▼ 歳月を経て
陰陽師・百鬼夜行連合である神無達はらせんの封印の順で次にあたる第七の封印場所・柱離宮へと向かった。
「こっ…これは……」
そこで見た光景は、地獄絵図だった。
「ひっでぇ…」
「日本庭園がまるで地獄絵図だ」
「ゴ○ラでもあばれたのかよ…」
「……」
肉塊となり、首が無くなった京妖怪達の骸。木に、壁に吊るされた妖怪達から放たれる異臭に鼻を覆いたくなった。
「…封印された妖怪、かしら…」
蜘蛛のエサになったように見えるその光景を前に、神無はポツリと呟いた。その呟きを拾い答えたのは、
「京の古い妖怪の一つ、こんにゃく坊主だ。十四代目に封印の人柱とされた妖怪だろう」
「…」
ゆらの兄である竜二だった。
自分の傍に寄ってきた彼に驚く神無をよそに、竜二は辺りを見渡す。殺し損ねた京妖怪がいないかを確認し、そのまま彼は再び封印する準備を始めたのだった。
「すさまじい怒りを感じるな。強力な妖どもをここまでにするとは…」
殺された跡に触れ分析する秀元をよそに、黒田坊と神無は千切れ残った紐を手にして眉間に皺を寄せた。微かに感じる妖気から、誰がしたのか察した。
「首無の仕業だ」
「!」
「首無!?」
「首無がやったんかよコレ!?」
驚く奴良組の妖怪達をよそに、神無は深刻そうに呟いた。
「…首無、思っている以上に危ないわ」
「奴め…怒りで自らを見失ったか…」
「暴走してなければいいけど…」
第八の封印場所・伏目稲荷神社で垣間見えた首無の表情を思い出した神無は不安に目が揺らぐ。万が一のことを考え、毛倡妓に後を追わせたけれどももしあの頃に戻っていたならば彼は此処へ戻ってくるのかそれが不安だった。
「神無、黒」
そんな二人に声を掛けたのは河童だった。
「やばいんじゃね?首無の奴。このままほっとくとさ」
「………そうだな。急ごう」
「封印は陰陽師に任せます。…私達は先へ行かせて頂きますね」
秀元にそう告げ、神無は先へ急ぐ黒田坊と河童の後を追いかける。彼らの様子に、秀元は興味深そうに見ていた。
「(ちらほら大物っぽいのもおるみたいやなぁ。ボクが死んでる間に奴良組に入ったんやろうか。なんでこんな奴等があんな若いのについとんのやろ。なんや義理でもあるんかいな。…なんや奴良組。四百年後も変わらず興味ひかせる存在やな…)」
そして、ふと脳裏に浮かんだのは先の土蜘蛛での戦闘での事。
「(つんけんしてたひえちゃんが、まさかあの子のためにあそこまで力を出すとは思いもせぇへんかったなぁ)」
奴良緋真、という名の少女。ぬらりひょんの孫娘のようで、リクオ同様妖怪の血を四分の一引いている少女。
その彼女が土蜘蛛に狙われた際、燈影は今までに見た事のない焦燥感で彼女を助けたのだった。そして怒りが先立った攻撃を繰り広げる燈影の姿に、秀元は本当に彼が影法師なのかと疑いかけたのだった。
それくらい、燈影は変わったのだ。
一人の少女と出会って。
しかし、秀元は彼女の発している気に少しだけ違和感を抱いていたのだ。
「(彼女の生きている時間が、少しだけずれてるようにも思えたな…)」
微かに感じられた彼女の纏う気。ゆらや竜二でさえも気付かないくらい微々たるもので、秀元もついさっき気付いたようなものだったから。
「(四百年の間に何があったのか、色々聞きたいんやけどなぁ)」
ぬらりひょんが居ないのは残念だが、燈影がいるならば少しは話を聞けるだろう。そう思っていた秀元は未だ茫然と倒された妖怪達に目を向けているゆらに声を掛けた。
「ほーら、ゆらちゃん。此処の封印もさっさとして、次の封印場所に向かうでぇ」
「ふ、封印って…さっき竜二兄ちゃんがしてたやつか?!」
「そうやで。竜二から教えてもらいや」
ゆらの背中を押しながら、秀元は再び考える。
今度は奴良組の事でもなく、今の京都の状況を。
「(羽衣狐はもう鵺ヶ池に向かってるはずや。そして出産しようと更に生き胆を狙うてるはず…。…急がんとアカンな…)」
第一の封印場所・弐條城は捨てたも同然。すでに入城しているだろう。
「(まだ出産する羽衣狐は京妖怪達の最大の弱点。ぬらりひょんの孫が成長するのも、僕らが封印するのも時間の問題やな…)」
一刻も早く、京都を京妖怪から救うには彼らの力が必要だというのは秀元が一番分かっていた。共闘するのは難しいかもしれないけれど、式神でしかない自分の力では限界がある。
だからこそ、秀元は彼らに託していたのだった。
「(四百年前と同じように戦ってや…)」
再び繰り返される因果を断ち切ってくれることを。
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