影と日の恋綴り | ナノ
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 罠

羽衣狐の命に京妖怪が本気になって、あたし達に刃を向けてきた。

「き…きた……」
「気のせいか、増えてやがるぜ!?」

その数はさっきまで戦っていた数の倍を優に超えていた。戦闘態勢に入った敵にあたし達も再び武器を片手に構えた。京妖怪は敵だと判断した者を皆殺しするのは明白だった。

「“守れ”ってのは、どういうこった?」
「!!」
「“鵺”って闘えねーのかい?」

リクオの純粋な疑問に十三代目は暗くなりかけていた表情を明るくした。
まだあたし達の勝機はあった。

「そ……そーやきっと!!守れってことは…まだ無理なんや!!あの状態ではまだ完全ではない……。鵺は本来人なんやから…!!まだ止められる!!その祢々切丸と……破軍さえあれば!!」

十三代目が目を向けた先には、あたしの弟のリクオと、友達のゆらさん。リクオもゆらさんも互いに顔をあわせる。
この二人がこの戦いの鍵人。この二人をなんとしても羽衣狐のもとへ向かわせて、二人の力を合わせて再び倒さなければならない。
そうとなれば、あたし達の仕事は既に決まっている。

「!リクオ、ゆらさん、後ろ!!」

リクオ達の背後から鬼神の如く刃を振り下ろしたのは茨木童子。間一髪。二人は攻撃を避け、首無が黒弦で動きを封じる。

「リクオ様を!!守れ!!」

守る。
それだけじゃ駄目。
スゥ、と息を吸って、喧騒に負けないくらいの声を張り上げた。

「奴良組に告ぎます!リクオと、花開院ゆらを、羽衣狐のもとまで道を作り、援護しなさい!!!!」

それがあたし達の仕事だ。
京妖怪の攻撃を結界で防御し、リクオとゆらさんの道を作る。

「姉さん…!」
「緋真ちゃん…!」
「大丈夫。二人は絶対に守る。…リクオ、ゆらさんを置いてっちゃダメよ」
「…ああ!」
「ゆらさん、最後まであきらめちゃ駄目よ」
「うん!!」

にこり、と笑顔を浮かべて安心させ、あたしも自分の戦いへと集中させる。リクオはゆらさんに「しっかりついてこい」と言っているのが聞こえた。もう、女の子のリードがなってないんだから、と思っていると、お父さんが傍で「よく言ったな、緋真」と褒めてくれた。それに嬉しく感じながら、もう一人、あたしの傍にいる彼女に声を掛けた。

「神無」
「何でしょうか、緋真様」
「あたしからの命令」
「!…はい」
「自分の優先すべきことをして」

敵から目を逸らさずにそう言えば、神無が驚いたのが見えなくても分かった。こんなことを言うけど、きっと神無はあたしを守る事が最優先だと思う。でも、それじゃ駄目な気がした。

「神無がしたいことを、絶対にして」

また京妖怪を倒す。
凛としたあたしの表情を見て、神無は「御意に」と言って、やっぱり何か気にすることがあったのかすぐにあたしから離れた。
自分に素直に、正直に動いていいんだから。
土蜘蛛の時のように。

「緋真、神無を行かせたって事ァ、自分で自分の身を守れって事だからな」
「…それくらい、分かってる」
「そうか、よ!」

お父さんの言葉に力強く頷いて、あたしは札を手にした。

「降臨諸神 諸真人 殺鬼万千 却鬼延年 急々如律令!!」

韋駄天の如く、霊力を与えられた札が目の前まで迫ってきた京妖怪を滅した。耳を劈くような野太い悲鳴に顔を顰めながら、あたしは自分に襲い掛かる京妖怪を倒す。

「(リクオ達、上まで向かってるかしら…!)」

本当は自分も上まで行きたい。もっとリクオの力になりたい。
けれど、自分の限度を考えるべきだと分かっている。

「っ、邪魔よ!!」

わらわらと蟻のように群がる京妖怪に嫌気が差して、“鏡花水月”を使ってスキをついて一網打尽に。何度も耳にする悲鳴を聞きながら。
続けざまに攻撃をしたからか、息が弾む。呼吸を整えるようにしながら上に目を向ければ、目を丸くした。

「え…」

衝撃的な光景だった。
誰もがその光景に戦いをやめ、口を開ける。片目を閉じて、ぬらりくらりと敵の攻撃を躱して倒していたお父さんも、両目を見開いていた。

「玉砕覚悟か…。あわれな男だ…。お前の出番はとっくに終わっていたのにのう…?」
「秋房義兄ちゃん!?」

羽衣狐の尾に心臓を貫かれ、身体を重力に身を任せている彼は、ゆらさんのお義兄さんの秋房さんだった。

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