影と日の恋綴り | ナノ
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 帰るべき場所

隠し事でもあったことがすでに知られていた事にあたしは動転した。だって、この人達があたしの正体を知ったとしても、他の人に見られていないかが心配になったから。震える声で尋ねるしか他ない。

「あの、あたしを見たのは…」
「お前が倒れていたのを発見したのは、俺だ」
「!」

そう言ってみれば、腕を組みこちらを見る土方さん。
彼が言うには、倒れていたあたしを見つけたのは夜更けの事だったそうだ。巡察帰りの土方さんは血まみれのあたしに驚き、急いで此処に連れてきたとのこと。その間に、他の幹部の方とも居合わせたけれど着物姿のままだったそうだ。

「何か起きたのかと思ったからな。他の奴等を追い払って、俺と近藤さん、そして山南さんと三人で止血やらをしようとした時に…、お前の容姿が一変したんだ」
「…」

三人はとても驚いただろう。まさか目の前で女が姿を変えたのだから。

「重傷だと思った傷は消えたように無い。着物も寝衣に変わりゃあ警戒する。けど、お前は三日も寝込んだままだったからな。俺達にも考える時間があって、冷静になることも出来た」
「……」
「貴方が自分の素性を教えてくださって助かりました。人間だと申されれば、我々が見たのはなんだったのかと問い詰める事になったのですから」

眼鏡の人、山南さんは安心させる笑みを浮かべてそう言った。でもごめんなさい、裏のある笑みで怖いです。そうは言えず、ただ自分のした事が正解であった事に安堵した。
でも、話はそれだけで終わるはずはなかった。

「お前に質問する。…そいつらとは屋敷で闘っていたと言ったが、何処の屋敷だ」

やっぱりそれを聞かれるとは思っていた。自分達の手元にあるはずのそれらが勝手に出て、何処かの屋敷を襲撃したとなれば大問題だから。すぐにでも処理せねばならいという考えは、流石だ。
でも、信じてくれるかは分からない。

「…、…東京の浮世絵町です」
「東京?どこの地名だ、そりゃ」
「…昔の名前を使えば、……江戸」
「!?」

答えたあたしの言葉に土方さんは眉を一瞬だけ動かした。そりゃあ、あたしの言い方には意味があっての事だから、気にするのは当たり前か。

「その言い方じゃあ、お前は先の時代から来たって言ってるじゃねぇか」
「…その通りです」
「ああ?」

挑発する言い方の土方さんにあたりはあくまでも冷静に答える。

「私が生きているのは平成の世。貴方達の生きている文久の世より二百年ほど先の未来から…来ました」

そう言って小さく息を吐いた。静かになる空間に、自分の心音がやけにうるさく聞こえた。
冗談ではない事実を述べているけれど、そんな事信じてもらえるはずがないとは分かっている。証拠を出せといわれても出せれない。
けれど、これは本当のことなんだ。
何を言われても、あたしはそう言うしかない。

「…貴方方から見たら、私は異端者でしょう。普通とは違う、おかしな者と思うのは当たり前。けれど、自分達とは違うからといって、頭ごなしに否定をしないで頂きたい。嘘偽りのない、真の言葉なのだから」
「……」
「…私は、帰るべき場所があります」

そっと膝の上に自分の大事な刀を、鬼哭を撫でる。一瞬、あたしが刀を抜くかと思ったのだろうか、土方さんが構えたのが分かった。でも、そんな事をしてあたしの何の得になる。

「帰るべき場所へ戻るために、あたしは、此処で死ぬわけにはいきません」

鬼哭を横に置き、手を揃えて頭を下げた。
彼らの気が乱れた。

「どうか、命だけはお許しください」

きっとリクオやお父さんが居たら、そう簡単に頭を下げるんじゃないと怒りそうだ。でも、土下座なら何度だってするつもりだ。
貴方達のもとへ戻るためなら。

「…頭を上げてくれないか、奴良くん」
「貴方方の返答を聞くまで、上げる事は出来ません」

戸惑う近藤さん。でも、これは譲れない。
再び静かになった室内。近藤さん達に早急な判断を求めさせているのは申し訳ないかもしれないが、生きるか死ぬかを決められるというならば、すぐにでも処罰を決めて欲しかった。
死ねと言われるならば、此処から去る。
そう簡単に、この命を落とすわけにはいかないのだから。

「君の処遇については、もう決まっている」
「…」
「奴良緋真、お前は本日より新選組で預かる事とする」
「…え…?」

近藤さんの言葉に続けて聞こえた土方さんの言葉にあたしは耳を疑った。
預かり…?
下げていた頭を勢いよく上げて、彼らを見た。

「…殺さないの、ですか…?」
「おや、まるで殺してほしいと言っているようですね」
「そ!んな…ことは…」
「確かに、お前の事は信じちゃいねぇ。けど、見た目が変わった事とか考えたら全部が妄言だなんて言いきれない。それに…、お前は知っちゃいけねぇ事を知ってしまったんだ。…外部に漏洩してもらっちゃ困るからな」

ズカズカ言う土方さんの言葉は本音なのだろう。そして最後の事は、屋敷を襲ったあの紛い物たちのことを差しているのだろう。外部とは、この時代なら長州藩などといった攘夷派の事を差していると考えれば、確かに危ういだろう。
本来ならば、殺して漏洩阻止するのに、彼らは少なくとも信じてくれたという事になる。

「…ありがとうございます…!」

視界がぼやけたけれど、彼らの顔を見るよりも前に頭を下げたために見られずに済んだ。

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