影と日の恋綴り | ナノ
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 羅城門

「フン…。昔、京妖怪と江戸妖怪の違いを“火”にたとえた奴がおったな」
「…」

何かを思い出し笑う鬼童丸の言葉を待つ。

「“畏”という名の火薬を使い、闇に華をさかせて、人を魅せる“花火”が江戸の妖怪だと。一方で我々の“畏”は闇に燃える“業火”…、全てを焼き尽くし人には“恐怖”を与える…。しょせんは――相容れぬ存在というわけだ」

そう言うやいなや、鬼童丸は畏れを発動したのだった。

「いでよ、羅城門」

ブワリ、と彼の膨大な畏れがあたしたちを包み込んだ。弐條城の廊下が、あたしたちの周りが真っ白な光景になり、驚く。見渡しても、白、白。

「緋真様」
「うん、大丈夫。…ちゃんと警戒する」

騒めく奴良組の妖怪達の中、神無が心配と警戒を込めてあたしの名前を呼ぶ。それに応える意味で、手に札を持ち辺りを警戒した。
そして、その真っ白な景色の奥向こう。ゆらゆらと立ちめくそれに、あたしたちの目は釘付け。ぼんやりとしていたものがくっきり見え、それはかの有名な小説にも出ていたものに似て非なる建物。

「弐條城はこの世のものではない。我ら京妖怪の積年の怨念が産んだ幻の城だ。我らの思念通りに変化する。ここはかつての我々の住み処――羅城門!」

つまり、この光景も空間も、彼ら京妖怪の思念によって変化するもの。あたしたちは彼らの幻術に嵌っている、と思ってもいいのかもしれない。警戒を解くことはなく、殺気を込めてこちらを見ている鬼達を睨みつける。

「鬼の頭領であるこの鬼童丸が此処で貴様らを葬り去る」

そっと刀に手が置かれた。羅城門からぞろぞろで出てくる鬼達に、あたしたちも武器に手を添える。

「ためしてみよう……」

スゥ、と目を細める。

「貴様らの畏と我らの畏…。どちらが京の闇にふさわしいか」

その言葉に戦いの火蓋は切って落とされた。

「!!」
「大量に来やがったぞ!!」

首無が、淡島が、奴良組の皆が、いっせいに戦闘態勢に入った。燈影もリクオと盃を交わした者として前線で戦いを始めた。

「へぇ、面白そうじゃねぇか」
「お父さん気楽すぎる…」
「楽しくてなんぼだろ。緋真、お前は離れるな」
「…うん」

神無もあたしのもとに極力京妖怪が来ないように戦ってくれる。お父さんも楽しそうにしているけど、絶対に前に出ようとはしなかった。
守られてるんだなぁ。なんて思うと、嬉しい反面、まだ一人前とは見られてないなんて思うと悔しかった。けど、実際あたしはまだまだ弱い。そもそも、刀を持っていないのだ。扱えるか分からないけれど、私が使っているのは真言とお札くらい。ぬらりひょんの御業である【鏡花水月】や【明鏡止水】は使えるけど、ただ逃げるだけに使っているようなもの。
この戦いが終わったら、誰かに刀の使い方教えてもらおう。

「死ねェェエ!!」
「弱いって思われるの、ムカつく!」
「ギャァァア!!」

スキを狙って鬼が来たけど、難なく滅した。お父さんがそれを見ていたのか「やるじゃねぇか」とか言ったのが聞こえた。
リクオ達は大丈夫なのかな。
思わずそっちへ目を向けると、氷麗がリクオに支えられていた。

「氷麗…?!」

なにが起きたのか分からず動揺する。きっとリクオは氷麗と鬼纏をしようとしたのだけれど、阻まれてしまったようだった。何かを思い出したように、鬼童丸は言った。

「そうか、おぬし。父親の業をも身につけたか…」
「…親父を知っているのか!?」

驚くリクオ。お父さん、鬼童丸と戦ったことあることに対してだろう。あたしも驚いている。京妖怪と戦った事があるのだろうか。
チラリとお父さんを見ると、いなかった。

「…え?お父さん!?」
「よぉ。久しぶりじゃねぇか、鬼童丸」
「!?」

あたりを見渡したあたしの耳に聞こえた言葉。バッと、声がした方向、つまりリクオの方に顔を向けると、変わらず飄々とした態度で立っていた。いつの間にそっちへ行ったのか気付かなかったのはあたしだけじゃなくて、神無やリクオだって驚いていた。

「親父!?」
「貴様…奴良鯉伴…!!」
「どーよ、俺の息子は。ずいぶんと驚いているようだけどな」
「…忌々しい…。貴様とは何度も畏をぶつけあったが、貴様の子もやはり侮れん…」
「へぇ、リクオを認めたってわけか」

鬼童丸の言葉にニヤリ、と人を舐めてかかるような笑いを浮かべたお父さん。しかし、刀の切っ先を決して鬼童丸に向ける事はしなかった。
まるで鬼童丸と戦うのは自分じゃない、と言っているかのようだった。

「貴様の子をワシの本気の畏で、ここで…“断つ”!!」
「へぇ、やってみろよ。…なぁ、リクオ」

ゆらり、とお父さんの身体が揺れる。
鏡花水月だ。
それと同時に鬼童丸が動いた。

剣戟・梅の木

鬼童丸の畏がリクオに向かってきた。無限に広がる枝葉のごとき剣は、リクオの反射速度を優に超えてしまい、防ぐことが出来なくなっていった。このままじゃリクオが傷を負ってしまう。結界を張って助けようとしたあたしは一歩足を進めた。

「ご安心ください、緋真様」
「!…くろ、」
「リクオ様は俺達がお守りしてみせます」
「くびな、し」

あたしより早くに彼らは動いてくれた。黒が“暗器黒演舞」で、首無が黒弦で、鬼童丸の剣戟を止めた。

「リクオ様…、“鬼纏”を習得なされていたのですね。いやはや驚きました…。齢十二にしてこの成長振り」

リクオを見た。

「だがまだまだ不慣れなご様子」
「!」
「御教授しんぜよう…」
「鬼退治は、我らと共に!!」

黒田坊、首無はリクオの盃を交わした者として、武器を構えそう言ったのだった。

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