影と日の恋綴り | ナノ
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 売り言葉に買い言葉

「(河童達は上手く撒けたようね…)」

遠くへと去って行く三つの妖気に小さく安堵の息を吐く。
自分の業を使って此処へ来ても、首無と毛倡妓が危機的状況なのは瞬時に分かった。もしあのまま畏れを解かずに走って行ってたら、首無たちもあの怪我だけじゃすまなかった。
本当に良かった…。
ふと、蛇の如く溢れる殺気に私は警戒を強めた。私達に殺気を送っていたのは、京妖怪の鬼道丸。

「ウトチョロと…。鵺の誕生まであと四日を切っているというのに…。無駄な足掻きを、貴様ら…!」

十四代目の言う通り、彼らは守勢に入っている。徐々にではあるけれども、一つ一つ封印していけば、鵺復活を阻止する事が出来る。
此処で倒れるわけにもいかない。

「黒。貴方は半分鬼になってる方を頼むわよ」
「神無。お前は無理をするなよ」
「分かってるわ」

黒とそう言いあい、私は鬼道丸と対峙する陰陽師二人のもとへ空間を通って降り立つ。そして陰陽師娘の実兄である方に笑みを浮かべ言う。

「加勢させて頂きますね」
「…余計な手助けは要らん。と、言いたいところだが…」

少しだけ俺の嘘に付き合え。
そう告げて鬼道丸を見据える彼。なにやら策でもあるのだろうか、と思いつつも頷く。私の返事に満足したのか、彼は懐から数本の竹筒を手にする。
あれらが彼の使役。
先ほども思ったけれど、陰陽師娘共々彼らは水を操って式神を使役しているようだった。五行説であるなら、金により水が生じてそして火を消し止める。
そして生きていく上で必要不可欠なもの。

「(リクオ様のお話を聞く限り、彼の術式に嵌れば体液でさえも操るとのこと…。平和な世に生まれ生きてきた割には、珍しく攻撃的な術者ね…)」

名を、花開院竜二であったか。そう易々敵に回したくないけれど、相容れない存在故にそうも言ってられない。
小さく笑い、彼からの指示を待つことにした。

「フン。憎き奴良組…、とうとう陰陽師と共闘せねば我々に敵わんと思ったのか」
「……」

怪我を負った状態で吐き捨てるように言った鬼道丸。その言い方は奴良組が格下であるというっているようなもので、

「…あら、世迷言を…。どの口がそう言えるのだか…」

ふふ、と笑い声を漏らすが、私が鬼道丸に向ける目は冷たいものだった。
だって彼は、奴良組を蔑んだのですから。

「あな可笑しや。今までお前達に負けた事などあったのか?」
「なんだと」
「頭が固ければ理解も遅いか。…確実に潰せるのであれば、どんな手段とて暇ないわよ」

昔に縛られている疎い者とは違うのよ。

「…」

それは鬼道丸含めた京妖怪に対する侮辱の言葉。
じわり、と感じた殺気。怒りを抱いたとしても、私だって奴良組を馬鹿にされて黙ってられない。そもそも、先に喧嘩を売ったのはあっちだ。

「おい、神隠し」
「!」
「何勝手に敵を煽ってんだテメェは」
「…あら、それはすみません」

竜二さん、と呼べばいいのか分からないが、彼にそう言われ冷静になる。奴良組の事を馬鹿にされると、どうも頭に血が上ってしまう。欠点だな、と思いながらも謝れば「変なマネをすんじゃねぇ」と注意される。
貴方の部下ではないのですがね…。

「つーか、疲れたくねぇっての」
「あら、己の名が世に轟く絶好の機会だというのに…。竜二さんは面白い事を言いますね」
「興味ねぇんだよ」
「……」

見た目に反し、地位や肩書きに興味を持たない御人。
陰陽師娘に対する言動で勘違いしそうですが、どうやら竜二さんは勤勉で真面目で、理性を持っているようだ。

「…そうですか」

場違いではあるけれど、彼が少し気になった。

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