▼ 近づく真実
リクオがいつの間に羽衣狐のもとまで行っていたのかは分からない。けれど、間一髪で竜二さんを助けることが出来たのは安心した。そして、神無もすぐそばにいることに驚きはしたも、やっぱりと思うところはあった。
羽衣狐と対峙する弟の姿に、ぎゅっと胸が締め付けられる。
「リクオ…」
「…なぁ、緋真」
「!…どうしたの、お父さん…」
一体、また一体と妖怪を倒すあたしにお父さんは声を掛けた。まだまだ余裕のある様子で、流石お父さんだなぁと思ってしまった。それにしても、羽衣狐のもとまで向かうのはしんどい。まだまだ京妖怪があたし達を邪魔するのだから。
「リクオの元まで行きたいか?緋真」
「!」
その言葉に迷うことなくお父さんを見た。片目を閉じ、にやりと笑うお父さんにあたしはそっと視線を逸らす。
行きたい。
そう思っているに決まってるじゃない。リクオの傍で、リクオの闘いを見守りたい。でも、あたしの力では不足で、邪魔にしかならない。足手まといだ。
一体、また鬼を倒す。
「自分がしたいようにしろって、神無に言ったじゃねぇかお前ェ」
「そ、れは…」
「俺からお前にも、そう言ってもいいんだぜ?」
「……」
お父さんは何がしたくてあたしにそんな事を言っているのか分からない。けれど、お父さんも何かに気付いているし、この闘いには何か裏があるって事も分かっているのだろう。
あたしにとっても、リクオにとっても、そして、お父さんにとっても。
「…お父さん」
「何だ?」
「リクオのところに、行きたい…」
なにができるのか分からない。
でも、少しでも近くに行かないと駄目だってのは分かる。リクオが真実を知るその瞬間をあたしも傍にいないといけない。
お父さんをじっと見た。剣が交える音、轟音や斬撃で足元が揺れるけれど、気にしない。
「…緋真」
「!」
「離れんじゃねぇぞ」
お父さんはそう言って、あたしの手を握ってくれた。
「…うん!」
応えるように、握る手に強く力を込めた。
(リクオside)
「いくぜ、黒…!!」
黒に言われて、黒自身を畏砲として放った。幾千の刀が羽衣狐に向かって放たれた。自分の中から黒田坊が離れていくのが分かる。
サンキュ、黒…!
「!!鬼纏!!経ちは間に合わん…!!気をつけなされ!!二人おりますぞー!!」
下の方で怪我を負った鬼童丸が羽衣狐に注意するように言っているが、もう遅ェ。羽衣狐は自分に向かってくる黒の鬼纏を鉄扇や九尾で振り払い、自分に届かないようにした。
その懐にスキが生まれた。
羽衣狐が俺に気付いたが、それよりも前に鏡花水月で羽衣狐の懐へ行って、祢々切丸を届かせる。
土煙が晴れる。
誰もが届いたかと思ったはずの俺の一閃に手ごたえはなかった。
「お前の祖父も…、同じような小細工をしてきたなぁ…?妾には二度同じことはきかぬぞ」
鉄扇で塞がれた祢々切丸を引き抜こうとするが、突っかかってて抜けねぇ。
コイツ、ワザと隙を作りやがったのか…!
九尾の一つから刀が出る。
「“三尾の太刀”」
まずい。
そう思ったがすでに遅かった。自分に振りかざされた太刀。とっさに鏡花水月で認識をずらすが、右腕を斬られる。
「この刀でお前らの血を絶やすこと夢見てきたわ!!」
斬撃の衝動で鉄扇から刀が抜かれる。すぐさま突きがきた。
「生き胆を頂くぞ」
羽衣狐は俺の心臓を突いたと思っているが外れだ。ギリギリで刀を素手で受け止めたから。
「おかしいのう…。心の臓をつらぬいたと思うたがな…」
刀身についた俺の血を拭い、舐める羽衣狐。
「ぬらりくらりとやりすごしおって…。血も生き胆も喰ろうてやるというのに」
鬼纏を終えた黒田坊が俺の名前を呼んだような気がした。お前は鬼纏の後だから思うように身体が動けないはずだろ、じっとしていやがれ。ゆらが陰陽師を引き連れて俺の下へ行こうとしてくれたが、それを止めさせる。
ボロボロになった着物はかえって邪魔だ。右腕も深く斬れちまったか、血が止まらない。けど、腱を斬られなかったのは幸いだった。
「よぅ、あんた。いつから羽衣狐になったんだ?」
ずっと気になっていたことが口から零れ出た。
俺に切っ先を向け警戒する羽衣狐と少女がまた重なって見えた。
「人間のあんたに質問してんだぜ」
なあ、俺の質問に答えてくれや。
(リクオside終)
「…!」
「?どうかしたのか、緋真」
ふと感じた気配、いや、畏に冷や汗が止まらなくなった。
「…急ごう、お父さん」
間に合うか、いや、間に合わせる。
「早く、リクオ達のもとへ…!」
アイツを復活させる前にリクオ達のところへ…!
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