▼ 百鬼夜行、現る
ぬらりひょんを逃した。
鏖地蔵の言葉に、傍の血溜まりを見やり鬼道丸はぬらりひょんの始末は自分達でやるという。一方、羽衣狐の陣痛が始まり、鵺は数刻の後に出産する事を告げる。我らの“宿願”がようやく果たされる。喜びにやける口が抑えることは出来そうにない。
その時だった。
「ほ、堀川通りが……百鬼で…うまっています!!」
部下の言葉に下を見る。
「な…なんだこれは…」
うすら寒く感じる霧を纏い、一直線に弐條の城へと向かうの百鬼の背には『畏』の代紋。
関東大妖怪任侠一家奴良組の代紋だ。多くの百鬼を引き連れ先頭に立つのは初代総大将ぬらりひょんの孫であり、二代目鯉伴の息子である、次期三代目若頭のリク。
そんなリクオの脳裏には、幼き頃の思い出が浮かんでいた。
「リクオはそこで見てな。ほらてめぇら、行くぜ。出入りだ」
「リクオ…危ないから下がりなさい…」
「…行ってらっしゃい」
「おう。…いい子で寝てろよ、緋真」
「リクオはここに居て。動いちゃ駄目よ」
「え?なんで?お姉ちゃんどこかに行くの?」
「…リクオはあたしが守るからね」「(あれほど強かった親父がいたのに、姉貴を…誰が殺せたって言うんだ。あの時に何があった…!?)」
俺はそれが知りてぇ。
全てはあの日の桜の下で起きた出来事の真実を知るために。そして狐の因縁を断つために。決意したリクオの表情は凛々しく感じた。弐條の城の東大手門へ着いたリクオ達の前に現れたのは…。
「なんじゃいてめぇらぁぁ」
巨大な金棒を手にした二匹の鬼。この東大手門々番を任されたガイタロウとガイジロウという鬼兄弟。ひるむ様子のないリクオ達にガイタロウとガイジロウは脅す。
「おんどりゃここをどこだと思っとんじゃい!!ハァァン!!」
「弐條城だぞ、死にてぇのかくるるぁあ!!」
「…」
「何じゃいその目はぁぁああ!?何とか言えやごるぁぁあギャホー」
ガイタロウが金棒でリクオを薙ぎ払う。あっけなくやられたリクオに鬼兄弟は笑う。
「ひゃっひゃっひゃっなんじゃこいつは〜!?」
「皮みてえにベロンベロンになって消えちまったあ〜」
そう消えただけ。手ごたえがある、という認識をさせただけ。
「こっちだ」
「あん―?」
誰かに呼ばれ振り向いたガイタロウが待っていたのは重たい蹴りの一撃。簡単に吹っ飛ばされ、ガイタロウは川へと落ちる。思わずガイジロウが駆け寄る。どうやら鬼の目にはリクオの次の攻撃は映っていなかった。簡単に足を引っかけられ、鬼兄弟は川へ落ちたのだった。
それを背に、奴良組百鬼夜行は門を潜ったのだった。門が開いた事に驚き警戒する京妖怪達を前に、リクオは声を張り上げ言った。
「よぉく聞け、京の魑魅魍魎ども」
全ての妖怪達がリクオに目を向ける。
「奴良組とてめぇらの大将とは四百年分の因縁てぇやつが、ごっそりついちまってるみえてぇだが…この際キレイさっぱりと、ケジメをつけさせてもらいに来た!邪魔する奴ぁ遠慮なくたたっ斬って三途の川ぁ見せてやるから…覚悟ねぇ奴ぁすっこんでろ!!」
「…リクオ達、来たみたい」
「そうみてぇだな」
感じた百鬼夜行の妖気にあたしは呟けば、お父さんは笑って返す。じわり、と感じた畏れに隣を見れば父さんもウズウズしている様子だった。
お父さんも出入りに参加したいみたいだ。でも駄目。
「リクオ達はまだあたし達のいるところまで到着してないんだから、行っちゃだめだよ」
「分かってるよ。俺は子供か」
「遊び人の鯉さんってのは知ってるよ」
「ちょっと待て何で知ってんだ」
「お父さんにとっても困った色んな人が教えてくれた」
「首無か?紀乃っぺか?神無か?それとも燈影なのか?」
「…心当たりのある人が多すぎじゃないですか?」
ジト目で見れば図星のようで慌てて目を逸らされる。知ってた理由はそりゃ前世からという理由もある。けど首無たちからも教えて貰った覚えもあるから、お父さんは思い当たる節があるようだ。
「ま、それは後で問い詰めるとするか…。……緋真」
「…うん」
すぅ、と息を吐いてあたしは妖怪の姿になる。
「…」
≪交代したのに、人格はそう簡単に変わらないのね≫
「(昼も夜も、どっちも弟想いの家族バカって事じゃないの?)」
リクオと違って、あたしはもう一人の自分を受け入れている。捩眼山ではそりゃ驚いたし、動揺した。でも、結局はあたしなんだ。だから、否定なんかしない。
夜と昼、妖怪と人間、どっちで生きるかはまだ分からない。まだ考えるの先でいいと、もう一人のあたしが言ってくれたから。
≪派手にいこうじゃないの≫
「(いきたいけど、もともと戦闘タイプじゃないじゃないあたし達は)」
≪フフッ違いないわね≫
小さく笑い合い、あたしは前を見据えた。ゆっくりと近づいてくる弟達の妖気に、あたしは真剣な表情になった。
四百年分の因縁、今ここでケジメをつけましょう。
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