影と日の恋綴り | ナノ
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 サトリと鬼一口

感じる百鬼の畏れ。その先頭に立つ主は、幾分か成長した様子だった。ゆらり、と風に乗り流れる髪を視界の端に入れ、眼下で戦う彼らの様子を見る。

「…どれくらい成長したのか、見せてもらうぞ」

ゆるりと笑い、闇に溶けるようにして姿を消した。



「ぬらちゃんの孫!!この城のどこかに鵺ヶ池っちゅーのがある。そこが羽衣狐の出産場所や!」

秀元が声を上げ言った。京妖怪と奴良組の妖怪が戦う中、貪狼に乗ったゆらから片時も離れない秀元は笑い言う。

「あんたならたどりつけるやろ。ぬらちゃんの孫…ならな」

語尾にハートマークがつくような言い方にリクオは「おう」と返事をし二條城へと続く門へと歩む。
その時だった。

「!!ぬらくん!!あぶない!!」

ゆらが突然叫ぶ。瞬間に感じた殺気と妖気。

「いかんな〜」

頭上から聞こえた声にリクオは持ち前の条件反射でなんとか躱す。頭上から聞こえた声の正体は大男、鬼一口だった。セメントごと食らういきおいの鬼一口に、リクオは祢々切丸を取り出し攻撃しようと構えた。

「彼奴め、祢々切丸をとりだそうとしておるぞ!そのまま横にふり回すぞ!!気をつけい!!」

別のとこから鬼一口に命令する妖怪の通りにリクオは鬼一口を横に切ろうとした。しかし、その言葉があってか鬼一口はスカ、とリクオの攻撃をかわした。

「よめる、よめる。なにしゆうかわかるぞ。やっぱり玄関から堂々入ろうとしょった。わかるわかる。わかるぞ…おぬしが次何するか手にとるようにな〜」

リクオを出迎えたのは心を読む妖怪・サトリだった。リクオは動きを読まれた事に驚くもののすぐに構え直す。するとサトリがリクオの心を読もうと一つの動きも残さず見る。

「みえる、みえる。先が見えるぞ」

ぴたり、と指を止める。

「おう?気をつけろよ…鬼一口。彼奴より“一刀両断の意志”を確認!はやてのごとく、来よるぞ!!」

サトリの言葉に鬼一口は素直に聞き、リクオの攻撃が来る前に口上から捩じるようにして避けた。下顎と上顎がつながる皮を切ろうとしたリクオだが、ゴムのように柔らかく弾かれる。この攻撃で、自分の心を読まれていると気付いたリクオはどう対処するか考える。

「フフフ………。見える…見えるぞ〜」
「………」

読まれるならばどうすればいいのか。リクオは考え、心を落ち着かせてゆっくりとサトリ達から認識をずらした。

「“鏡花水月”。勝負どころじゃな」

サトリはすぐに分かり辺りを警戒した。

「まどわされるな鬼一口!アレは幻―…こやつ畏でそこにいるように見せかけているだけ!!」
「ほう」
「!」

くるり、と橋の下へと目を向けたサトリは続けて言った。

「感じた…!!“うしろにまわり稲妻のごとく刺す”。橋桁じゃ!!」
「!!」

畏を断ち切られ姿を現すリクオは驚く。これも読まれるとは思わなかったからだ。リクオを認識した鬼一口はその口を大きくあけて橋ごと食う。着地しようとした場所を食われ別の場所へ着地しようとしたリクオの足元が突如崩れる。見えたのは大きな歯。

「くそっ」

食われかけそうになりつつもなんとか脱出する。

「ひきょうは〜いかんなぁ〜」
「ひきょうではないぞ鬼一口。それがぬらりひょんの特性…"覚”と同じく妖の技。まぁこやつの曽祖父は、欲深で卑怯な男じゃったがの…」
「何…?」

懐かしそうに話すサトリの言葉に思い当たる節が無いリクオは聞き返す。サトリはニヤニヤ笑みを浮かべて言った。

「珱姫…。あれは美しい女であったなぁ…。お前にもかすかに面影はあるようじゃ。何をキョトンとしている?お前の祖母じゃよ」

微かに珱姫の面影があるリクオを前に、サトリは自分達がした役目を話す。

「思えばワシらは…、四百年前も美しい姫を何人も羽衣狐様にささげてきた。それがついに今…実を結ぶ時がやって…来たのだ…」

ゆっくりとリクオに近寄るサトリと鬼一口。祖母の話をぬらりひょんから聞かされていないリクオ。しかし、四百年も前から人と妖の領分を侵入していた事だけは分かり、怒る。

「…そーやって…ずっと罪もねぇ人間を殺め続けてんのか……?」
「だから何だ?」

それが大義だから。鵺復活を目論む京妖怪の宿願のために、人を襲う。
リクオは心底理解できないことだった。

「…あきれた妖怪だっつってんだよ…」

手に握る祢々切丸に力が入った。

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