影と日の恋綴り | ナノ
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 失いかけたくない

鬼一口とサトリを倒し、門を開けたリクオ達を待っていたのは…、

「おう、リクオ」
「親父?!…と、」
「やっほー、リクオ」
「姉さん!?」

あたしとお父さんだった。
自分達よりも先に弐條城へ入っていたあたしとお父さんに驚きを隠せないリクオや神無達。納豆小僧達は、本家で留守番しているはずのお父さんがいて、そりゃとってもびっくりしてた。

「二代目?!」
「鯉伴様!?」
「お嬢!!」
「緋真嬢?!」
「緋真様っ」
「な、なんでここに…!」
「ふふ、驚きすぎ」

動揺するリクオにあたしは近寄り、頬に手を当てる。土蜘蛛と戦うために牛鬼と修行してできた傷や、土蜘蛛と戦ってできた傷が痛々しくて、我慢できなかった。小さく息を吸って、手に力を込めた。掠り傷程度かもしれないけど、それでも、治って欲しい。
跡形もなく消えた傷に安心し、後ろに控えている氷麗を見てほっとする。

「…氷麗を無事に取り戻せたみたいね」
「…、…あぁ」
「良かった。氷麗も無事のようだし、安心したわ」
「姉さんも。…親父と一緒だったんだな…」
「うん。お父さんとかるーくだけど京都を散歩してたの」

伏目稲荷から始まって、ぶらぶらと京都の町を徘徊。時々、人間を襲う京妖怪を見つけては倒して、またぶらぶら散歩。八つ橋が美味しそう、とか京都の宇治抹茶って美味しいよね、なんてお父さんと話しながら弐條城へと向かったのだった。
今更考えたら呑気だな、あたしとお父さんは。

「姉さん」
「ん?」
「…燈影のことなんだが…」
「大丈夫」
「!」

燈影が奴良組から抜けた事を心配するリクオ。でもね、そんな心配は必要ないの。微笑み、リクオの手を握って言った。

「燈影は帰ってくるよ。心配しなくても、燈影はちゃんと奴良組を見てるから」
「…、…姉さんは本当に燈影の事が好きなんだな」
「あらリクオったら、ヤキモチ?」
「そうだな。まだ姉さんを燈影にとられたくねぇかな」

笑うリクオに嬉しくなった。昼のリクオも何かと構ってちゃんだった気がしたけど、夜のリクオもそうみたいで、なんだか嬉しい。ちゃんと、あたしのことを姉として見てくれてるって分かるから。こういうのがシスコン、ブラコン、というものかな。でも、別に嫌じゃなかった。
今まで、離れた空白の時間が長いからかもしれない。

「…リクオ」
「ん?」
「無茶は、しないで」
「…」
「もう二度と、家族を失いかけたくないの」

お父さんを失いかけ、リクオも失いかけた。

「…それは、姉さんだって同じだ」
「!」

その言葉にリクオを見た。じっと、真剣な表情であたしを見るリクオに、息が止まる。リクオが思い出しているのは、きっとあの日の事。

「あの日に何が起きたのか、俺は知りたいんだ」
「リクオ…」
「断片的だが、覚えてる。真っ赤に染まった姉さんがお父さんに抱かれているのを。お父さんがいながら、何で姉さんが死んじまったのか。俺は、それを知りたい」
「っ…」

あの日の事を知ってしまえば、全てを知ったようなもの。
これは通らねばならない道なんだ。

「…だから、俺は羽衣狐と決着をつける」

なら、それを止めることなどあたしにできるわけないじゃない。
小さく息を吐き、お父さんを見た。小さく頷く。お父さんも止めるつもりはないみたいだ。

「なら、あたしは見守る。あたしだって、守られっぱなしなんて嫌もの」
「けど、姉さん…!」
「リクオ」
「!」

あたしより背の高い弟を見る。

「お姉ちゃんを、甘く見ちゃ駄目よ?」

にっこり、と有無を言わさぬ笑みを浮かべれば、リクオは何も言えなくなる。だってそうじゃない。まるであたしは弱いって言おうとしたのよ。失礼ね、ホント。確かに土蜘蛛の時はやられそうになったけど、リクオだってやられかけたじゃない。リクオみたいに力があるわけじゃない。でも、あたしはあたしなりの事が出来る。

「だから、過保護な扱いはしないでね」
「…お、おう…」
「リクオのねーちゃん、おっかねぇな…」
「あんな緋真様、今まで見た事ないですわ…」
「いや、…ああいう態度はよく二代目に対してやっていらっしゃる…」
「ふふ、確かに。緋真様、二代目に対しては妙に辛辣ですもの」

皆がなにか言ってるけどあえて聞かなかったことにしてあげよう。あたしは寛大だからね。

「いってらっしゃい、リクオ」
「…おう」
「気をつけろよ、リクオ。羽衣狐は強ぇ妖だ。…絶対死ぬんじゃねぇぞ」
「おう」

あたしとお父さんから言葉をもらい、リクオは弐條城へと入っていった。

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