影と日の恋綴り | ナノ
×
「#オリジナル」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -

 誕生

鬼纏には方法がいくつかあると黒田坊は言った。リクオが氷麗を鬼纏った手段は“畏砲”。威力はあるけれど、スキが大きいという。

「まっすぐ向かってくるような奴には効果覿面。だが、」

話の最中だというのに、鬼童丸は黒田坊に攻撃を仕掛けた。それを“暗器黒演舞”で難なく防いだ黒田坊は流石だと思わず感心した。
黒田坊は戦いながらもリクオに説明を続けた。
鬼童丸のように手数を信条とする者には不向きであると。
鬼童丸のスキをついて、逆に鬼童丸の剣戟を防いだ黒田坊のその戦い方に、氷麗は凄い、と呟いた。あたしも思わずその舞に見入ってしまうほどだった。
けど。

「リクオ!氷麗!後ろ!!」
「貴様がぬらりひょんの孫か」

リクオと氷麗の背後から茨木童子が仏斬鋏で攻撃をしたことで、悠長していられなかった。リクオと氷麗がすぐさま攻撃を防ごうとしたけど、それよりも前に、茨木童子の攻撃を阻止した者が。

「ああ…?誰かと思ったら、まだ生きてやがったのか…。この死にぞこないのクソ虫野郎」
「黒!!リクオ様を頼んだぞ!!」
「首無…」

茨木童子の動きを封じ、自分自身に集中を向けさせた首無は黒田坊にそう言った。

「リクオ…」
「緋真、てめぇの心配をしろ」
「!」
「つっても、俺が指一本触れさせねぇけどな」
「お父さん…!」

リクオ達の戦いを心配しているから、自分に近付いている鬼に気付かなかったあたし。"鏡花水月”で相手のスキを突こうとする前に、お父さんに助けられたけれど、自分の事を忘れてしまってはいけない。
リクオの事は首無や黒田坊に任せよう。
彼らにもそう言われたんだ。

「あたしは、あたしのやるべきことをする…」

自分自身にそう言い聞かせて、あたしは次から次へと武器を片手に襲ってくる鬼達を滅するのだった。

「っ…」
「緋真様、大丈夫ですか…!?」
「大丈夫…無茶してないよ」

肩で息をしていたあたしに声をかける神無。心配してくれた事は嬉しいけれど、そんなに非力じゃないことであるのは知っていて欲しい。そりゃみんなより弱いけれど。
何度か深呼吸をして、呼吸を整える。どれくらい経ったのか分からない。ただただひたすらに自分達へ攻撃してくる鬼達を倒していると、突然の地響き。

「!」

嫌な予感がした。
ふとリクオの方に視線を向ければ、羅城門の屋根で鬼童丸に刃を届かせた瞬間だった。黒田坊を鬼纏っているのか、彼の姿は見えない。
嗚呼、立派になったのね…。
思わず感慨深い気持ちが湧きあがってきた。でも、そんな事を言ってられる時間はなかった。

「……、長かった…」
「!」
「時間は多く過ぎ去った。今の“時”…千年の長さに比べればほんの僅かなれど…。この“時”を守れて、“本望”だ」

鬼童丸の思念に生まれた空間が、消えた。

『!?』
「!」
「わっ…危ねェ!!」
「きゃっ…」
「緋真様!」

突如、床が盛り上がって、何かが浮上してきた。板が壊れ、外れ、足場が崩れ去る。バランスを崩してしまったあたしは、慌ててその場所から逃れようとするが、それよりも前に、それがどんどん上がってくる。神無に手を掴まれ、事無く避けることが出来たけど、見えたのだった。

「っ!!」

浮上するそれと一緒に上昇した羽衣狐の姿を。
弐條城の床を突き破り、上へ上へと昇っていたそれ。あまりの光景に、敵も味方も、それに目を向けた。
お父さんもただただ驚いていた。

「っ……」

ただ、その驚きの意味は違うとあたしは思った。

「あれが、我らの望むものだ……!!奴良リクオ」
「(間に合わなかった…!?)」

重傷を負いながらも鬼童丸は勝ち誇った様子でリクオに言った。けれど、その言葉に返す余裕すらなかった。
あたし達は、リクオは、鵺の出産を阻止するために此処まで来た。それなのに、今、目の前に、羽衣狐は現れ、見たことのない大きなそれに茫然と立ち尽くすしかなかった。
静かになりつつある弐條城で、羽衣狐の声は透き通っていた。

「妾は、この時を千年――待ったのだ。妖と人の上に立つ…、鵺とよばれる新しき魑魅魍魎の主が今ここで生まれる。皆の者…、この良き日によくぞ妾の下へ集まった」

神々しいその姿に静まる京妖怪達。
しかし、あたし達は羽衣狐の言葉に不可解だと顔を顰めた。

「京都中から――そしてはるばる江戸や遠野から妾たちを祝福しに。全ての妖どもよ…大儀であった」

その言葉に私たちは声を発するのを忘れかけた。けれど京妖怪達は数秒遅れて、歓喜の雄叫びをあげるのだった。それがまた羽衣狐には祝いの声だと悦ぶ。

「お父さん…」
「…本当、アイツそっくりだな」
「っ」

お父さんの裾を掴む手に力が入る。
嗚呼、やっぱりお父さんは重ねて見えているんだよね。だって、あの人そっくりだもの。いや、瓜二つ。あの日からずっと忘れていないのは、分かってる。
お父さんが何かをずっと思っている事なんて。

「緋真」
「…なぁに?」

お父さんの方に顔を向ければ、お父さんはあたしを見ていた。
その目は雄弁に語っていた。

「あの日の真実、今ここで明らかにするからな」
「…うん」

リクオも知りたがっていた真実。
お父さんもずっと気になっていたあの人の事。
全てが裏で糸を引かれていたと知れば。

「あたしは、止めない」
「さぁ……守っておくれ。純然たる…闇の下僕たちよ!!」

あたしは見届けるしかない。

prev / next