した空気が薄くなったのを察した近藤さんが、晴れ晴れとした笑みを浮かべて、あたしを見た。

「よし!それじゃあ他の者に紹介でもしようじゃないか!」
「おいおい、近藤さん。紹介って、アイツ等納得するのかよ」
「おや、彼らを納得させるようにするには、土方くんが必要であることが前提ではないのでは?」
「山南さん、アンタなぁ…」

やいやいと言い合いながらも腰を上げる彼ら。少し理解が出来ず、遅れてあたしは思わずえ?と声を上げた。それに気付き、近藤さんが不思議そうな表情であたしを見てきた。

「どうかしたのか、奴良くん。さあ、総司達にも挨拶をしようじゃないか!」
「え、あの…」
「余計な事を言わなきゃいい。俺や山南さんと合わせろ」
「そんなに気負う事はありません。大丈夫ですよ」

そう言って彼らは部屋を後にした。あたしも慌てて立ち上がり、彼らを追おうと敷居を跨ぐ。でも、あたしが言いたいのはそれじゃない。

「あたしの立ち位置ってどうなるのよ…!」

男所帯のところに女一人居たら、大問題なのはそっちなのに…!



「奴良緋真と申します」
「…奴良は、失敗した奴等に襲われたみてぇだ。詳しい事は本人も分かってなく。自分の名前や気失う寸前の事は覚えているみたいだが、それ以外は記憶を失くしている。よって、此処で預かる事にした」
「彼女は幹部の小間使いとします。一般隊士の目に合わせないようにしてください。必要な時は、彼女には男装していただきます」
「以上だ。解散」
『いやいやいやいや!!』

淡々とした説明で終わらせようとした土方さんだったけど、それを他の幹部が許すはずも無かった。ですよねー、と苦笑いしそうになったあたしは彼らの様子を眺めることにした。

「そんなんで納得するわけねぇだろ、土方さん!」
「そうだぜ!というか、いつの間に三人で決めてんだよ!」
「僕達には教えてくれないんですか、土方さん」
「…納得しがたいです、副長」
「……」

不満げな表情で土方さんに抗議する彼ら。皆さん美形ですねぇ、なんて思いながらもあたしは何も言わない。茶髪の人の視線がとても痛いけれど、無視をします。

「ねぇ、君。本当に記憶が無いの?」
「ぇ、あ…ごめんなさい、本当に無いんです…」
「…ふーん…」

まぁいいや。と彼はあたしから離れていった。彼だけじゃない、襟巻を身につけた彼もじっとあたしを見ていて、警戒心むき出しだった。
はっきり言って居心地最悪。

「うるせぇ!これは近藤さんも納得してんだ!文句あんなら近藤さんにも言いやがれ!!」
「近藤さん!」
「はっはっは!奴良くんはうちで預かる事にした。人助けだ、そうかっかするんじゃない」

笑って言う近藤さんに文句も抗議も出来ず、彼らはしぶしぶと言った様子で納得してくれた。本当なら、彼らも交えて話をしたほうが良いのだろうけど、妖怪の姿をあの三人しか見られていないというのなら仕方がない事でもある。
ただ一人、あの人だけは抗議も文句も言ってない。

「左之さん黙ったまんまだけどいいのかよ!」
「!」

最年少であろう少年が黙ったままの彼に声を掛けた。自分が気にしていた人だったから、思わず肩を揺らした。彼はそう言われて、ああ、と何か考える様子だったが、決心したのかあたしへ目を向けた。

「なぁ、アンタ。名前はなんてんだ?」
「え…」
「名前だよ。悪ィ、聞いてなくてよ」

申し訳なさそうな顔をする彼にあたしは素頓狂な顔をしてしまうけど、なんだか面白おかしくてクスリと笑った。そして真っ直ぐ彼だけを見て言った。

「奴良緋真と言います。…あなたの名前を、教えていただけませんか?」

二度あたしを怒鳴った彼の名前を作品として知っているが、初対面である今は知らないのだ。笑ってそうお願いすれば、彼も優しい眼差しをあたしに向けて教えてくれた。

「新選組十番組組長、原田左之助だ。よろしくな、緋真」

誰かの声に似ているのかと思えば、若かりし頃の爺やだった。

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